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【祓魔師】アナザーワールド 2

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【祓魔師】アナザーワールド 2

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第6章 偽りの未来の導き手時 Story1

 サリエルの気を引きつける役割のカティヤが先行し、彼らの群れへつっこんでいく。
「ふふっ、さぁ女神様が遊んであげるわ♪」
 彼女の姿を目にした者たちは、“バカが一匹、火に飛び込んできた”と思う程度だった。
「お前たち、優しく殺してあげなさい」
 黒いシスターの服を着た者、炙霧は余裕たっぷりの笑みを見せ、手下のボコールに命令する。
「あらら、残念。あなたたちの相手はしてあげられないの♪」
「へっ、そりゃつれないねぇ〜?」
 ボコールは軽口を叩くとロッドから灰色の砂を出現させ、まるで生き物のように操りカティヤを襲わせる。
「ちっ、ペトリファイね」
「ケハハハッ、石になっちまいなぁあ」
「―…なんちゃって♪」
 ほんの一瞬、焦ったような表情を見せたかと思うと、すぐさま笑顔になり軽々とボコールの群れを突破した。
 突然の超スピードに驚き、何が起こったのかボコールたちは足を止めてしまう。
 が、すぐに我に返りカティヤを止めようと追いかけた。
「こ、この、行かせねぇよー!」
 しかし神速をもってしても追いつけず、悔しげにギリリと歯を噛み締めた。
 それもそのはず、斉民の宝石の恩恵を受けていた女神の足には、神速程度では追いつけなかった。
「ばかやろう!てめぇら、簡単に突破されてんじゃねーよ!!」
 敬虔なシスターを演じていた炙霧が本性を現し始め、地団駄を踏んだ。
「―……は。皆、ちゃんと殺してあげないといけませんよ〜」
 はっと我に返るとシスターらしい顔に戻り、再び手下に命令する。
「この女を取り囲め!」
「おう、叩き割ってやろうぜっ」
 冷静さを取り戻したボコールたちがカティヤを取り囲み、一斉にペトリファイを放つ。
「ちょ…ちょっと、卑怯じゃないの〜!」
「そりゃ、さいっこーの褒め言葉だぜ♪」
 ようやく得物で遊べるとフードの奥の目をにやつかせた。
 が、それは叶わないことだった。
 女神に意識が集中するあまり、自分らの後ろを無警戒状態にしてしまっていたのだ。
 背後から迫っていた小波が大きな波に変わり、彼らを飲み込んでいく。
「少し片付いたのかな?」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)は哀切の章を開いたまま、床に転倒するボコールたちの数を数える。
「ふっ、なんとも無様だな」
「女神を守ってくれてありがとう♪北都、磁楠サポートは任せたわよ」
「それはよいが、早く避けないと石になるぞ?」
 邪心を持つ者は祓えても、魔法までは止められない言い、カティヤに迫る灰色の砂へ指差す。
「まったく、つめが甘いやつだ」
「ちょ、ちょっと…こんなには…」
「おいおい、仲間だろ。なんで意地悪なこと言ってんだ」
 とっさにカティヤの前に飛び込んできたソーマはペンダントに手を当て、アンバー色のドームの壁でペトリファイを防ぎ打ち消す。
「ありがとう、ソーマ。他の男たちと違って優しいのね♪」
 仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)とその他一名、見守るだけの羽純をちらりと見て言う。
「ば…ばか言ってねーで、しっかり持ち場を担当しろ!」
「ふふっ、はーい♪…そろそろ病弱さんの相手をしてげないとね」
 サリエルへ視線を移すと彼のほうへウィンクしてやる。
「彼らを甘く見ていると、また痛い目みますよ…」
「お生憎様。私たちだけじゃないのよ?」
「な……、いったい、どこから…」
 どこから降って湧いてきたのかという目で、続々と姿を見せる祓魔師たちの姿に驚く。
「侵入するなら隠密的にやるに決まっているじゃないの♪」
「―……まぁいいです。全て、殺せばいいよいのですから…ね」
 青い目の色を暗く沈ませ、殺意を込めた眼差しでカティヤを睨みつけた。
「は、はは、あはははっ、死んでしまえ!!」
 高笑したサリエルは、アストラル空間へ長計と短針を出現させ、指を鳴らしデスルーレットを回す。
「これは…呪いの魔術!?」
「もう遅い。しね、シネ…死ねーーーっ」
 彼にとって幸運なことに針はカティヤを指定した。
「き、貴様、なぜ…」
 歓喜の声を上げたのも束の間、すぐに落胆の声に変わる。
 それもそのはず、彼女の頭に現れるはずの死を告げるカウントがないのだ。
「これまたお生憎様ね。友の力を信じるというのは、こういうことよ」
 仲間たちから受けた術を信じればこそ、安心して先行役が出来ると告げた。
 全てを恨み、憎むサリエルには理解し難いことだった。
 そんなものは空想であり、もはや利用し合う術でしかない。
 ただ、それだけの認識しかない。
「嘘だ…」
「失礼ね、ディアボロスみたいに嘘つかないわよ」
「嘘だ、嘘だ、でたらめを言うなぁあ!!」
「なっ!?」
 怒り狂うサリエルの姿に驚き、思わず足を一歩退いてしまう。
「早く下がれ、カティヤ!」
「え…、あぁあっ」
 磁楠の叫び声に平静を取り戻したが時すでに遅く、全身に時計の歯車が絡みつき大時計の中へ引き込まれてしまう。
「くそ…閉じ込められてしまったか」
「落ち着け、永遠というわけじゃない」
 囮のカティヤも承知の上での覚悟だと言い、助けに行こうとする磁楠の腕をダリルが掴む。
「まず、俺たちがすべきことは分かっているだろ」
「―…くっ、無論だ」
 捕らわれた彼女から目を離すと裁きの章を唱え、高笑いする時の魔性を弱らせるべく酸の雨を降らす。
「ほう、私を弱体化する祓魔術ですか…。ですが、そう簡単にいくとでも?」
 くくっと笑い身軽に飛び退き、酸の雨を回避してみせる。
「ふっ、離れたか」
 磁楠は“器を奪還しろ”と小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)に目配せした。
 彼女は黙したまま頷き、時の牢に閉じ込められているラスコットの元へ駆けていく。
「(このわたくしがサポートしてるんだから、しっかりやりなさいよ!)」
 手はず通り真宵は美羽に時の宝石の力を与え、きっちり救出しないと許さないと睨む。
「(あと…もう少し。もう少しで手が…!!)」
 すぐそこに彼がいる。
 この手を伸ばせば助けられる。
 祓魔師として大切なことを沢山教えてくれた。
 その力で今度はあなたを助けたい。
 “やった!”
 彼の服に指先が触れた瞬間、今度こそ…と思った。



 大切な器に迫る祓魔師を、サリエルが見逃すはずがなかった。
 人差し指を空へ向け、牢ごと彼の身体を浮かび上がらせ、少女の手からあっけなく引き離したのだ。
 喜びの顔が絶望へと変わっていく様を見下ろし、可笑しそうに愉悦の笑みを浮かべた。
「残念でしたね?」
「ラスコットさんを返してーー!!」
「いやですよ。―…これは、私の器にするんですから…」
 彼女の必死の叫び声すら、心地よいBGMを聞くかのように楽しむ。
「ほら、先生。あなたの教え子たちが死んでいく様を、よく見ておくんですよ」
 指を鳴らし彼を目覚めさせ、祓魔師たちの姿を見ろと言う。
「サリエル…貴様っ!」
「ははは、出しませんよ」
 祭典の度に力を削がれてきたとはいえ、上級以上の力を持つ魔性。
 この牢は簡単に打ち破られるほどもろくはなく、魔道具の力すら封じるものだった。
「あなたの身体はもう、私のもの。生徒が倒れていく姿を見せつけ、心を壊してやりますよ」
「お前の好きにさせねぇぜ。にやけヅラが、へこむツラになるかもなぁ?」
「ボコールたちが言っていた“予言”ですか…。当たれば、…ですね」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)の言葉に冷笑し、ぐにゃりと歪んだ平面の時計で祓魔師たちを取り囲む。
 一か八か予言が当たるか祈りつつ、カルキノスはサリエルに笑い返してやる。
「―…ち、ハズレか」
「よい様ですね」
 急激に歩みを鈍らせた彼の姿に、にたりと愉悦に浸る。
「失敗はしたが、受けるのは俺だけだぜ?」
「なんだと?……くっ!!?」
 黒魔術を受けたのは彼のみであり、他の祓魔師たちの詠唱を止めることはできなかった。
「この…一杯の祝杯を飲み干したそなたは、その対価として、彼の者の導き手となれ!」
 仲間を援護しようと結和・ラックスタイン(ゆうわ・らっくすたいん)は、贖罪の章から溢れ出る祓魔の恩恵をルカルカと夏侯 淵(かこう・えん)に与える。
「返してもらうわよ。その人も、ルカたちの未来も!」
「はしゃぐな、たかだか人間風情がっ」
 祓魔師の自由を奪うべく、虚空に歯車を出現させルカルカたちを襲う。
「やば、数が…きゃ!?」
「おっと、後ろ失礼」
 歯車に捕まる寸前、陣に抱きかかられ危機一髪回避する。
「意外と軽いのね?」
「む…余計なお世話だっ」
 軽々と歌菜に持ち上げられ、淵が一瞬むっとした顔になる。
「さっ、好きなだけ撃ちまくってやれや」
「よーし♪やっちゃうわよ」
「人間の分際で、はしゃぐなと言っているだろうがっ」
 今すぐ殺してやるという態度で言い放つと、彼の声に反応した時計が蓋を開き、無数の手をルカルカたちに向って伸ばす。
「うぅー!(捕まえさせないもん!)」
 ロラ・ピソン・ルレアル(ろら・ぴそんるれある)が時の宝石の力を陣に与え、時計の手から逃がす。
「おのれ、ちょこまかと…。うぐ、がはっ」
「(器の限界がきているようだな)」
 口から血を溢す姿を目にした淵が、もう一息かと心中で呟いた。
「今度はルカたちの番ね。いくら恨みがあっても、やっちゃいけないことがあるんだから!」
 祓魔の力を光の光線に変化させ、サリエルへ目掛けて放つ。
「逃がさぬぞっ」
 続け様に淵も哀切の章を行使し、ルカルカと息を合わせてラスコットから引き離そうとする。
「1匹も殺せていないじゃないですか!失敗したら、あなたたちを捨てますよ」
「うぐ、それだけはご勘弁を。今すぐ片付けてみせます!」
 シスターの言葉にボコールたちは、まるで従順な人形のように命令を聞き入れる。
 カツンッをロッドの柄で床を突き、鋭利な円錐状の針でルカルカたちを貫こうと狙う。
「これじゃ、狙いが定まらないわ」
 罪と死の術から逃れるが精一杯になり、サリエルへ照準が合わなくなってしまう。
「エアリエルくん、君の力を借りるよ」
 クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)は聖杯を掲げ、エレメントチャージャーを媒体に、風の魔性を召喚する。
 少年の姿をした魔性の鮮やかな緑色の髪が揺れ、柔らかな風が生じる。
 ふわりと舞う風がルカルカを包み込む。
「すごい…、これが風の力?」
 今までの集中力と段違いの力に驚き、金色の目を丸くする。
「俺も頼む!」
「ふふ、任せてよ」
 クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)もエアリエルを召喚し、淵に風の気を与える。
「今度こそ逃がさないわ!」
「そんなもの…、…なっ?」
 かわしたはずの祓魔の光線が屈折しサリエルの片足を貫く。
「こ、この、…この、人間がぁああ!!」
 たかが人間ごときと侮っていた者に手傷を負わされ、怒り狂い時計から伸びる手を淵へ伸ばす。
「―……しまった!」
「淵ーーー!!」
「何で淵さんをっ」
 狙うなら傷を与えたルカルカや陣のはず。
 そう思いきや不意をつかれ、歌菜の手から淵が大時計の中に捕らわれてしまう。
「お父様、淵さんがっ」
「分かってる、ミリィ。私が補助するから、それを壊すんだ!」
「くくっ、遅いですね…」
 ボコールの手からロッドをひったくり、大時計を力任せに殴り壊す。
「―…がっ!?」
 ペナルティクロックをまともにくらってしまい、魔術で生み出された時計の破片が身体を切り刻む。
「これで、邪魔な虫を1匹排除ですね」
「け、これから楽しい楽しいショーが始まるのに、邪魔させねぇーよ♪」
 仲間たちが彼を助けようと試みるが、ボコールたちによる罪と死の防壁に阻まれる。
 うっかり突っ込めば串刺しになってしまう。
 地上も空すらも黒い針に囲まれ、手の出しようがない。
 全ての恨みが込められた凶器が、若き英霊の心臓を貫こうとしていた。