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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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第4章 迎撃と不安と

「こちら、スカイブラック。これより作戦行動に移る」
 佐野 和輝(さの・かずき)は、アニス・パラス(あにす・ぱらす)と共に、グレイゴーストで飛びながら、空京の宮殿に情報を送っていた。
 通信はコードネームで行っているが、信用を得るために最初に所属と本名は名乗ってある。
「グリーンアイ、そちらに要塞の予測進路を送った。活用されたし」
『了解。こちらからは援軍の情報を送ります』
 情報を受けているのは、事務官を手伝ってアイシャをサポートしているリア・レオニス(りあ・れおにす)だ。
 和輝は間近で見た要塞の進路。援軍の攻撃による進路のずれから計算したデータを送り、援軍の構成や、予定されている作戦についてのデータを受け取った。 その後、その場から離れ、電波状況の悪い要塞の方へと飛んでいく。
 飛行形態で要塞付近を飛び回り、ブレス・ノウで行動を予測し、要塞の攻撃を避けながら情報を集める。
「和輝、要塞側の攻撃って、めちゃくちゃだよね。ねらって撃ってるって感じじゃないんだよね。近づきすぎなきゃ、避けるの難しくなさそう」
「……だからといって、余裕があるわけではない。もうちょっと緊張感を持ってくれ」
「にひひ〜。火器管制と通信管制を任されてるんだもんね。アニスちゃんと頑張るよ〜♪」
 アニスの返答に和輝は密かにため息をつきつつ、要塞に鋭い目を向ける。
 確かに、要塞の攻撃は無差別で……狙いが定まっていないものばかりだ。
 ただ、進行方向は間違いなく空京であり、飛距離のあるミサイルも空京方面にしか撃たない。
「まるで、空京を狙いますって、言っているみたい、だ」
 とう呟いた直後に、砲身が動いた。
 ミサイルが数発発射される。
「迎撃する。アニス、サポートを頼むぞ」
「うん、当てるよ!!」
 和輝とアニスはブレス・ノウと、反射回避の能力を駆使し、要塞のビーム攻撃を巧みにかわす。そして、撃ちだされたミサイルへミサイルポッドを発射。
 ミサイルは空中で爆発する。
 ほっと、ひとまず安堵した。
 突入班もミサイル発射に合わせて、突入に成功したようだ。
 ……しかし。
 その直後に、別の砲台が要塞内部よりせりあがってきた。
「おわっ!? いくつも砲台出てきたよ!? ヒラニプラも狙えたりして!? っと、砲弾来るよ!」
 アニスはびっくりしながらも、要塞の攻撃を避け続ける。
「……っ。援軍の指揮官は……アイツか?」
 和輝は一旦離脱することにし、地上にいるイコンの部隊へ通信を試みる。

「突然こんなものが出現するとは……目的は一体なんだ!?」
 巨大な要塞を目にして、教導団少尉の叶 白竜(よう・ぱいろん)は顔をしかめつつ、各方面からの情報をまとめていた。
 教導団の部隊は、主に若い団員が所属する周辺住民の避難を担当する隊と、ここより更に南、空京に近い場所から迎撃を担当する隊に分かれている。
 白竜とパートナーの世 羅儀(せい・らぎ)は、情報の取りまとめと、集まった他校生の部隊との連携指揮を命じられていた。
「左舷方向からの攻撃は継続して行うように、指示が出ています」
 白竜はイコンの通信機を用いて、教導団員や、集まった他校生の部隊に、団側で話し合われている作戦について説明していく。
 要塞により近い位置にいる黒崎 天音(くろさき・あまね)からは、要塞の位置についての報告を受けており、ミサイルの迎撃を試みる隊に加わったマリー・ランチェスター(まりー・らんちぇすたー)からは、待機地点を通過したミサイルはまだないとの報告が届いていた。
 要塞が撃ちだしたミサイルが、空京のどこを狙っているのか――到達地点予想をパソコンで引き出して分析してみた白竜だが、宮殿方面と思われる、としか分からない。
 射程が足らなくて届かないのか、その他何かの異常で届かないのか不明なため、延長線上にある宮殿が狙われているのだろうという推測しかできない。
「こんなのが地面の下に今まで眠ってたっていうのか? 目的は宮殿? そこに何が? 女王が狙い、というわけではないだろうに」
 共に黄山を操縦する世 羅儀(せい・らぎ)が呟く。
 女王はテレポートが使える。ましてミサイル発射時間には、空京にはいなかった。
「接近してくれ。推進機器装置の位置を割り出しいたい」
 通信機での説明を終えた後、白竜は羅儀にそう指示を出す。
 自身は情報収集と分析に努めているため、操縦はほぼ羅儀に任せていた。
「了解。揺れるけど、見おとすなよ」
 言いながら、羅儀は黄山の速度を上げて、要塞に近づいていく。
 ただ、要塞はビームや、弾丸を飛ばして無差別に攻撃をしてるため、接近は困難だ。
「左舷から攻撃のプレッシャーをかけ、また、反対側の推進系の装置を破壊できれば、進行方向を右に変えられるかもしれない」
 思い描きながら、白竜は要塞をモニターに拡大して映し出して、その構造を視ていく。
 探索隊の方からも天音を通じて、援軍に依頼が届いている。
 もう1箇所。制御室近くのバリアを破壊し、突入を試みたいとのことだ。
 攻撃を分散させている余裕もなく、既に侵入している班への負担を減らすためには、無駄な攻撃は出来ない。
 一番、効率の良い場所を白竜は割り出していく。
「っと。悪い。ビームが機体に軽く当たった。大丈夫か?」
 指揮統一されていない状態で、要塞付近を他校生のイコンが飛び回っている。
 それが視界を塞いでしまったりと、少し障害になってしまうこともあった。
「問題ない。データは無事だ」
「そうか、バックアップ頻繁にとっておけよ」
 互いに、互いの身体よりも目的を優先とし、イコンを駆る。

「百合園のシリウス・バイナリスタだ! みんなまとまろうぜ!」
 話を聞いてすぐ、救援に訪れたシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は、他校生にも呼びかけて、小隊を組む。
 目的は、探索隊の突入支援だ。
 天御柱学院に留学し、学んできたため、操縦技術には自信があった。
 パートナーのサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)と共に、オルタナティヴ13を華麗に操り、的確な攻撃、防御をしていく姿を見て、他校生達が彼女の元に集まっていく。
「要塞に張られているバリアを破ろう。何度か攻撃をしてみたが、単独で破るのは難しそうだな」
 十七夜 リオ(かなき・りお)が、フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)と共に、ピングイーン(ダイバーモデル)を操りながら、近づいてくる。
「しかし、バリア張ってるにも関わらず、ドンドン攻撃してくるなんて……どっちか一方にしろっての!」
 リオは不満気に言う。
「そのエネルギーも、ブライドオブドラグーンから出てるのかね?」
「だとしたら、攻撃をすることで移動を抑えられるかもしれませんね」
 リオの疑問に、そう言葉を発したのは、フロッ ギーさん(ふろっ・ぎーさん)と共に、Nachtigallを操るナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)だ。
「バリアを破るには、一点集中砲火が定石かと思いますが、バリア発生装置のようなモノがあるようなら、それを狙った方がいいでしょうね。要塞の周囲を回ってみて、少しわかったこともあります」
 ナナがそう言うと、シリウスはナナのイコンにデータを送信する。
「詳しくは、白竜らが今、調べてくれている。その前に、あんたが見つけた弱点とかも、地図に書き込んでくれるか」
 送ったのはアレナ・ミセファヌスから聞き出して、書かれたという地図。
 シリウスの元にも、多方面から転送されていた。
 ナナはその地図に、壁が薄そうな場所や、ハッチと思われる場所を記していく。
 バリア発生装置については、まだ把握できていなかった。
「私は蒼空学園のハーティオン。今回は、浮遊要塞アルカンシェルの侵攻阻止作戦に参加する事になった」
 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が、上空からシリウス達に語りかける。
「バリアに阻まれ、単発攻撃では大きなダメージが与えられなかった。バリア打破後は、私は要塞の推進力を発揮している機関に攻撃を仕掛けて、足止めを狙いたい。その場所の目星はついているだろうか?」
「それも今、調べているところ。向こうはどうだか知らないけど、こっちのエネルギーは有限だし、無駄には出来ないからな」
「ああ、要塞には自動修復システムが備わっている可能性もある。消耗戦になると不利かもしれんな」
「ガーッ」
 1回のチャンスに、最大の攻撃を行うことが得策だと、ハーティオンは言い、龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)がその通りだと吠え声を上げる。
「そうだな。そっちの指示に従わせてもらう。一人でも多くの人を、無事に要塞に突入させるためにもな」
「連携が必要ですね」
 月詠を操る、氷室 カイ(ひむろ・かい)サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)も、シリウスの指揮下に入ることにする。
「要塞左舷方向を見てきたが、やはりどこもバリアで護られているようだった。バラバラに攻撃していたのでは、いつになってもバリアを破ることはできないからな」
 要塞を止める為には、連携が必要だと、カイも強く感じていた。
「ボクもバリア攻撃に加勢させてもらうよ。とはいえ、指揮下に入るわけじゃないけど」
 少し距離を取りながら、そう話しかけてきたのはブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)
 評判のよくない人物だ。
 へルタースケルターに、ステンノーラ・グライアイ(すてんのーら・ぐらいあい)と共に乗っての参戦だ。
「邪魔はしないし、合わせるよ。要塞を止めるためにね。それだけ言いに来たんだ」
 そう言うと、ブルタはその場から去っていく。
 空京には、意中の相手がいる。だから、本心でブルタは要塞を止めたい――気持ちもあった。
 それに、空京近くの小島には所属する組織の拠点がある。
 余波がそちらに及んでしまうことも、好ましくない。
「ヘルタースケルターは代理の聖像と言われる、純粋な意味での第一世代機。最近では性能に勝る第二世代機が台頭してきていますが、こちらでも技能や改造によりそれに勝る力を発揮できるということを、証明したいものです」
 ステンノーラはイコンを操縦しながら、そう言った。
 特に、このイコンには思い入れがあるのだ。
 公にされていない謎の技術で作られた機体でもあるから。
『こっちは大混乱よ。組織とも連絡がつかないわ』
 空京にいるスクリミール・ミュルミドーン(すくりみーる・みゅるみどーん)から、ブルタに報告があった。
 空京では、混線していて携帯電話も上手くつながらない状態のようだ。
『映画館も閉まっちゃったし、レンタルでもして……あ、レンタルショップもしまってるわ』
 そんな呑気な声が響いてくる。
 互いにもしものことがあったら、互いに動けなくなるのだから。
 危なくなったらどうにか逃げるようにと、ブルタは彼女に忠告しておく。
『勿論』
 電話からは余裕のある声が返ってきた。