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パラミタ・イヤー・ゼロ ~ALIVE編~(最終回)

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パラミタ・イヤー・ゼロ ~ALIVE編~(最終回)
パラミタ・イヤー・ゼロ ~ALIVE編~(最終回) パラミタ・イヤー・ゼロ ~ALIVE編~(最終回) パラミタ・イヤー・ゼロ ~ALIVE編~(最終回)

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 極彩色の光が踊るなか、契約者たちは徐々に零のもとへと近づいていた。
「すべての人間は私に至る――」
 永遠樹と融合した零が尊大に言い放つ。アトラスの傷痕に響き渡る彼の声は厳しくあるが、どこか空虚であった。
「パラミタ大陸を隷属した私は、永遠の秩序を手にしたのだ――」
「それって要するに、“個などいらない”ってことだよね」
 心身に【不滅の精気】をまとった緋柱 透乃(ひばしら・とうの)が零を見上げる。
「私にはあるよ。戦って、相手を殺してでも貫きたい“個”と“意志”がね!」
 時空を超えてまで自らの遺伝子を残そうとする、零の尋常ではない執念。彼の願望はパラミタ中の人々を自分の規格に合わせて統一することにある。そうなってしまえば、人々から個性は消え失せてしまう。
 強い主体性を持つ透乃にとって、そんなことが許されるわけがなかった。彼女は零を殺し、命ごとその執念を破壊する気だ。
 すると、永遠樹の実がはじけ、中からセルフィッシュジーン・ウォーカーが産み落とされた。左腕にピンク色の闘気を纏い、どこか儚げな雰囲気を持つ赤毛の少女――。
「私と透乃ちゃんの要素を持つとは忌々しい……」
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)がその目に殺意を宿す。『オートバリア』と『イナンナの加護』で防衛する霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)を囮に、陽子は攻撃の機をうかがった。
「私は守りには自信があるが。さすがに『透破裏逝拳』は厳しそうだ」
 泰宏は、セルフィッシュジーン・ウォーカーの必殺の一撃を警戒している。透乃が一生をかけて磨き上げている裏拳――透破裏逝拳。彼女の左拳の破壊力は、陽鴻烈を粉砕したことからも証明済みだ。
 いくら模造された子供とはいえ、その威力は計り知れない。泰宏はプロボークで引きつけつつも、致命傷にはならない距離を保ちつづける。
 しかし、このまま防戦をつづけてもジリ貧になるだけだろう。
 意を決した泰宏は、セルフィッシュジーン・ウォーカーに踏み込んでいった。――必殺の透破裏逝拳が避けられない距離まで。
 射程距離に入った獲物をセルフィッシュジーン・ウォーカーは見逃さない。すかさず透破裏逝拳を繰りだそうとする。
 その隙をつき、陽子は『陰府の毒杯』を浴びせかけた。透乃が習得している鉄壁の防御、『極硬透心身』を発動させないギリギリのタイミングを狙っての連携だった。
 毒杯を浴びたセルフィッシュジーン・ウォーカーは、左拳を振り上げたまま、おぞましい邪気によって発狂する。すべての時空に響き渡るような絶叫を上げる相手へ獲物の鎖をしならせる陽子。
 狂ったオーロラを切り裂くようにして、陽子の鎖も荒れ狂う。
「…」
 透乃と自分のDNAを僭称するセルフィッシュジーン・ウォーカーを、ずたずたに斬り殺していく陽子の目からは、すでに殺意すら消えていた。



「色んな思いがあるから、人は争い、戦争はなくならない。だからこそ、互いを思い平和を目指す事が尊いんだ」
 風森 巽(かぜもり・たつみ)が零に向けて右手を掲げる。ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)による【剣の結界】の支えによってオーロラから身を守る巽。零が身を潜めていた拷問島に乗り込んだあの日から、彼はベルトを壊され変身できずにいた。
 そのベルトは修復され、今は巽の腰にしっかりと巻き付いている。
「変っ! 身っ!!」
 満を持して変身しようとした巽だが、ベルトのエネルギーが強すぎたようだ。神経系の負荷からセーフティがかかってしまう。
 だが、ラスボスを追い詰めて変身できなくてはヒーローではない。
「ティア! 【稲妻の札】を!」
「いくよ、タツミ!」
 パートナーから受け取った稲妻の札による電気を、熟練の呼吸法で『雷光の鬼気』として取り込み、強制的に神経系へエネルギーを繋げる。ベルトのエネルギーと合わさった激烈な闘気が巽の身体を駆け巡る。
「――鎧気っ!! 着装っっ!!」
 オーバーヒートぎりぎりの状態で、巽はついに英雄となる。彼が纏うのは物質化した闘気。燦然と輝く、オーラメタル。
「蒼い空からやって来て! 緑の地球を救う者! 仮面ツァンダーッ! ソゥッ! クゥッ! ワンッ!!」
 真フォームの仮面ツァンダーソークー1が、ここに爆誕した。

 ソークー1は勢いよく零のもとへと駆け出していった。
 久しぶりに変身を遂げたパートナーを満足そうに見守るティア。残った彼女のもとには、不穏な影が近づいていた。
 仮面をかぶったセルフィッシュジーン・ウォーカーである。
「その姿……仮面ツァンダー!?」
 巽とティアの子供が、彼女の前に立ちはだかった。――悪に加担するアンチ・ヒーローとして。
「ボクらの遺伝子を継いでいるなら、君にだって判る筈だよ? 正義を愛する魂が! 誰かを護る権利は誰だって持ってるんだから……」
 ティアは説得する。強制された一方的な支配ではなく、自分らしい愛を、正義を、胸に抱いてほしい。
「どんなに姿形がそっくりでも……魂が宿らなきゃ仮面ツァンダーにはなれないんだよ!!」
 零によって模造された偽りのヒーローに、ティアは訴えつづけた。


「ソゥクゥッ! イナヅマッ! キィィックッ!!」
【轟雷閃】によるキックで、一気に道を切り開いていくソークー1。
「その姿で9万年も生きておいて、お前は何も判っていない。……人が生きると言う事、明日を目指すという事、未来を創ると言う事!」
 零が振り回す枝を【不動不壊】で受け流し、ソークー1は叫ぶ。
「親から子へ、師から弟子へ、友から友へ――。意思を、想いを、希望を、夢を。命が繋ぎ、未来へと運んでいく――。それを運命と呼ぶんだ!!」
「命を運ぶ必要はない。大陸と結ばれた私は、完全な生命体となったのだ」
「そんなものは独りよがりの空言だ! 命を繋げる大切さを忘れたお前に、パラミタ大陸の運命を好きにさせる訳にはいかない!! ――青心蒼空拳。青天霹靂掌!!」
 零の顔面をぶん殴る――と見せかけて、ソークー1は轟雷閃の電気ショックによる仮死を狙った。
「知ってるか? 高い樹ほど雷は落ちやすいってな」
 ドラスティックな電撃が、永遠樹を奔る。

 落雷と同時に、永遠樹の陰から忍び寄る者がいた。これまでの戦いで零を護衛しつづけた辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)である。【隠れ身】で姿を隠していた彼女は、契約者たちの接近を感じ取り、パートナーとともに布陣する。
「別次元ですか。――おめでとうございます」
 ファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)が零に語りかけた。飄々とした態度だが、彼の瞳には“パラミタを滅ぼす”という大いなる宿願が込められている。
「さて。今回も支援させていただきますよ」
 彼がそう言い終える前に、刹那は『煙幕ファンデーション』と【しびれ粉】を張り巡らせた。もうもうと立ち込める煙の中から、ファンドラが【神の奇跡】で無数の武器を飛ばす。放物線を描いて地面に突き刺さる、剣や槍や矛の群れ。
 オーロラにより視界が遮られている上、煙幕を張られてしまうと攻撃の軌道がまったく読めない。契約者たちはいったん距離をとって煙幕が散るのを待つ。
「……なぜ、邪魔をするのですか? パラミタ大陸など、滅びてしまえばいいのですよ」
 ゆっくりと姿を現したファンドラが、『月の棺戦闘員』を呼び出した。
 彼が構成した暗殺組織――月の棺。三本の爪と銃を武器にする人造戦闘員に、ファンドラは『優れた指揮官』を発動する。
「戦闘員退治なら、お手のものだ!」
 ソークー1がすかさず殴りかかっていった。
 つぎつぎと敵をなぎ倒していく。気の活性化により身体能力が強化された今の彼に、戦闘員では力不足だ。
 しかし、攻撃に転じた一瞬の隙をイブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)が狙っていた。自身の姿は【カモフラージュ】したままで『六連ミサイルポッド』を二つ続けて射出。さらに追い打ちをかけるように、『機晶キャノン』を発砲した。
 ミサイルポッドの十二連撃はかろうじてかわしたものの、ソークー1はキャノンの直撃を胸に受ける。ぐらり、と彼の体がゆらめいた。だが、熱い想いが滾るソークー1の胸は、完璧なスナイパー・イブでも撃ちぬけない。
「零を倒すまでは……倒れるわけにはいかないんだ!」
 ソークー1はふたたびファイティングポーズをとる。
 キャノンの軌道から位置を把握されたイブは、あえて身を隠すことなく後方支援を継続した。狙いはソークー1ではなく、契約者全体の足止めだ。【弾幕援護】を張り巡らして自身の陣営をサポートする。
 ふたたび張られた煙幕に身を隠し、刹那は機を伺っていた。彼女の行動原理は徹底している。あくまでも、ファンドラの依頼を遂行するのみ。“パラミタを消滅させる”ためなら大陸がどうなろうと関係がなかった。
【実践的錯覚】。【メンタルアサルト】。【歴戦の飛翔術】――。さまざまなスキルで幻惑しながら、刹那は契約者を襲う。
「悪く思うなよ、こちらも仕事じゃからでのぉ」
 刹那はそう囁きながら、ソークー1の死角から【ブラインドナイブス】を放った。
 強烈な一撃がソークー1を貫く。真フォームで防御力が向上しているとはいえ、さすがにダメージは大きい。
「まだだ……! 我が大地にひざまずくのは……この大陸を守ったときだ!!」
 刹那が投擲する暗器、そして後方からファンドラが放つ無数の武器を浴びながら、ソークー1はなおも聳える。
 気力で耐える彼に対し、刹那一派は攻撃の手を緩めない。
「――お行きなさい、我が子たち」
 イブが張り続ける煙幕にまぎれて、女王・蜂(くいーん・びー)が【毒虫の群れ】を放ったのだ。
 女王蜂は毒虫たちを“我が子”と呼んだが、今回はもうひとり子供がいる。
 彼女たちと零のDNAが織り交ぜられた、セルフィッシュジーン・ウォーカーである。

 これまで刹那たち四人を相手に持ちこたえてきたソークー1だが、さすがにセルフィッシュジーン・ウォーカーが加われば敗色濃厚だった。
「タツミ! 諦めちゃダメだよ!」
 ティアが【リカバリ】をかけながら走り寄ってくる。
 彼女のとなりには、もう一人の仮面ツァンダー――巽とティアの子供が伴走していた。
 ティアの説得によって、セルフィッシュジーン・ウォーカーはヒーローの心が目覚めたのだ。
 巽たちと、刹那たちの子供がぶつかり合う。
 実力だけなら、四人の力が合わさった刹那の子供のほうが上かもしれない。
 しかし、巽の子供には熱い魂がある。大切な人を護りたいという、強い力の源が。
――激しい戦いの末。
 両者はほぼ同時に力尽き、死亡した。
 倒れこんだ自身の子供を抱き寄せて、ティアは告げる。
「ありがとう。キミはボクを護ってくれたんだね……。君は、君というヒーローになれたんだよ」


 一方で、女王蜂の熾烈な攻撃がつづいていた。
『女王・蜂近衛兵』と共に前に出て、槍と『毒針』で連携攻撃を仕掛ける。ソークー1との距離が遠ざかれば【アルティマ・トゥーレ】。
 彼女がもっとも得意とする戦法、“蝶のように舞蜂のように刺す”戦闘方法だ。
 すでに満身創痍になっていたソークー1だが、彼には狙いがあった。
 ファンドラである。
 今回の依頼主にあたる彼を倒せば、刹那は戦いつづける理由を失うはずだ。攻撃を浴びて全身から血を流しながらも、ソークー1はファンドラに接近し、残りの力をすべて振り絞った。
「――青心蒼空拳! 青天霹靂掌!!」
 ふたたび、アトラスの傷痕に雷が落ちる。さすがに全力とはいかなかったが、ソークー1が振り下ろした拳は、ファンドラを行動不能にするだけの破壊力が込められていた。
 大地にひざまずいたファンドラは、血の混ざった唾液を吐き捨てる。
「くっ……。しかたがないですね。ここは、引きましょう」
 撤退の意志を刹那に送ると、彼女は無言で頷いた。すぐに女王蜂とイブに指示を出す。
 刹那たちは現れたときと同じように、音もなく姿を消した。残ったのは煤けた硝煙と、痺れるような毒の香りだけだ。
 ファンドラは最後まで飄々としていた。去り際、永遠樹を振り返った彼は、口元に冷笑を浮かべながらこう告げる。

「零さん。後は頼みましたよ。――このパラミタに、滅びを」