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リアクション
第2章 混乱の街
「何がどうなってるのかは分からないけれど、空京が攻撃を受けていることは紛れもない事実」
久しぶりに空京でショッピングを楽しむ予定だったレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、パートナー達と共に、大通りにいた。
人々は街頭テレビや避難の呼びかけの放送に、パニックを起こしかけていた。
「でも、要塞がこっちに来るまで、まだ時間は有るはずだよ。皆、落ち着いて!」
契約者の自分達までもがパニックを起こしている場合じゃないと、レキは自分を落ち着かせるためにも大きな声をあげた。
「すぐに避難できる人は、飛空艇や列車を使って逃げた方がいいよ。ヒラニプラに行った方が逆に安全かもしれない。出られない人は郊外の避難所に向かった方がいいと思う。誘導をしている警察官の指示に従って……あー……っ」
誘導の為に出ている警察官は市民の質問攻めにあっており、肝心の仕事が行えていない。
「あっ」
大人とぶつかって、小さな子供が転倒した。
「おー、大丈夫か?」
すぐにミア・マハ(みあ・まは)が駆け寄って、抱き上げて起こした。
「うっ、うっ……わーん」
だけれど、子供は声を上げて泣き出してしまう。
膝をすりむいてしまったようだ。
「泣いている場合じゃないぞ。早く避難せんとな」
この子に必要なのは、魔法の治療ではない。
「ここにいたら危ないぞ?」
子供はぶんぶん首を横に振り、ただ泣いている。
泣いているのは、痛いからではなくて、不安感を感じているからだと、ミアにはわかった。
「薬を上げられるのは、わらわではないの。頼めるかの?」
ミアは誘導を手伝っているチムチム・リー(ちむちむ・りー)の腕を引っ張った。
「ん? お母さんと一緒じゃないアルか?」
ミアに代わってチムチムが子供の前に出る。
チムチムは大きな黒猫の姿の、ゆる族。
ふかふかおててで、子供の頭をぽふぽふ、なでなでしてあげる。
「お母さん、ご飯買い物してる。僕はおもちゃ見てたのっ」
「そうアルか〜。この辺で買い物してたのなら、あっちの施設の方にきっと避難したアルよ。そこに行けば多分お母さんは居るアルよ」
だから安心するアルと男の子に言うと、男の子は涙をぬぐいながら首を縦に振る。
もう大人にぶつかったりしないようにと、チムチムは男の子を背負って人々が避難している施設へと急ぐことにする。
このあたりは宮殿とも近く、攻撃を受ける可能性が高い場所だ。
「この騒ぎも皆が何とかしてくれるアルよー。それを信じて欲しいアル。子供を連れてるお母さん達も、おじいさんもおばあさんも、みんな避難するアルよ。不安なら傍にいるアルよ〜」
そういうチムチムに背負われながら、男の子はぎゅっとチムチムを抱きしめてくる。
その施設は一時的な避難場所となり、状況を見て空京警察の指揮で避難誘導が行われるはずだ。
それまでの間、子供達の傍にいてあげる必要がありそうだった。
「直接攻撃を受ける前から、怪我をしないようにしてください。皆、状況を知りたいのは一緒です。まずは避難して避難所で一緒に訊きましょう」
カムイ・マギ(かむい・まぎ)が警察官に群がっている人々に呼びかける。
先ほどの子供もだが、驚いて腰を抜かして歩けなくなっている老人や、気分が悪くなり座り込む女性、他人を押しのけて怪我をさせる人、パニックを起こして乗り物に轢かれそうになる人など、ミサイルが飛んでくる以前から、怪我人は出てしまっていた。
精神力は無限ではなから、1人1人全てを癒している余裕はなかった。
特に気分が悪そうな人、動けないほどの怪我をしてしまった人のみ、カムイはヒール、ナーシングで治療し、施設まで肩を貸してあげることにする。
「百合園女学院、生徒会執行部の風見瑠奈です。シャンバラ政府から状況をお聞きしています。まずは女王のお言葉に従って、避難をお願いします!」
女性の声が響く。よく知る声だった。
「先輩!」
レキはすぐに声の主である、風見 瑠奈(かざみ るな)の下に駆け寄った。
彼女は白百合団員を十数名連れている。
「あっ、レキさん良かった。避難誘導手伝ってくれる? 交通整理さえ満足に行えないわ」
市民全員の誘導に足りるだけの人員はいない。
役人達も勿論、警察を手伝っているが、彼らは攻撃や犯罪から守るだけの力は持っていない。
「はい、手分けして頑張ります。避難場所が変わったり、別の指示がある場合には、電話をください。こっちで何か発見した時にも、連絡をいれます。誰に連絡を入れればいいでしょうか」
効率よく一般人を避難させるためにはどうしたらいいのか。
怪しい人物や事件に遭遇した場合の連絡先。
避難場所の情報を取りまとめている人はいるかどうか、そういった空京の情報をレキは瑠奈に求めていく。
「レキへの情報は私から行くようにするわ。指揮系統が変わる場合もすぐに連絡をいれるから。お願いね」
瑠奈は手短に現在の状況を説明し、空京の地図を一部レキに手渡す。
今回の緊急避難で使うと思われる施設にしるしがついていた。
「それじゃ、ボクはこの辺りの避難に協力します」
素早く、レキは自分の担当場所を決めて、瑠奈の承諾を得る。
それから、パートナーと手分けして、施設への誘導を始めるのだった。
「僕も手伝おう」
空京を訪れていた教導団少尉のトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が、警察官に名前と所属を名乗り、協力を申し出る。
既に自ら連絡を取り、教導団から情報は得てあった。
「軍の方ですね、助かります。自分はここから動けませんので、住宅街の方に向かって説明と誘導をお願いします。本部へはこちらから報告しておきます」
一般人に囲まれて動けない警察官がトマスにそう言った。
「了解しました」
トマスは携帯電話で、避難区域を確認する。
この大通りを少し外れた住宅街も避難区域に入っている。すぐに、トマスはパートナー達と住宅地に向かう。
「道が混雑して通れない場所もあるな。一斉に同じ方向に向かっても渋滞になるだけだ」
テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)は、空京の地図にマッピングの能力で避難経路を何通りも書き込んでおく。
「面倒なことに巻き込まれたわね」
ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)は思わずため息をつく。
「非番の時に労働なんて、ついてないわね」
言葉ではそんなことを言っているが、目は冷静で真剣だった。油断なく辺りを見回し、状況を確認していく。
「この辺りは宮殿に近いため、皆さん念のために避難してください!」
住宅地に入り込み、トマスが大声を上げる。
「どういうことなの!」
「何がおこっているんですかっ」
次々に窓から住民たちが顔を出して、尋ねてくる。
「落ち着いて話を聞いてください」
そう言った後、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)は現状の説明を始める。
「古代シャンバラ時代の浮遊要塞が突如起動し、こちらの方向に迫っています。まだ通信はできておらず、その目的はわかりません。ただ、起動させた人物には空京への攻撃の意思があるのではないかと、政府は考えています」
ですので、念のため避難をして欲しいと呼び掛ける。
「進路でもあり、王都から近いこの場所は、爆弾投下やミサイルによる攻撃を真っ先に受けそうな場所です。準備のできた方から、順番に落ち着いて避難をお願いします」
既に飛空艇発着場や道路は乗り物や人で溢れているが、皆が落ち着いて且つ迅速に行動をしていけば必ず皆避難できると、子敬は住民達を説得しながら街中を走り回っていく。
「準備に時間がかかると、その分後の方の避難に影響が出ます。乗り物をお持ちの方は速やかに乗り込んで、飛空艇発着場へと向かってください。乗り物がない方は、徒歩で駅に向かってください。くれぐれも要塞の進路方向にはいかないように!」
トマスも大声で呼びかけながら、携帯電話を見て避難状況をチェック。
適切な避難場所を選択していく。
「道路はあっちの裏道が比較的空いてるようだ。この辺りの住民はそっちから駅に向かわせた方がいいだろう」
テノーリオは裏道の方を確認し、先行して進路の安全確保に努める。
「こっちだ。皆さん、事故を起こさないよう注意してください」
トマスは彼の誘導を基に、バイクで人々を先導して飛空艇発着場へ急ぐ。
「あ、ちょっと待ってください」
子敬が駐車場から道路に出てきた軽トラックを止める。
「あちらの方々はお年寄りと子供を連れているようです。荷台に乗せてあげてはいただけないでしょうか」
子敬の頼みに運転手は焦りながらも応じてくれる。
「こちらです。落ちないように注意してくださいね」
急いで、子敬は老人と子供を抱き上げて荷台へと乗せる。
それから自分自身も馬に乗って、道路の状況を伝えながら人々をまとめていく。
「車両で避難する人はこれで全部!? 駅に向かう人達もどうか気を付けて」
最後に、人々に声を掛けながらミカエラが空飛ぶ箒に乗って出発する。
トラブルを起こした車両にすぐに駆けつけて、問題可決に努め、人々をはげまし、目的地へと追い立てる。
上空への注意も忘れない。
「万が一、こっちにミサイルが飛んできても、サイコキネシスで逸らすから大丈夫よ!」
そう声をかけると、市民の顔に少しだけ安堵の色が浮かんだ。
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