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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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「姉様も一緒だったら良かったのにねー」
 空京駅から飛び出した紫桜 瑠璃(しざくら・るり)は、とっても楽しそうに笑みを浮かべていた。
「2人ともー早く行こうなのー♪」
 今日は緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)と、緋桜 霞憐(ひざくら・かれん)と一緒に、空京に買い物に来たのだ。
 瑠璃は遙遠の手を掴むとぐいぐいひっぱる。
「ふふ、誰かしら忙しかったりして、揃ってというのはかなり久々ですね。楽しめればいいですね」
 暖かな太陽の光に、眩しそうに目を細めながら遙遠は微笑みを浮かべる。
「霞憐ちゃんも早くーなのー」
 瑠璃は、霞憐の手も掴んで道路の方へと2人を引っ張りはじめる。
「瑠璃……ちゃん付けで呼ぶなと何度言えば……」
「霞憐ちゃん早く、霞憐ちゃん早くーっ」
 はしゃぐ瑠璃の姿に、霞憐は大きく息をつく。
「いや、もういいや……」
 ちゃん付けはやめてほしいと何度も言っているのだが、瑠璃は直してくれない。
 霞憐は半ば諦めモードだった。
「焦らない焦らない。今日一日は空かしてあるので、時間はあるのですからゆっくり行きましょう」
 遙遠はそう言うが、瑠璃は「急いでいって、ゆっくり楽しむの」と言って、2人を引っ張ることをやめない。
「それじゃ、まずは地図を見ていく場所を決めようか」
 霞憐は瑠璃の手を握り返して、周辺地図が貼られている看板へと歩いていく。
「瑠璃から目を離さないようにしてくださいね」
 瑠璃と歩いていく霞憐に、遙遠はそう声をかけて自分は周囲を見回す。
 空京駅の駅前は、いつものように人々であふれていて。賑やかで、活気にあふれていた。
 楽しい1日の始まりに、3人は胸を躍らせていた。

「ごちそうさま〜」
 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は、すっごくご機嫌な表情で、御気に入りの高級カフェを出た。
「まだちょっと時間あるよね。ふふふ〜ん♪」
 幸せの歌を口ずさみながら、ノーンは空京の街をぶらぶらと散策しだす。
 散歩を楽しんだ後には大人気のドーナツ屋で、パートナーの御神楽 陽太(みかぐら・ようた)と、その妻である御神楽環菜、それから陽太の他のパートナーにお土産を買って帰るつもりだった。
 既にそのドーナツ屋には、『戦闘用イコプラ』を『りっと君』と名付けて式神にし、行列に並ばせている。遠隔呪法で操作していないので、きちんと並べているかどうかわからないけれど、能天気なノーンは気にしてなかった。
「散歩してるうちに、お腹空いちゃうかな? ドーナツ楽しみ♪ おにーちゃん、おねーちゃん、環菜おねーちゃんの分、食べちゃわないようにしないと」
 いい匂いにつられて、飲食店のショーウィンドーの前で立ち止まったり。
 公園によって「お魚いるかな?」と、池を眺めてみたり。
 ほのぼの、ノーンは散歩を楽しんでいた。
 いつも通り、楽しい時間を過ごして、お土産を抱えて帰る、つもりだった……。


第1章 シャンバラ宮殿

 シャンバラ宮殿の大広間に人々が飛び込んで来る。
「状況は? 食い止められそうか!?」
「市民に話せばパニックになる。しかし、悠長に避難誘導を進めていたら、間に合わんぞ!」
 高官の口から次々に緊迫した声が飛び出す。
「分かっているのは浮遊要塞――アルカンシェルがこの空京方面に向かっているということ。こちらの方向に2発ミサイルを発射したということ。要塞動力としてブライドオブドラグーンが使われていると思われること。それだけです」
 凛とした大声で発言をしたのは、ミケーレ・ヴァイシャリー。ヴァイシャリー家の子息と名乗った青年だ。
 ざわめきが収まり、人々の目はミケーレに向けられる。
「更に、何者かが古代の浮遊要塞を起動したと思われること。その者が空京への攻撃の姿勢を見せていること。……これらから、何が推察できるでしょうか。皆さんの意見をお聞かせください」
 言って、ミケーレは女王アイシャ・シュヴァーラ(あいしゃ・しゅう゛ぁーら)をエスコートし座らせた後、その隣に腰かけた。
「秘書を務めさせていただきます」
 ミケーレの後ろにパートナーの錦織百合子が腰かける。
「百合園女学院の生徒の、キュべリエ・ハイドンです。お手伝いさせていただきますわ」
 百合子の隣には、キュべリエ・ハイドン(きゅべりえ・はいどん)が腰かけ、百合子に百合園と百合園生徒会の現状について、知っている範囲で手短に説明をする。
 百合子はその中から、現在の状況を打開するために必要な情報だけメモをとっていた。
 反対側の隣――アイシャの後ろには、ロイヤルガードのリア・レオニス(りあ・れおにす)が、パートナーのレムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)を伴い腰かけて、ノートパソコンを起動する。
 彼はアイシャの護衛はもとより、通信機とパソコンで情報を取りまとめ、事務官としてアイシャをサポートするつもりだった。
 その様子を見て、広間に集まった人々も椅子に腰かけていく。
 官人達は慌ただしく走り、会議の準備を進める。
「警備を担当させていだだきます、ハインリヒ・ヴェーゼル少尉です」
 身体検査の能力で警戒しつつ、ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)は声を上げた。
「よろしくお願いします」
 アイシャからそんな言葉が返って来ただけで、ハインリヒを気に留める者はいない。
(何だか居心地が悪いなぁ……)
 ハインリヒは室内を見回しながら密かに眉をひそめる。
 何故かこの広間には、学生と思われる若い女性が多い。
 体験実習が行われていたからなのだが、ハインリヒはそれを知らなかった。
 いや、察してはいたがそれが本当に偶然なのだろうかと考えてしまう。
(もしも、この会議の面々が意図的に集められたのだとしたら、その狙いは、おそらく、国軍を要塞迎撃作戦に極力関与させない事だろうな)
 一人、疑心を膨らませていく。
(国軍の活躍を最低限に抑えつつ、ロイヤルガードと白百合団が中心となり空京の危機を救う、って訳か)
「こら」
 ハインリヒの腕を小突いたのは、パートナーの天津 亜衣(あまつ・あい)だ。
「警備に身が入っていないわよ、もっと緊張感を持ちなさい」
 亜衣はそう小声で叱咤する。
「んー」
 ハインリヒはため息をついて気持ちを落ち着かせる。
「……ま、オレみたいな下っ端があれこれ考えたって、どうこう出来る話じゃねぇけどよ」
 そして、やや不満げにだが、大人しく警備につくことにする。
「ニルヴァーナ探索隊に加わって、現場に行っている人が多いから、ここの警備はあたし達が頑張らないとね」
 ハインリヒと対照的に亜衣は女生徒が多いことを不自然だとは思わなかった。
 パートナーは妙な疑問を戴いているようだけれど、すべきことに変わりはない。
 厳しい目で室内を見回して、何かの際にはすぐに動けるよう準備をしておく。
「風見さんたちから、初代の白百合団団長だとお聞きしました」
 志位 大地(しい・だいち)は、パートナーのシーラ・カンス(しーら・かんす)メーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)(人型名:氷月千雨)と共に、百合子に近づいて自己紹介をする。
「瑠奈ちゃん達のご友人? 男性のご友人もいるのね」
「ええまあ……戦友、でしょうか」
 少し目を泳がせて大地はそう答えた後、百合子に嫌味のない微笑みを向ける。
「何とお呼びしたらいいでしょう? やはり皆さんと同じように、百合子様……でしょうか?」
「普通で構いません」
 百合子も緊迫した表情に少しだけ笑みを浮かべて答えた。
「今回、あなたの側で行動させてもらってもいいですか? あなたに興味がありますので……おっと、安心してください。俺は彼女持ちですので」
 誤解のないよう、大地は交際相手の写真を百合子に見せた。
 ちらりと写真を見た百合子はちょっと不思議そうな顔をした。
「他意はないということですね。白百合団員のご友人の方に側にいていただけましたら、私も安心ですわ。よろしくお願いします」
「ありがとうございます」
 百合子の許可を得て、大地は彼女の隣に腰かけた。
「あ、あの……は、初めまして。今回はよろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げて、千雨も緊張しつつ席に着く。
「可愛い魔道書のお嬢さんだね。パートナーがいなければ、俺が貰いたいくらいだ」
 振り向いてそんなことを言ったのは、ミケーレだった。
 途端、千雨は赤くなる。
「そうですか、それではお近づきのしるしに……」
「だ、大地、何いってんの……っ」
 魔道書を渡そうとする大地を、千雨は大慌てで止める。
 そんな2人の姿に、ミケーレの顔に笑みが浮かんだ。
 会議が始まる前に、少しだけ周囲の皆の心に余裕が出来た――。
(大地×ミケーレ……ああ、いけない。油断大敵)
 大地のもう一人のパートナーシーラ・カンス(しーら・かんす)は、ベルフラマントで気配を殺し、少し離れた位置から場を見守っていた。
 手にはデジタルカメラに、デジタルビデオカメラ。
 ビデオカメラを回しながら、気になる人物やスクリーンに映し出された映像をデジカメで撮影していく。
 特に、百合子とミケーレのことをシーラも気にしていた。
(青い鳥ちゃん、緊張してるわねぇ。ミケーレさんは軟派なタイプ? こんな場じゃなければ、もっと積極的なのかしら〜)
 和やかな会話をしている余裕はないらしく、既にミケーレは前を向いており、千雨はその背を最初よりは少し表情を和らげて見ている。
 大地は百合子と会話を続けていたが、雑談ではなく現状を打開するための相談に移っているようだった。
 もう、一刻の猶予もない。
 スクリーンにライブ映像が映し出され、皆の口から動揺の声が漏れ始める。
 シーラはその様子も全て、カメラに収めていく。
「浮遊要塞を破壊するにしても空京の真上で破壊すれば被害は甚大になりますわ。スピードが今回の作戦の命ですわね」
 キュべリエの発言に、アイシャが厳しい目で深く頷いた。