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リアクション
第七章 攻防の裏で
「っと、ここは操縦室か。中を見学したいところじゃが……やめておくか」
遠足気分で参加をした光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)は、戦闘が始まってからもアルカンシェル内を見学して回っていた。
操縦室も見学したいところだが、今入ったら、手伝えだとか、出撃しろとか言われそうな気がするので、近づかずに別の場所の見学に向かうことに。
「宇宙が見える部屋あるかな」
タダで宇宙に行けるこの機会に、宇宙旅行を存分に満喫するつもりだった。
(ねぇ、何を想ってアイシャちゃんは詩穂をロイヤルガードに直任したの?)
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、ブリッジでモニターに映し出されている宇宙を見ながら、自分に問いかけていた。
(アイシャちゃんがしたくでも出来ないことを───代わりにシャンバラ女王の剣となり楯となることが、『アイシャちゃんからロイヤルガードに直任された詩穂』が本当に【アイシャの騎士】にふさわしくなるための役割……)
アイシャへプレゼントした【悠久】と対になっているロケットペンダント【慈愛】をぎゅっと握りしめる。
(アイシャちゃんを護るんじゃなくて、アイシャちゃんの護りたいものを一緒に支えよう)
暗い宇宙の向こうのパラミタを。パラミタで待つアイシャの姿を思い浮かべながら、詩穂は口を開く。
「……わかったよ、アイシャちゃん。一緒に戦おう! シャンバラの人々を直接護るために戦おう。詩穂もアイシャちゃんの元に必ず帰ってみせるから」
「ところで一つ、どうしても聞いておきたいことあります」
操縦室にて、 ソルファイン・アンフィニス(そるふぁいん・あんふぃにす)がその場にいる皆に尋ねる。
「現在、この要塞は元々の動力源であったブライドオブシリーズではなく、機晶エネルギーで動いています。あの小さな武器ではなく、大量の機晶石の膨大なエネルギーで、です」
現在置かれている状況はわかってはいるが、ソルファインにとってはとても大事な、確認すべきことがあった。
「強大な力を持つ、ブライドオブシリーズを再封印する方法はあるのでしょうか?」
ソルファインは、ブライドオブシリーズを巡って激しい争いが起きたこと、そのなかで本来の目的からはずれ自身の力にせんと動いた契約者が少なからずいたことを耳にしていた。
そして、やはりそのようなものは存在するべきではないとの思いを強くしていた。
「えっと……ブライドオブシリーズを月の港に納めれば、誰も手出しできなくなる……とポータラカの人が言っていました」
彼の問いには、アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)がそう答えた。
「このまま積極前進でいきたいところだが、どうする?」
操縦席からは、パイロットを務めているシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が、後方のブリッジにいる神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)に尋ねる。
「少し離れた方が侵入抑えられるかな?」
サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が、振り向く余裕のないシリウスに代わって、優子に問いかける。
「しかし、離れてしまったらアルカンシェルを守る為にイコンを割けなくなる」
優子の傍で彼女をサポートしているレン・オズワルド(れん・おずわるど)が戦況を見ながら、そう言った。
シリウスの提案もあり、アルカンシェルは古代戦艦アンサラーにプレッシャーをかけるためにもと、前進をしている。
「バリアはほとんど使えねぇし、攻撃も近距離用の武器が少し使える程度。露払いくらいはなんとか出来るが……」
シリウスは敵艦にさらす面積が最小限になるように布陣するよう提案をし、必要時にバリアをそこだけに張って備えている。
「方針は変えなくていい。バリアの張れない部分にはイコンを配備する」
優子はそう答えて、オペレーターを務めているアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)にパイロットに伝えるよう指示を出す。
「はい……あっ!?」
通信を行うとしたアレナがビクンと大きく震えた。
「ズィギル・ブラトリズからの、テレパシーか?」
青くなっていくアレナに、優子が尋ねる。
アレナは首を縦に振った。
「拒否しろ。キミは何も聞かなくていい。交渉があるのなら、アルカンシェルに直接送れと伝えろ」
優子の言葉に、アレナは強く頷いて目をぎゅっと閉じた。
「私が代わります」
補佐として操縦室を訪れていたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が優子の許可を取り、アレナと交代をして外部通信オペレーターの席に座った。
「大丈夫です……もう、聞きません。私……入り込んだ人達と戦った方がいいでしょうか?」
不安げな表情でアレナは優子に問いかけた。
ズィギルからの通信が届くかもしれないこの場に、自分はいない方がいいだろうと……優子の足で纏いにもなりたくないとアレナは考えた。
「それでもいいし、救護に回ってくれても構わない」
優子はアレナの頭にぽん、と手を置いた。
「辛くなったら、ここに戻っておいで」
「は、い……っ。大丈夫です。皆と一緒に、頑張ります」
アレナはそう言い僅かに笑みを見せて、優子のもう一方の手を掴んだ。
「持っていてください」
自分の体の方へと引っ張り、優子に彼女の光条兵器――星剣を持たせる。
「私の武器は、狭い所の戦いに向いていないので、とりあえずは医務室にお手伝いに行きますっ」
ぺこりと皆に頭を下げて、アレナは操縦室から飛び出していく。操縦室に留まっていた何人かの契約者も彼女と共に、医務室へと向かうことに。
「イコン全機発進完了。アルカンシェル防衛システム、一部作動……」
内部の状況も気になるが、ルカルカは操縦士のシリウスをオペレーターとして補佐する。
その前に、優子にもデータをインプットしたノートパソコンを直接見せており、作戦の許可を得ていた。
「敵イコン1機接近。バリア展開します」
決行の機を見ながら、ルカルカは今はサポートに徹する。
「イコンの操縦と違って、回避とか楽にできねぇしな。装甲が厚くてバリアも展開できる場所を戦艦側に常に向けておかねぇと」
シリウスは戦況に注意しながら、アルカンシェルのスピードや方向を微修正していく。
思いの他、多くの物が出撃してくれた為、戦況は悪くはない。
「内部が持ってくれれば、どうにかなりそうだが……どうだ?」
「内部の状況、簡単に教えて」
シリウスの疑問に答える為、サビクは内部の情報管理を行っているフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)に尋ねる。
「侵入は6か所のエアロックから。少ない場所で5体ほど、多い場所からは30体前後入り込んだようです。機晶姫の目的場所は、上層のエネルギー室と、最下層の機関室と思われます」
「アルカンシェルの動力を奪うのが目的だね」
サビクの言葉に頷いて、フレデリカは続けていく。
「隔壁で侵入を阻んでいますが、爆破して進んできます。また、グレネードランチャーを装備しており、こちらの威力も侮れません」
フレデリカは現在の隔壁の状況を皆のHCへ送る。
サビクはこれまでに届いていた情報と、フレデリカから聞いた情報を見比べて、相違ないことを確かめると集中しているシリウスに、必要なことだけを教える。
「データはこちらでもまとめています。今のところ、各方面からの情報に、大きな相違点などはありませんね……」
フレデリカのサポートをしているルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)は、届いた情報を表にまとめていた。
発信者と発信場所を明確にし、情報の元をたどれるようにすることで、情報の吟味をしやすいようにしておく。
また、こうしておくことで精度が低くなる又聞きによる情報の発信元も辿りやすくなる。
「信憑性の高い情報だけではなく、薄い情報の発信源も辿っておくと良いだろう」
魔鎧として、フレデリカに纏われているグリューエント・ヴィルフリーゼ(ぐりゅーえんと・う゛ぃるふりーぜ)が、小さな声でそう助言をする。
「そうね……。といっても、今のところ変わった情報はないみたい。もし、何か変わった情報を受信した時には、気を付けてみるわ」
フレデリカはグリューエントにそう答える。
今のところ、アルカンシェル内での情報操作などの妨害は行われていないように、思える。
「機関室、エネルギー室、共に善戦しています。狭い艦内での戦闘の為、これ以上人員を集めても有利にはならないと思います」
モニターで戦況を確認しながら、フレデリカはそう報告する。更に。
「確定した事実としては、侵入した機晶姫は、機晶キャノン、機晶姫用レールガン、グレネードランチャー、及び爆弾を所持しています。接触した者が推察した情報としては、機晶姫にはほぼ感情はない。向かっている場所はエネルギー室と、機関室。率いている者などはいない。ということです」
ルイーザが得ている情報を間違いのないよう、正確に皆に伝えた。
「回り込んで、進攻を防ぐ必要があるわよね。隔壁で完全に阻むことは難しそうだけれど、多少の足止めにはなる」
そう言ったのは、フレデリカと共にオペレーターを務めるリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)。
主に、外部状況の把握に努め、更なる侵入に備えている。
「カメラとか潰されたら、代わりに目になるために行くわよー」
リカインの後ろで、いつでも飛び立てるように準備をしながら、シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)が言った。
「カメラは今のところ大丈夫そう。でも、カメラに全く映らない人がちょっと気がかりだわ。見てきてくれる?」
「了解」
リカインから指示を受け、シルフィスティは機晶姫が入り込んでいない場所を通って、居住区の方に向かうことに。
「自分は遊撃のサポートに向かいましょう」
同じく、ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)も、リカインの元を離れて情報面のサポートをするため、遊撃に出ることに。
シルフィスティほどの機動力はないが、ヴィゼントには防衛計画の能力がある。
「お願いね」
と言って、リカインは2人を送り出した。
「味方だけに全員に一斉に連絡を送れる方法があればいいんだけど……ないとなると、仕方ないわよね」
リカインは小さく呟く。
放送は敵機晶姫にも聞かれてしまうため、状況によっては適さない。
とはいえ、テレパシーを一斉に送ることが出来るほどの特殊能力はなく、あっても相手の状況を知らずしての送信が上手くいくとは限らない。他の相手とテレパシーで会話中や、戦闘中の者を混乱、動揺させてしまう可能性もある。
「今のところ、侵入できる場所は、なし……と。さて――」
リカインはそう呟いた後、黙々と作業をしだした。
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