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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

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 リカインはテレパシーで時間をかけて、一人一人に自分のかける放送は偽の放送であることを伝えてあった。
 遊撃に出ていた、ソルファインと、ヴィゼントにも情報伝達の一環として、伝言をさせていた。
 内通者がいる可能性も聞いていた為、より信頼の置けるものから送っており、反逆発覚前にはまだアウリンノール達に送っていなかった。
 警報と自爆の知らせに、多少慌てた者もいたが乗組員に大きな影響はない。
 しかし、機晶姫の方は影響を受けており、統率に大きく乱れが起きた。
 医務室の中も――。

「作戦成功、脱出……」
 ヴァーナーを捕縛している機晶姫の動きに迷いが出た。
「にげなくていいですよ……ここでみんなといっしょに、けがを……なおすです。なかよく、なおすです、よ……」
 ヴァーナーは苦しげな息の下、機晶姫に呼びかけ続けていた。
 バン、と。
 部屋のドアが開いて、アレナが飛び込んできた。
「ズィギルさん、ズィギルさん、ズィギルさん……っ!」
「落ち着いて!」
「アレナ……!」
 狂ったように叫ぶ彼女の元に、マリー呼雪が駆け付ける。
「動ク、壊ス」
「……んっ……」
 機晶姫が身体から飛び出した鋭い部品をヴァーナーに深く突き立てた。
 ヴァーナーの小さな体がより、傷ついていく。
 それでも彼女は、仲良くしましょう、仲良くしようと言い続ける。
(ルシンダさん、ルシンダさん!)
 は、生気のない表情をしているルシンダに、テレパシーで必死に呼びかけていた。
 何も解らないけれど、何故かそうしなければ取り返しのつかないことになりそうで。
 ただ、黙って傍見ていることなんて、もう出来ない。
(キミの本当の意志は!? ルシンダ、さん!
 そう強くテレパシーを送って、円はぐっとルシンダの手を握りしめた。
「あ……」
 ルシンダが、目を瞬かせる。
「ズィギル、さん」
 マリーと呼雪に支えられながら、アレナはズィギルのテレパシーに答えていく。
「私は、あなた一人のものにはなりません。でも、あなたとも友達になれます。苦しい、より、楽しい方が、いいはずです。悲しい、顔より、笑い顔を見ている方が、嬉しいはずです。ひとりだけ、いいことがあるより、みんなでいいことがあった方がいいはずです。みんな、みんな、仲良くした方がたくさん、嬉しいはずなんです……。そう、今の時代で出会った人達が教えてくれました」
 みんな、仲良く。と言い続けるヴァーナーを。
 戦い続けている、康之や葵、ユニコルノ達大切な友達を。
 隣で支えてくれる人を。
 アルカンシェルを守っている大切な人を次々に思い浮かべながら、アレナは言葉を続ける。
「それでも、私の苦しい顔が好き、なら。ズィギルさんと会った時は、私に苦しいことしてくれても、いいです。ズィギルさんが楽しいように、してくれてもいいです。封印して動かない私を見ているより、ずっと楽しいはずです。友達として、仲良くした方が……絶対……」
 過呼吸に陥り、倒れそうになるアレナをマリーと呼雪は座らせた。
「こわくないですよ〜。みんなでたすかるです。みんなで、お月様にいくですよ〜。ボクたちは、戦うことなんてないです。いっしょにがんばるです……」
 ヴァーナーは血を流しながらも微笑んで、自分と同じくらいの大きさの機晶姫の身体を、震える手で撫でた……。
「戦ウ、必要ナイ。命令……命令……」
 機晶姫は命令を求めているようだった。
「ごめんなさい……もう、無理です……お父様、ミケーレさん
 突如、ルシンダが崩れるように膝をついた。
 円とザウザリアスが左右から彼女の身体を支える。
「お返事ないですか? きっと、みんなとなかよくしていいですよってことです」
 迷いのような感情を表す機晶姫を、ヴァーナーは再び、天使の救急箱で治しはじめた。
 いつの間にか、機晶姫は部品を体内にひっこめていた。
「皆デ、月ニイク……壊サナイ、壊、れない方法……」
「そうですよ!」
 ヴァーナーは笑顔でそう言って……意識を失った。
 アレナが転がるように駆け寄って、彼女を、一緒に機晶姫をも魔法で癒して、抱きしめた。

 ズィギルの返事はなかった。

○     ○     ○


 アルカンシェル内の機晶姫に、混乱が生じる。
 イコン部隊の善戦により、指揮系統からの命令が途切れたらしい。
「わかってるわよ。……絶対に無茶はしないから」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、自分を諌めるセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)に、そう言った後、敵の只中に駆け込んでいく。
 メンテナンス用のエアロックに、機晶姫が集まりつつあった。
 ここから外への脱出を考えているようだ。
 むしろ、他の近場のエアロック、ハッチに続く通路を全て封鎖し、ここに敵をおびき寄せたのはセレンフィリティだ。
「逃がすわけにはいかないのよ」
 セレンフィリティは機晶姫が集まったところで、放電実験を発動。
 電気が機晶姫達に衝撃を与える。
「攻撃来るわよ!」
 セレアナはオートガード、オートバリアで自分とセレンフィリティを守っている。
 機晶姫達の射撃は2人に直撃したが、そう大きなダメージは受けなかった。
「何度も食らいたくはないわね!」
 ライトニングウェポンで擲弾銃バルバロスの擲弾に電気を帯電させて、機晶姫に放った。
 雷が飛び散って、機晶姫達に大きなダメージを与えていく。
「近づけば、迂闊に撃てないわよね!」
 セレアナは接近して、シーリングランスで機晶姫をなぎ倒す。
「そっちこそ無茶してるじゃない……離れて!」
 言って、セレアナが離れた途端に、セレンフィリティは再び、耐電した擲弾を撃ち込んだ。
「終わりよ!」
 セレアナは再び、飛び込むとライトニングランスでまだ動いている機晶姫をなぎ倒した。
「……」
「……」
 残った残骸を見ながら、2人は沈黙していた。
 普段なら、互いを労わったり、健闘を褒め合ったりするのに……。
(やっぱり、どこか想いがすれ違っている……私達)
 セレアナは俯いていた。
(この間の一件から、ギクシャクしてるのよね)
 セレンフィリティは心の中でため息をつく。
 あの時。
 自分でも無茶をしたという自覚はある。
 何より発した言葉については、冗談にしては度が過ぎたと言えなくもない。
 自分の無神経な言葉に傷ついたというのなら、それを認めて謝るしかない、けれど……。
(自分がもし本当に死んでしまったら、その時はせめて自分の忘れ形見となるリングを愛する人に付けてもらいたい……自分は死んでしまったとしても、それを見に付けてもらうことでいつまでも一緒にいたいという気持ちを伝えたかっただけなのに……)
 セレンフィリティは機晶姫の身体に爆発物が残っていないかどうか確認をしながらも、セレアナへの想いでいっぱいだった。
「まだ、他の場所にも沢山残っているみたい」
 セレアナは銃型HCから得た情報を確認して、事務的にそう言う。
「そう。行くわよ、決して逃がさない!」
 そう言い、セレンフィリティは駆けていく。
 その後に続きながら。
 彼女の背を見ながら、セレアナは思う。
(……状況が状況なだけに、例え冗談であったとしてもどうしても受け入れられなかった。だから余計に言葉がきつくなってしまったのかもしれない。セレンの言いたい事が判り過ぎるほど判る……自分がもし死んだらそうしてほしいから。けど……それでも……)
「はあーっ!」
 遭遇した機晶姫に、セレンフィリティは必要以上に攻撃を浴びせていく。
「セレン、どうか……無茶はしないで」
 小さく悲しげな声で言って、セレアナは槍を手に、次へ次へと敵の中へと飛び込むのだった。

「可能なら破壊か捕縛を。無理ならば、追い出し、だな」
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は、ブリッジからの指示を復唱し、内部に残っている機晶姫の対処に当たる。
 エネルギー室の階。進行方向とは逆の方向にあるここには、敵の侵入を許してもいいと許可を得ていた。
 敵をおびき寄せる場所の一つとして、トマスはここを利用している。
「この先のエアロックに、行かせはしない!」
 トマスは冷戦の歴戦の防御術の知識で守りを固めて、全力で機晶姫を押し返そうとする。
「まさか逃げようなんて思っていませんよね。目的も達してないのに」
 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)も、我は射す光の閃刃や、サイコキネシスで懸命に機晶姫を押し戻そうとする。
「ここは通しません! あなた方を組織の元に帰すわけにはいかないの!」
 高周波ブレードを振り回して、ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)はバーストダッシュで機晶姫の中に飛び込んでいく。
 攻撃は最大の防御だ。
 なぎ払い、煉獄斬で焼き、ソニックブレードで真っ二つに。
「ミカエラ、行くよ」
 テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)はそう声をかけて、ミカエラが離れた途端、灼骨のカーマインで弾幕援護。
「はあーっ!」
 即座にミカエラは再びバーストダッシュで飛び込み、機晶姫を1体斬る。
 続いて、シャープシューターでテノーリオも機晶姫を狙い、頭部を撃ち抜いた。
 構造が不明なので、急所は解らないが、首を落せば機能を停止させることが出来るはずだ。
「あっ……」
「ミカエラ、下がれ!」
 トマスが声を上げる。
 機晶姫達の銃口がミカエラに向けられていた。
 後方に跳んだ彼女に向けて、機晶キャノン、グレネードランチャーが放たれる。
「後方に退くぞ!」
 トマスが言い、パートナー達と共に、後方に走った。
 それでも放たれた擲弾は、トマス達の傍に落ちて爆発を起こし、4人を負傷させる。
 じりじり下がるトマス達に、機晶姫が迫る。
「あとは任せて」
 エアロックの方から声が響いてくる。
「そうだな」
 厳しい表情をしていたトマスの顔に余裕が現れる。
 目的の場所に、おびき寄せることに成功した。
「頼んだぞ」
 エアロックを守る教導団員の仲間に声をかけると、トマスは武器を構える。
「四面楚歌……私達、ではなく、貴方達にとってですよ、機晶姫さん達!」
 そう言って、子敬が合図を出すと、隠れていた者達が姿を現す。
 エネルギー室を守っていたメンバーが数名、ここに集まっていた。
「今度は本気で行くぞ」
 テノーリオは灼骨のカーマインで狙いを定める。
「私は最大の防御を続けるまでです!」
 ミカエラは再び、斬り込んでいく。
「こちらからも加勢するわ」
「行くわよ!」
 セレアナ、セレンフィリティも駆け付け、逆方向から加勢する。
 そして、エアロックに集った機晶姫に、契約者達は一斉に攻撃を仕掛けた。
 僅か数秒で、この場に集った全ての機晶姫が破壊された。