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パラミタ・イヤー・ゼロ ~NAKED編~(第2回/全3回)

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パラミタ・イヤー・ゼロ ~NAKED編~(第2回/全3回)

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「甘いであります! そんなことでは女神は降臨しないであります!」
 踊りの輪の中心に、いつの間にか現れていたダンボール箱。その中から、テロリスト葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が一糸まとわぬ裸体で登場した。
 会場が思わずどよめいた。これは、アウトではないだろうか。
 しかし彼女は周りの視線など気にせず、堂々とハイナに歩み寄った。
「ねえ、今どんな気持ち〜? 資金無くして今どんな気持ち〜?」
 なんと吹雪は、ハイナの周りをぐるぐる回って挑発しはじめたのである。
 そんな彼女の様子を、慣れないダンボールを引きずってきた子分の墓場喜多郎が、固唾を飲んで見つめていた。
「葦原島の資産丸ごと溶かして今どんな気持ち〜? 八紘零に金盗まれて今どんな気持ち〜?」
「ぐぬぬ」
 ハイナのなかにみるみるヘイトが貯まっていく。
 そしてついに、彼女はブチ切れた。
「いい加減にするでありんす! 絶対に許さないでありんすよ!」
 ハイナもまた残りの服を脱ぎ捨てたのである。モロはダメとか言っておきながら自らその戒律を破り、吹雪に殴りかかった。
 そうこなくっちゃと応戦する吹雪。彼女たちはしばし拳で語り合う。
 ふたりの女税が全裸で殴りあう光景は、かなり異様だった。修羅場を見つめる喜多郎は感動しながらつぶやく。
「すごいぜ……。これが、真の裸踊り……」
 思わず、彼もまた全裸になっていた。


「あら。あんなところで、すでにお脱ぎになってるショタがいらっしゃるわ」
 退紅 海松(あらぞめ・みる)が目をきゅるるんと輝かせていた。
「さて私も、ショタを脱が……ごほごほっ。世界コイルを動かすために一緒に頑張りますわ!」
 彼女としてはいっこくも早くショタの裸を拝みたいところだが、肝心のニコラは世界コイルに執心している。ならばコイルを動かすため、ニコラにも裸踊りへ参加してもらうのが得策だろう。そうすれば海松とニコラ、ふたりの利害が一致する。
「そして葦原の財政を再建したら、裸のニコラ君とあんなことや、こんなこと……。ああっ! そんなことまで……!」
 妄想を爆発させる海松のとなりでは、金龍雲が静かに瞑想していた。九歳の少年でありながらなかなか壮絶な過去をもつ龍雲。目を伏せる彼の顔立ちは、あどけなさを残しながらも凛々しかった。
「ああ、金君も一緒に踊ってハスハスしたいですわ〜。こうなったら一緒に踊ってしまいましょう!」
 ショタの裸祭りショタの裸祭りショタの裸祭り……と繰り返しながら、海松は龍雲の服に手をかけた。
「ちょ、ちょっと海松さん……?」
 瞑想から醒めた龍雲が、驚いたようすで目を見開いた。
 しかし海松は抵抗する暇もあたえず、すぐに彼の服を脱ぎ捨て、全裸に剥いたのである。
「ああっ♪ 可愛らしいさくらんぼが実っていますわ。もう……私……収穫期ぃぃぃぃ♪」
 衝動を抑えきれなくなった海松が、龍雲を押し倒していった。


 だんだんカオスになっていく会場で、セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が大太鼓を抱えていた。彼は自分に言い聞かせる。これは、悪い冗談なんだ……と。
 しかし、すでに肌を露出した契約者たちがたくさん踊り狂っている。目の前の地獄絵図を見て、セリスは今起きていることが冗談ではないのを認めざるを得なかった。
 さらに彼のパートナーたちは、世界コイルの前で独自に動きはじめていた。
「――まあ。俺がどうにかできるような奴らじゃないからな」
 セリスは諦めの境地で、そう呟いたのであった。

「フフフフ……。ハイナよ。全裸のテロリストに嗤われるのも無理はなかろう」
 マネキ・ング(まねき・んぐ)が不敵に笑う。招き猫故に最初から裸のマネキは、素の姿で太陽がおっぱい作戦に参加していた。
「ラビットコインなどという仮想通貨よりも、我のアワビ養殖に投資すれば確実だったものを……」
 ちらりと世界コイルを見るマネキ。
「だが、なかなか気は効くようだ。こうしてエネルギーを確保するための装置を用意しているのだから。――パラミタ全土アワビ養殖化計画のためのエネルギーを、な」
 あろうことか。マネキは、世界コイルが自身の為に用意されたと思い込んでいるのだ。
「我のアワビ養殖の邪魔をする者よ! 汝らが何者であろうとも許されない! おとなしく世界コイルの前に跪くがよい!!」
 殴りあう吹雪とハイナにむけて、マネキが啖呵を切った。全裸で暴れまわるハイナからはすでにアワビに似たなにかがチラチラと見えてるような気がするものの、これ以上は本当にアウトなので書けません。
 マネキは、周りの契約者たちに向きなおった。
「さぁ! 世界コイルの元に集いし者共よ……。我のための贄となれ!」
「物騒だな。贄になれって、なにをさせる気だよ」
 おいおいと突っ込むセリスに、マネキはしたり顔で答える。
「もっと踊り狂うのだよ」
 なんてことはない。
 マネキはただ、より激しく裸踊りをするよう奨励しているのだ。
「……で? 音頭をとるために、俺がこの大太鼓を叩くと?」
「うむ。その太鼓の音色こそ、我がパラミタ全土アワビ養殖化計画の実現に近づく足音となるのだよ!」
「そうなのか……」
 セリスはもうどうにでもなれという気分だった。
「俺は便利屋にも、チンドン屋にもなったつもりはないんだがな……」
 半ば自棄になって、セリスは大太鼓を叩きだしたのである。

 太鼓の響きに合わせるように、吹雪とハイナがふたたび殴りあう。ふたりの死闘も佳境をむかえているようだ。
「これで――終わりにするでありんす!」
 ハイナが渾身の一撃を放とうとしたところで、願仏路 三六九(がんぶつじ・みろく)が仲裁に入った。
「ンフフフ……いけませんな。衆生救済のために、葦原島の神であるワタシが一肌脱ぐといたしましょう」
 と、普段からすでに脱いでいる三六九が言う。
「いいですか。この御神体の前では、葦原の民も、また相争う者も、皆ワタシを崇め奉らなければなりません!」
 彼は得意気に世界コイルを見つめていた。神を自称する三六九は、世界コイルが自分を祀るための御神体だと勘違いしているのだ。
 ンフフフと笑いながら、三六九は全身を輝かせる。これぞ神のご威光か!?
――いや。単に【洗礼の光】で発光しているだけだった。
 しかし三六九は、あくまでも神秘的な現象であるかのように振る舞っている。
「さぁ、ワタシの前では争いを止めましょう! この御神体へ誠心誠意を込めて、ワタシの現し身を奉るのですよ!」

 光を放つ三六九に、吹雪が対峙する。
「ふんっ。そんな輝きなど、自分の【秘密兵器】の前じゃ豆電球のようなもんであります」
「吹雪ねーさん! まさか、あれを使う気じゃ……?」
 喜多郎が驚くのも無理はない。彼女は前回、八紘零から秘密兵器を受けとっているのだ。
 奥の手を披露しようとする吹雪だったが――。
 いや待てよ。あの兵器を使うなら、もっとおいしい場面があるはずだ。
 そう考えなおした吹雪は、またあらためて出直すことに決めた。
「……今日はこのくらいにしとくであります。帰るでありますよ、喜多郎」
「う、うんっ」
「葦原のリア充よ――。運が良かったでありますな!」
 吹雪は捨て台詞を残すと、喜多郎といっしょに帰っていった。遠ざかるふたつのダンボールを、三六九がうなづきながら満足そうに見送っていた。


 平穏を取り戻しかけた祭り会場だが、ふたたび不穏分子が現れる。
「ヌハハハ! 我が名は正義の改造人間マスク・ザ・ニンジャ(ますくざ・にんじゃ)!! この世界コイルなるものが機能すれば、私の性能が3倍になるらしいな!」
 なにをどう勘違いしたのか。彼は世界コイルを、自分のための改造装置だと思い込んでいるのだ。
「コレはさっそく一肌脱がなくてはならないな!」
 マスク・ザ・ニンジャは、一肌も二肌も脱ぎ捨て、しまいにはマスク以外の衣装をすべて破りさってしまった。隠すべき部位の優先順位がおかしいニンジャは、顔以外をさらけ出したままコイルの前で仁王立ちしている。

 パートナーたちがボケ倒していくなか、セリスは太鼓を叩きながら思わず我に返る。
「こんなところで、俺はいったい何をしているのだろう……?」