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リアクション
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「なんだか外がうるさいですが、まあ、気にすることもないでしょぉ」
外で爆発音がしたような気がして、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が校長室にある執務机から顔をあげた。
「予算の件もいいですぅ。イコン関係の補充部品も、学校にある物は極力希望に添えるように手配するですよぉ。ただし、基本は通常型のアルマインの装備増強に回すですぅ。戦いは、数の方が大事ですからぁ」
遠野歌菜と月崎羽純が提出した予算書を見に、エリザベート・ワルプルギスが『認定』のハンコをバンと捺した。
差し迫った創造主との戦いの準備として、イーダフェルトの防衛を担当するイコン部隊への特別予算の申請書を遠野歌菜と月崎羽純は提出したのだ。イルミンスール魔法学校の生徒会としても、生徒のために、参戦するイコンへは十分な支援の約束を取りつけたいところだ。その計画書と、それにかかる予算を、まず提出してきたというわけである。
「私は創造主の許へとむかうですぅ。イーダフェルトの防衛は任せましたよぉ」
「はい。絶対に守り抜いてみせます」
エリザベート・ワルプルギスの言葉に、遠野歌菜は力強く答えた。
★ ★ ★
「結婚ねえ。よく、そんなにホイホイと決められたわよねえ」
なんだかちょっと呆れているように、リン・ダージ(りん・だーじ)が言った。
「まあ、勢いと言うかなんと言うか……」
そう言いながら、マサラ・アッサム(まさら・あっさむ)がストローをくわえてジュースをずずずずっと吸い込んだ。
明日は、マサラ・アッサムの結婚式というわけで、イルミンスール魔法学校の地下大浴場で女を磨きつつ、独身最後のガールズトークというわけである。
「まあ、勢いでというのは、大事なことのようでもあり、後で後悔することのようでもあり……。それにしても、年齢差がねえ……」
ペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)が、ホッと溜め息をついた。さすがに29歳差というのは……。相手の年齢は、マサラ・アッサムの年齢を軽く倍は超えている。
「まあまあ、ロリィなおじさまですわねぇ」
のほほんとチャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)が言う。
「ココのところはどうなのだ?」
人の姿をとっているジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)が、ココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)に訊ねた。
「どうなのだって……、うちはあたしの方が早いけれど、一応同い年だしぃ……」
「まあ、姐さん女房ですねぇ」
ココ・カンパーニュの言葉に、チャイ・セイロンが頬に手をあててポッとする。
「姐さん女房って……。こっちは、まだ結婚なんて……」
「まあ、結婚は人生の墓場って言うもんね。あたしは、まだまだたくさんのファンクラブの男の子たちを渡り歩くわよー」
なんだか分かったような顔をして、リン・ダージが胸を張る。
「だいたい、結婚なんて、そんなにいいもんなのー? ねえ、そうなの?」
たまさか通りかかった小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)を見つけて、リン・ダージがいきなり声をかけた。
「えっ?」
さすがに戸惑うものの、なんだか真剣なゴチメイたちのまなざしに、その場から逃げだせなくなってしまう。ちなみに、小鳥遊美羽とコハク・ソーロッドは、まだまだ新婚ほやほやである。
「ええと、結婚って……」
「結婚って?」
小鳥遊美羽の言葉に、ゴチメイたちが声を揃えると固唾を呑んだ。なんだか、もの凄い期待をされている。いったい、この状況はなんなのだろう。
「いいものよ」
ニッコリと微笑みながら、小鳥遊美羽が言った。ちょっと、いっぱいいっぱいだ。
でも、それに満足そうに、コハク・ソーロッドがうなずいた。それで、まあ、そういうことなのだろうと、ゴチメイたちも、なんとなく納得する。
「で、ひそひそひそ……」
「えっ、それはちょっと……」
突然円陣を組んで、女性陣がひそひそ話を始めた。一人、コハク・ソーロッドだけが蚊帳の外である。
「でも、ひそひそ……」
「都市伝説です! これだから、独身の小娘たちは、妄想ばかりで……。本当は……って、ちょっと、何を言わせるの!」
「じゃあ、確かめるしか……」
ギンと、ゴチメイたちの鋭い眼光がコハク・ソーロッドにむけられた。
「えっ?」
もの凄い寒気を感じて、思わずコハク・ソーロッドが内股になる。
「むいちゃえ!」
ゴチメイたちが、一斉にコハク・ソーロッドに襲いかかった。
「ちょっと、みんな、冷静に……」
唯一、実質旦那持ち状態のアルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)が、みんなに呼びかけたが、なんだか鬼気迫る様子に引き止められないでいる。
「きゃー、あなた、逃げてー!!」
思わず、小鳥遊美羽が叫んだ。
「あなた……。そうか、この言葉は、こういう時に使うのか」
思わず、マサラ・アッサムとココ・カンパーニュがメモを探す。
「いや、そういう使い方は……」
チャイ・セイロンのたっゆんと、リン・ダージのつるペタに挟まれたコハク・ソーロッドが律儀に否定した。裸の女の子たちにもみくちゃにされて、鼻血で真っ赤になっている。
「ちょっと、もう免疫できたって言ったのに、私以外の女の子で鼻血だなんて」
「これは無理だろ!」
いくら妻帯者とはいえ、限界はあると、コハク・ソーロッドが叫んだ。すぽぽぽーんの女の子たちにもみくちゃにされているのだ、男としてはなんという天国……、もとい、妻帯者としては地獄の状態である。
「さあ、そろそろ夫婦の生活というものを白状してもらおうか」
床に押しつけられたコハク・ソーロッドを間近から見下ろしながらペコ・フラワリーが言った。それを見あげたコハク・ソーロッドの出血がますます酷くなる。
「ちょっと待ったあ!」
そこへ、Pモヒカン族のスケバンが、なぜか割って入ってきた。もうすっかり、この大浴場に住み着いてしまっているらしい。
「正しい夫婦生活というものを、この私が伝授してやろう!」
なぜか、自信満々でPモヒカン族が言う。
「まず、夜になったら、穿いていたパンツを脱ぐ!」
すっぽんぽんの姿で、両手でパンツを広げて前に突き出しながら、Pモヒカン族が言った。ちなみに、これらのやりとりはすべて、倒れているコハク・ソーロッドを取り囲むようにして行われている。ローアングルからの視界に、コハク・ソーロッドの体内の保有血液量は危険域に達しつつあった。
「うんうん、それから?」
そこまでは、あながち間違っていないと勝手に決めつけて、ゴチメイたちと、なぜか小鳥遊美羽までもがうんうんとうなずく。
「そして、その脱いだパンツを旦那の頭に被せる!」
うんうんと、ゴチメイたちがうなずいて、小鳥遊美羽とコハク・ソーロッドの方をじっと見つめた。
「ちょっと待ったあ! そんなことしないわよ!」
なんだか、自分がそういうことをしていると言われている気分になって、小鳥遊美羽がPモヒカン族を思いっきりぶっ飛ばした。
★ ★ ★
「ああ、いい湯だなあ〜」
のんびりと流れるお風呂を楽しんでいたザンスカールの森の精 ざんすか(ざんすかーるのもりのせい・ざんすか)の頭上から、突如何かが降ってきた。
「あが!」
落ちてきたPモヒカン族とざんすかの頭が激突する。そのまま気を失った二人は、静かに流れるお風呂を流されていった。