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【祓魔師】アナザーワールド 2

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【祓魔師】アナザーワールド 2

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第8章 偽りの未来の導き手時 Story3

「陣さん。ルカのほうは大丈夫だから、向こうをお願い」
「おっし、そっちも頑張れや」
 ルカルカを床に下ろし今度は美羽を抱え、大事に保管されている器の元へ向う。
「(今度こそ、しっかりやんなさいよ!)」
「何このプレッシャー、コワッ」
 真宵による無言の睨みにゾクっとし、口元をひきつらせる。
「んじゃ、行くぞ美羽さん」
「うん、お願い」
 振り落とされないようにしっかり陣の服を掴み、片方の手で本をぎゅっと握った。
 炎の翼を羽ばたかせ炙霧の視界に入らないよう迂回しながら、時の牢の真上を目指す。
 すっかりルカルカたちに気を取られ、サリエルはこちらに気づいていない。
「(今や!いっけぇえい、美羽さんっ)」
 牢の真上に美羽を投下し、歌菜に目配せする。
 彼女はにゅっと親指を立て、向かい側から牢へ迫る。
「おーい、病弱さん。ぼけっとしてるから大切な器、回収してやったぞ!」
 羽純と自分に変身したリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)がくっつき、隠しているそれを指差す。
「この、人間…私の器によくもっ」
「もー、陣くん。嬉しいからってばらさないでよね」
 リーズはヤバッという顔をし、慌てて脱出しようと離れる。
「待ちやがれ、この人間風情がーーー!」
「わわわ、喋り方まで変わってるよ」
「おい、器を返してやったほうがいいんじゃないか?」
「何言ってるの、世界がオワタみたいなことになるよ!」
 酷く怒っているし返せばいい、などと言う羽純に対してぷんすか怒る。
「悪戯がすぎるやつには、死をもって仕置きしてやる」
 魔術で作り出した時計から手の群れがリーズたちを捕らえる。
「うわぁん、閉じ込めれたよーっ」
「だからさっさと返せばいいと言ったんだ」
 やってられない、といった様子で羽純が嘆息した。
「さぁ、返してもらう」
 背を向けている羽純が抱えているものを掴み、やっと取り戻したと思いきや…。
「こんなん出たけど、どやぁだのぅ♪」
 ―…それは偽者で、囮のジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)の姿だった。
「あれじゃな。こんなかわいい娘が、男なわけがないとっ」
「く……、まさかっ」
「おおっと行かせぬ」
「なら、死んでみますか?」
 のっぺりとした丸い時計でジュディと羽純を囲む。
 カチ、カチッカチッ
 短針の時の刻みが遅くなり、離れて詠唱の準備をしようとする2人の飛行を低速化させる。
「穏便に済ませたかったが、止むを得ないな」
 サリエルの腕を掴み、フレアソウルの気で炎に包む。
「もうこんなことはやめろ。今なら発火を解除してやる」
「いやだと言ったら?」
 詠唱を続けているジュディの首に爪を立て、その程度の炎で私は倒せないと示す。
「あ、…ぐっ」
「このやろう、ジュディを離せ!」
 エレメンタルリングをはめた手に炎の気を込め、サリエルの顔や腹、片足を殴りつけるが、痛みがないのかと思えるほど、相手は表情を崩さない。
「あいつ、女の子になんてことをっ」
 北都はソーマの視線の先へ酸の霧をサリエルの周りに立ちこめさせた。
 それに合わせて彼の箒の後ろに乗ったリオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)が、ジュディを死に至らしめようとする手を光の綱で縛る。
「離さないと力を強めますよ!」
「しったことか。この娘が死んでいくのを見てればいい」
「いい加減やめないと、あなたが倒れることになるよっ」
 コレットが祓魔のハンマーをポイポイ投げつける。
「くそ、とても正気とは思えないな」
 新しい器がすぐ傍にあるから、今の器はどうでもよいらしく、傷つくことをまったく恐れていない。
 それでも力を使い過ぎれば、中の者である彼が死ぬはず。
 だが、それすら恐れていない様子に、もはや正気ではないのだろうと判断する。
「オヤブン、どうしよう〜」
「これは想定外だったな」
 ジュディを助けても、また追いついて襲ってくるだろう。
 “何か隙をつくってやらないと…”
 羽純にサリエルの腕を千切るくらいやれ、と自分自身の手首を掴んで伝えた。
 彼が頷く様子を目にし、すぐさま作戦を実行に移す。
「おい、千切られてもいいのか?お前自身の手首を落とすことになるかもな」
「うっ、…く!」
 とうとう痛みに耐えかねた彼は、ジュディから手を離してしまう。
 一瞬の隙を見逃さず、ハンドガンから彼らへ向って弾幕援護を放ち、サリエルの視界を塞ぐ。
 すぐさま羽純はジュディを連れ、時の魔性から離れた。
 リーズのほうはソーマが無事に回収し、斉民の時の宝石の恩恵を受け、仲間の元へ駆けていく。
「さすがオヤブンだね」
「なんとかうまくいったな…」
 どんな仕返しされるか分からず、“後が怖いが”とは、言わないでおいた。



 時の魔性の手から“器”を奪還した祓魔師たちは、時の牢獄に閉じ込められたラスコットを、どう救出するか思案し合った。
 …が、何分も話し合いにロスすることなく、やはりここは邪気を祓う宝石の力を借りるべきだと結論が出た。
 リーズたちが囮になっている間、涼介とミリィ、ロラやエルデネストまで解呪を行うという、4人での大掛かりのものとなった。
「これは…厄介な構造だな」
 外面の青い球体に触れ調べた結果、外部からの接触を全て遮断する役割を担っているようだ。
 その駆動を成立せているものが、長針と短針部分。
「先に針のほうを処理しないと解除できないか」
「私とカエルのお嬢さんが、短針の解除が行いましょうか?」
 それでよいかロラへ顔を向けると、“うー。(頑張る!)”と即答された。
「では、そちらは長針をお願いします」
 長針のほうが手が掛そうだと思い、なら親子のほうがよいだろうと判断する。
 2人の親子は同意し、さっそく解呪の準備に取り掛かる。
 まず、長針を軌道させるための下準備として、エルデネストとロラの二人が短針へ片手をかざす。
 ホーリーソウルの気の侵入を許してしまった短針部が、カチカチと音を立てた。
 駆動の確認を合図変わりに、涼介とミリィも祈り始めた。
 “全てを癒す光よ、傷付き苦しむものに再び立つ活力を”
 “癒しの光よ、傷付きしものに活力を与えよ”
 彼らの声に応じた邪気を祓う気が、長針を掴むように引っ張り、0時を目指し動き始めた。



 一方、新たな器を求めていたその者は、ジュディたちを跡形なく殺し尽くべく、黒魔術を行使しようとした時。
 前方から刺すような視線を感じ、そこへ目を向けると…。
 鬼の形相をした炙霧が睨みつけていた。
 パラミタの地の破壊を楽しむ道具として、器を取り戻してやろうかと祓魔師たちの隙を窺がっていたが、フレンディスとベルクがそれを許すはずはなかった。
「このあたしぃ〜が、ここまでお膳立てしてやってるのに、何やってんだこのグズが!脳みそどうかしちゃってんじゃねぇーの!?」
 とうとう本性を曝け出した炙霧は、彼を指差しながら大声で罵倒した。
「死にたくなきゃ、さっさと自分で取り戻せよ、このカスッ!」
「ここまで言われて、まだ分からないのですかっ」
 罵倒されてまで協力するのかと結和が呼びかける。
「う、うるさい。わ…私は、こうするしかもう、道がないんですからね」
「そ…そんなことは……っ」
「結和殿。何を言っても無駄だ」
 淵は彼女の背をぽんぽんと叩き、もはや何を言っても聞かないだろうと言う。
「やつを止めたいのだろう?」
「―……は、はい!」
「援護を頼む」
「分かりました…。祝杯よ、皆々に平等に分け与え、正しき道へ誘う力を与えよ!」
 結和は白魔術の純白の気を纏い、金色の聖杯の雫を淵と北都に与えた。
「やつを捕まえろ」
 ルカルカとリオンへさらなる祓魔の能力を与えたダリルは、天城 一輝(あまぎ・いっき)に目配せしコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)と自分の3人で、術者と器から引き離すように伝えた。
 祓魔の波でコレットのほうへ追いやり、そのタイミングに合わせ一輝が弾幕援護でサリエルの視界を封じ、コレットのほうはまた向かい方向へ撃つ。
「一切哀れみを持つな。徹底的に追い込め!」
 端から見れば祓魔師にあるまじきことのように聞こえるが、手を抜けばこちらがやられる。
 それを忘れさせないためであり、失敗許されないというこを常に意識させるためでもあった。
 徐々に領域を狭めていき、頃合だろうとシィシャが祓魔銃を空に向って撃ち、捕縛の合図を告げる。
 ピンポイントで狙えと弥十郎がそこへ霧のミストを撃ち、さらにグラルダが祓魔術を線状に携帯変化させ狙い放つ。
「捕縛の準備が整ったようだな」
「涼介さん、代わります!」
「お願いするよ、歌菜さん」
 0時を示すまで、もう一息のことろまできていた。
 歌菜が解呪を代わると言い、涼介は北都たちのほうへ向かう。
「涼介さん、始めるよ」
「了解。いつでもいいよ」
「俺たちはクオリアの召喚をしよう」
「うん…」
 2人は聖杯を掲げ重力を司る魔性、クオリアの召喚を行う。
 床に描かれた魔方陣に零れ落ちた血を対価に、祓魔師の召喚に応じる。
 磁場の風で赤色の髪と水色のような髪が大きく揺れる。
「クオリアくん、過去の過ちを償わないと…」
「―…サリエル」
「き、貴様、また…私を裏切る気か!!」
 哀れむような目に苛立ち、激しい憎悪をクオリアに向けた。
「ごめん、でも、本当に、望んではない、…はず」
「彼を止めたいなら今しかないよ」
「その通りですわ。ノーンもそう思うでしょう?」
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)を姉と慕っている{SFL0017974#ノーンノーン・クリスタリア}が笑顔で頷き、テスカトリポカの召喚を速やかに行う。
 呼び出されたのは黒のテスカトリポカであり、術力を分けてもらえるように頼む。
「ボクが、君たちに?…ふーん、まぁいいけどね」
 考えるようなそぶりを見せつつも、一つ返事で引き受けた。
 両手を広げると闇の気を放出し、マイナスの気をもって彼らを満たす。
「あっははは。ボクは壊すことしかしないからさ、分かってるよね?」
「これは何とも、…厳しいな」
「は…、うっ、息が…苦しいよ」
 プラスとは真逆の気を与えられ、淵や美羽といった術者が呻く。
「―……清き祓魔の力よ、邪なる力を打ち消せ!」
 哀切の章を行使したリオンがマイナスの気を中和させてやる。
「ちぇ、つまんないの」
「もう、こんな時に試さないでくださいよ…」
 力を貸すのに値するのかと試したらしく、わざとなのだろうと気づいたリオンがため息をつく。
「この程度でもっていかれるようじゃ、祓魔師失格だってば」
「いませんよ、そんな人は。誰も折れてないでしょう?」
「はいはい〜。せいぜい頑張ってよね」
 少年の風体をした魔性は用を済ませるとすぐさま、くすくすと笑い元の居場所へと帰還した。
「せっかくもらった力を無駄にできないな。クオリアくん、スペルブックに術力を分けてくれるかな?」
「わか、…った」
 クロリアはバリバリと音を立てて旋回し、重力波をルカルカと淵、カルキノスの悔悟の章に吸収させる。
 彼らの章に新たなワードが浮かびあがり、それを撫でてみると全ての言葉が、まるで頭の中に飛び込んでくるように記憶されていく。
「不思議ね、初めから知っていたみたい…」
「さぁ、ここへ祓魔術を!」
 弥十郎たちが知らせてくれたポイントへ神籬で囲み、時の魔性を拘束するように言う。
「あちらは片付きそうなので、私も加勢いたしますよ」
「ありがとう、エルデネストさん」
「ふふ、礼は全て終わってからでよいですよ」
 弾幕の向こうにいるサリエルへ視線を戻し、邪気を縛る聖なる気を神籬の線に走らせる。
「ルカたちの未来を!」
「俺たちの本来あるべき道をっ」
「皆の大切な世界を守るために…」
「もう一度笑って帰れるように、テスタメントたちは戦うことを選んだのです!」
 重力と祓魔の術が融合し、結界の四方から光の鉄鎖が伸びる。
 ジャララジャリリッ
 四方の鉄鎖がサリエルの身体を縛り拘束していく。
「こんな、…ものっ。く、ぁああああ!!」
 術者の時間を停止させるべく鎖に抗い、黒魔術を行使しようとする。
「引き千切る気か…!」
 底知れない魔力に、さすがのダリルも焦りの色が生じてしまう。
「させませんわ。ノーン!」
「おねーちゃん、おにーちゃんたちとまた会いたいもんねっ」
 クリストファーたちが掲げるニュンフェグラールに、エリシアとノーンが手を添える。
「わたくしたちのありったけの力、もっていきなさい!」
 2人の使い魔の能力を受けた聖杯がクオリアに力を注ぐ。
「逃がしませんよ。もう、大切な人を失いたくないんですからっ」
「本当のあなたは、こんなこと望んでいないはずです…」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)と結和が残る力を全て使い、抵抗するサリエルをさらに縛る。
「だから、もう…、これ以上…、傷つけあいたくありません!!」
 鉄鎖は彼にガチッとしっかり絡みつき、残る抵抗力を奪いきっていった。
「わ…私は……、ただ…」
 過去に捕らわれていた時の魔性は全て失い、がっくりと足をついたのだった。



「ちくしょう、どいつもこいつも役立たずばかり!」
 血が出るほど拳を握り締めたシスターが逆上する。
「残るはあなただです、降参してください」
「はぁ〜?何、いい子ちゃんぶってんだ?うっざいだよ、むかしっからあんらみたいなの大嫌いなんだよ!」
「そ、それは魔性の血のせいでは…」
 親の血の影響で暴走してしまったのでは、とフレンディスが優しく声をかけた。
「ふーんだから?目覚めたらさ、ちょー爽快っていうのかなぁ。エリザベートもどーでもいいやって思ったんだよなー」
 散々世話をしてくれた幼い娘相手にさせ、思い入れはないと告げた。
「あなたの…その心を祓ってみせます!」
「やれるものならやってみな?」
 彼女の気持ちさせ踏みしだき、堂々と両手を広げてケタケタ嘲り笑う。
「汝、断片に支配された者なり…。天に背きし、その断片を打ち消し、残された約束された地へ残した断片へを求めよ。我ら、汝の罪科を受け入れ、全てを天に返すと誓う!」
 祓魔の力で自分の心と炙霧の心を繋げ浄化を試みる。
「―……!な、何、心臓が…熱い!!ぎゃぁあああっ」
「お願いです、邪悪な意思に負けないでください!」
「むぐぅう、いやだ…やだやだぁああ!」
「これで悪いことはもう、お終いにしてもらうよ」
「いい子にはサンタさんこないんだからねっ」
 アーリアの花の舞いとクマラが行使する霧で、逃走者の視界を奪う。
「往生際が悪い娘だね」
 霧の中を逃げ回るシスターに向って、メシエが疾風壁を放ち床に転ばせてやる。
「まだ、終わりじゃ…」
「いや、もう終局だ」
 灼熱の宝石で作り出した縄上の溶岩を炙霧の身体を簀巻きにする。
「俺が祈りを込めれば、ちょっとの火傷じゃすまないものになるぞ?」
「違う…まだ終わらない。終わりじゃないからな…」
 そう呟き、いつまでもベルクを睨みつけたのだった。