リアクション
砂の町の花嫁
心残りはあれども、ユトにばかり留まってはいられない
再会の約束を交わすと、コントラクターたちはまた新たな復興・開拓の場所へと発つことになった。
「ありがとう。本当にありがとう」
エルシャはそればかりを言って涙ぐむ。
「あんたたちがユトにしてくれたこと、あたしたちは忘れないよ。そして、あんたたちがカナンを救う力になってくれることを、あたしたちは信じてる。ユトに残っている者はネルガルと直接戦う力は持ってないけど、これからも懸命に生きるための戦いを続けていくよ。あんたたちがくれた希望を絶やさないための戦いをね」
しっかりとした口調で言うグリゼルの目にも、涙が光っていた。
あちこちで別れの挨拶が交わされている中、緋山政敏はグリゼルの手にネックレスを載せた。
「綺麗なもんだね」
宝石のように加工されたガラスをグリゼルは日に翳して眺めた。
「リーンが砂から作り上げたガラスのペンダントだ。宝石には及ばない。花嫁の品位を落とすものかも知れない。だから、どうするかはアンタに任せる」
政敏が言うのにリーンも言葉を添える。
「本物の宝石じゃないから、お嫁さんには不釣り合いかもしれないけど……砂からでも何かは生み出せる。彼女になら伝わるんじゃないかって思ったの」
砂に埋もれた町からお嫁に行くエルシャへのプレゼント。
グリゼルはふと笑うと、すぐにそれをエルシャの首にかけた。
「おまえへの結婚祝いだそうだよ。砂から生まれたガラスのペンダント。本当に綺麗だよねぇ」
「うん、とっても綺麗。ありがとうございます」
エルシャは心から嬉しそうな顔でペンダントに手をやった。
「せっかくだから、帰る前にみんなで写真を撮らない? お嫁さんになるエルシャにあやかって」
カチェアはカメラを掲げ、エルシャとグリゼルを真ん中に並ばせた。
「嫁入りか、そやったな。なら、ささやかなもんだけどこれを差し上げるで」
フィルラントは持参していた光のヴェールをエルシャにふわっとかぶせる。
「男のボクたちが持っててもしょうがあらへんし、女性の一生の中でもいっちゃんの晴れ姿。役立ててもらった方が嬉しいさかいなぁ」
「当日までにはドレスも間に合う手はずになっているよ。きっと綺麗な花嫁になることだろう」
黒崎天音に言われると、エルシャは顔を覆って泣き出した。
「私……なんてお礼を言っていいのか……」
「お礼というなら、君の歌が聴きたいな。グリゼルの話によれば町一番の歌い手だそうだからね」
「そんなことでお礼になんか……」
エルシャは言いかけて止め、ぎゅっと涙をぬぐった。
「ううん……聴いて下さい。私ができる一番のお礼です」
涙をしずめるように深呼吸すると、エルシャは歌い始めた。
何があっても明日は来る。どんな時でも太陽は昇る。勇気を出して進む足下から花が咲いてゆく。
だから信じて笑おう、だから信じて踏み出そう。
声はまだ震えていたけれど、エルシャは力強くそう歌う。
コントラクターたちがくれた希望の灯りを心に掲げて――。
ご参加ありがとうございました。
リアクション作成が大幅に遅れてしまって申し訳ありません。
1つの町からのささやかなお願い。
それに対して皆さまから、たくさんのものを寄せていただきました。
採用できたアクションも出来なかったものもありますけれど、どれも大切に
読ませていただきました。
カナン再生記もそろそろ佳境といったところでしょうか。
これを機会にカナンに興味をもって下さった方がいたら嬉しく思います〜。