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リアクション
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ここ、パラミタ内海は、いつもとは違って、大変な賑わいを呈していた。
普段は、釣り船ぐらいしか浮かんでいない水面に、大型戦艦が大挙して集まっていたからだ。
「まったく、いったいなんの騒ぎだ?」
さすがに、この大艦隊と出くわすのはまずいと、内海に浮かぶ島影に隠れながら、シニストラ・ラウルスが様子をうかがっていた。
「海賊狩りという感じじゃないけれど……」
かといって、迂闊に動くのはまずいでしょうと、デクステラ・サリクスが言う。
「そうだな。部下たちには、大人しくしておくように言っておこう」
そう言うと、シニストラ・ラウルスは部下たちを呼び集めた。
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「せっかく、ニルヴァーナで華々しく式を挙げようと思ったのにねえ」
残念そうにローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)がぼやいた。
今日は、ホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)とマサラ・アッサムの結婚式なのだ。観光やらなんやかやも兼ねてニルヴァーナで行おうと思っていたのだが、思いもかけずにストップがかかった。
直前になって、シャンバラ国軍の使いとしてジェイス・銀霞がやってきたのだ。
多数の大型戦艦が参加するため、当然シャンバラ国軍にも連絡はいっている。実際、プライベートな結婚式でこれだけの艦船を集めるのはいろいろと問題があるため、基本は観艦式という名目で大義名分を作っている。来るべき決戦に備えて、共同戦線をはるエリュシオン帝国へのお披露目という形だ。そのため、エステル・シャンフロウ(えすてる・しゃんふろう)宛にも招待状が出ていた。
ところが、雲海での決戦を控えているのに、これだけの戦力をニルヴァーナへ移動させると言うことにストップがかかった。もしも、ゲートを破壊されたら、貴重な戦力を使用不能にされることになる。もちろん、それに気づかない敵であるはずがない。そのため、金鋭峰からの直接命令として、ジェイス・銀霞が渡航禁止の命令書を持ってきたのだった。
だが、逆に艦隊集結は都合がいいので、パラミタ内海に場所を移すようにと指示されていた。
「仕方ない、というよりは、当然の判断でしょうな。むしろ、ここは初期の予定を利用して、ここに集まるのは帝国の艦船だというふうに情報操作いたしましょう。シャンバラの主力艦隊はニルヴァーナにいると。さすれば、敵の目標を分散できます」
「今日の主役であるそなたが、そこまでする必要はないと思うがな」
ホレーショ・ネルソンの言葉に、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が言った。
「それに、それでは、ゲートを明確に敵の攻撃対象にしてしまうのではないか? こちらとて、そこに必要以上の守備隊を割くわけにはいかぬぞ」
「その点はぬかりなく。そちらへは、集団作戦行動に適さないパラ実などの一部戦力がむかうようにし、他の部隊の統制を乱さないように隔離します。その上で、遊撃隊として自由に振る舞ってもらい、敵のおびきよせと攪乱を担ってもらいます。また、布陣的にも、イーダフェルトを狙ってくる敵主力の側面から進軍することとなり、半包囲の陣形をとれるでしょう。すべては、適材適所ということであります、陛下」
グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーの疑問に、ホレーショ・ネルソンが淡々と説明した。この程度の戦略では、策と言うのもおこがましい。
「ちょうど、このあたりには海賊がいますし、空賊たちも、国軍を恐れて隠れているでしょう。ニルヴァーナとのゲートが破壊されれば流通が滞り、彼らの獲物も減少します。うまくたきつけて、ゲート防衛に参加させましょう。まあ、利害の一致ということですな」
「じゃあ、その手配は私が、シャンバラ国軍の方に伝えるわね」
ローザマリア・クライツァールが、ジェイス・銀霞に作戦の内容を伝えに行った。
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「さすがに、これだけの艦船が揃うと、壮観な眺めでございますね」
パラミタ内海に集まった機動要塞たちを見て、興味津々の表情で常闇 夜月(とこやみ・よづき)が言った。
「うん、本当だよね」
うなずく鬼龍 愛(きりゅう・あい)も、周囲の艦艇を見回して言った。アガメムノンのブリッジから直接肉眼で見える範囲だけでも壮観である。
H部隊を中核として集まった艦船は、部隊旗艦である新造戦艦HMS セント・アンドリューを中心として隊形陣容を整えつつあった。
ホレーショ・ネルソンが乗艦するのは、HMS・テメレーアに替わって旗艦となったセント・アンドリューだ。
全長が609メートル、全幅が80メートルもある大型艦で、ロイヤルブルーの船体が鮮やかである。
防御を重視した船体はやや直線的で、表面積に比べてより多くの容積を確保していた。
だが、防御重視とはいえ、一列に並んだ主砲群の火力は侮れないものがある。
イコン格納庫は、大型用の物が両舷に装備されていた。
特に特化した艦船ではないが、旗艦としてオールマイティーな対応が可能な頼もしい物となっていた。
セントアンドリューに次ぐ大きさを誇るのは、大田川 龍一(おおたがわ・りゅういち)の加賀だ。
こちらは、全長560メートル、全幅180メートルの戦闘空母であり、広大な甲板に二本の滑走路を有している。そのイコン搭載量は128機を数え、大型飛空艇も甲板上に6隻まで搭載できるという、まさに要塞だった。
見た目は、古式豊かな地球型空母ではあるが、実際には左右の甲板部分は副船体として中央船体と接続されている物だ。中央船体部分だけを見れば、上甲板と船体下部にも多数の主砲を装備した、死角の少ない現代型の飛行戦艦であると言えた。
同様の構造を持つのが湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)の土佐で、実質的な加賀の先行艦と言える。
全長560メートル、全幅150メートルを誇る土佐は、角張った船体が特徴的な空間用空母である。
濃淡の紺色に塗られた船体は、中央船体の左右に、イコン用カタパルトを有した格納ブロックが接続することによって形成されている。
イコン搭載可能数は64機で、3隻までの大型飛空艇を後部デッキに収納できる。
船体下部大型砲以外は対空防御に特化していて、加賀同様、イコンの発着基地としての機能を重視している。
これらに対して、キャロライン・エルヴィラ・ハンター(きゃろらいん・えるう゛ぃらはんたー)のBB‐75 マサチューセッツは、純粋な戦闘艦と言えよう。
全長560メートル、全幅77メートルの巨体は、巨大な砲塔群で武装されている。基本的なシルエットは古くからの戦艦型だが、艦底部には巨大なフローターを有し、現代的な空中戦艦としての威容を誇っていた。
巨大な戦艦群とは異なり、小型で機動性を重視したのが伊勢だ。
居住性を一切排した船体は、非常に多くの機能をコンパクトに纏めている。
船体左右には張り出す形でイコンカタパルトを有しているが、逆に各砲塔は船体収納式となっており、高い防御性を保つと共に、高速移動時の抵抗を少なくしていた。
艦首には大型荷電粒子砲を有し、後部飛行甲板には。ビッグバンブラストの垂直発射口も装備してある。
これら艦船型とは一線を画したデザインを持つのが鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)のアガメムノンだ。
こちらのシルエットは、両舷に三角翼を持ち、航空機に酷似している。鋭角的なデザインは、空中を活動領域とする機動要塞としては、ある意味当然なのかもしれない。
砲の数こそ少ないが、侮れない火力も有している。
ただし、その攻撃的な外観とは裏腹に、実際には高い居住性と研究設備を備えた機動要塞でもあった。
艦隊として現在集結している最後の一隻は、ある意味ゲスト艦艇である源 鉄心(みなもと・てっしん)の……、いや、艦長は強硬に自分だと主張するイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)の翠花であった。
ユグドラシルで行われたジェイダス杯の賞品という形を取って、以前行われたニルヴァーナからパラミタにおける艦隊戦の感謝として、エステル・シャンフロウから贈られたフリングホルニ級の実質的な二番艦である。
デザイン的なものはフリングホルニとほとんど変更はないが、カラーリングは緑の縞々である。まさにスイカ模様だ。
フリングホルニ級と総称されるエリュシオン帝国の新型機動空母は、300メートル弱の全長を誇り、全幅は100メートル弱である。
内部は非常に整理されていて、100機ほどのイコンを搭載することができる。
艦尾両舷には優雅なカーブを描くフローターがあり、甲板には二基のフィールドカタパルトが装備されていた。この力場を発生させる加速装置は、イコンの発艦や着艦時の加減速を補助するだけではなく、力場によるバリアを形成したり、二機のフィールドカタパルトを一つにすることによって、強力なコイルガンを形成することもできた。コイルガン自体に砲は装備されてはいないので、攻撃時は大型砲などをイコンで発射し、強力な加速を持って敵を粉砕することになる。
また、両舷には、可動式のバリアブルシールドがあり、甲板で砲台の役目をするイコンの文字通り盾となった。
もっとも、翠花の場合、あいていたスペースはすべてスイカ畑にされてしまったので、本来の能力は著しく低下しているのだが。