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リアクション
第二章 ゲルバッキーと娘と時々息子 1
「よく来てくれた、我が娘たちよ」
集まった顔ぶれを見て、ゲルバッキーは満足そうに頷いた。
「娘たちって、エメネアさんの他にも娘さんがいるんスか!?」
驚いた様子の良雄に、ゲルバッキーは何でもないことのように答えた。
「ああ、ここに集まってくれているだけでも十人前後はいるな」
「集まってるだけでも、って……集まってないのも含めたらどれだけいるのよ」
呆れたようにそう尋ねたのはエリザロッテ・フィアーネ(えりざろって・ふぃあーね)。
それに対して、ゲルバッキーは一言こう答えた。
「今までに食べたパンの枚数を覚えているか?」
「そんなにっスか!?」
まあ、ゲルバッキーの言葉なのだから、こちらの常識で、まして明言されていない部分を勝手に補って解釈したりしてはいけないのは周知の事実である。
それをそのまま驚いてしまう良雄は……まあ、ゲルバッキーの相手をするにははなはだ不向きなタイプと言えよう。
「見つけたぞ、クソ親父」
静かなる怒りを抱いてゲルバッキーの前に現れたのは、麗華・リンクス(れいか・りんくす)。
「麗華か。ひどく怒っているようだが、どうかしたのか」
「一つだけ確かめたいことがある」
反抗期の娘を見るような目で見られるのが、麗華にはひどく気に入らない――それもまんざら外れてはいないという自覚があれば、なおさらだ。
「あたしの名前だ。名付けが面倒でこんな名前にしたのか、それともただの気まぐれだったのか」
麗華・リンクス。
今でこそそんなことはなくなったが、大昔、彼女はこの名前のせいで「十二星華もどき」だの何だのとさんざん陰口を叩かれたことがあった。
その理由がなんだったのか、もはや過ぎたことであるとはいえ、やはり知りたかったのだ。
だが、ゲルバッキーの答えは、彼女の予想していたものではなかった。
「そのどちらでもない」
「なら……!」
「お前の名前にはちゃんとした理由がある。だが話すと長くなる、それは日を改めて、だ」
話すと長くなるほどのちゃんとした理由が、本当にあるのか?
そんなものはないだろう、と思った。
だが、それと同時に、そうであってほしい、と思ってしまったのも、また事実だ。
そのことが、「嘘だ」と一言で切って捨ててしまうことを彼女にためらわせた。
「日を改めて、か……必ず、だからな」
「ああ、約束しよう」
その言質を得て、麗華は大人しく引き下がった。
すっきりしたわけではないが、それ以上できることはなかったのだ。
「おお、二人とも元気そうだな」
ゲルバッキーに声をかけられて、コルデリア・フェスカ(こるでりあ・ふぇすか)とソフィア・エルスティール(そふぃあ・えるすてぃーる)の二人は少しきょとんとした顔で振り向いた。
やがて、コルデリアの方が先に事態を察する。
「ああー、確かに見覚え、というか気配に覚えがありますわ〜」
「思い出してくれたか。まあ、久しぶりだから無理もないが」
「はい〜。まさか、お父様とこんなところで会えるとは思いませんでしたわ〜」
そんな二人の会話を聞いて、ソフィアもようやくながらゲルバッキーが声をかけてきた理由に思い当たったようだ……が。
「えええ!? 私のお父様ってゲルバッキーさんだったんですか!?」
「ああ、だがすっかり忘れていたようだな」
苦笑するゲルバッキーに、ソフィアは少ししゅんとした様子でこう続けた。
「あの……すいません。私、今記憶がないので……」
「そうか、それなら仕方ないか。大変だったな」
記憶喪失というのは普通に考えると結構な重大事のはずなのだが、あっさり流してしまうのはさすがゲルバッキーと言うべきか。
ともあれ、当の二人ですら覚えていなかったことであるから、二人のパートナーであるエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)とラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)にとってはなおのこと寝耳に水の話であった。
「なるほど、コルデリアはお前の娘だったのか」
「ソフィアの制作者がゲルバッキーだったとはなあ……ちょっとした衝撃の事実だな」
そんな二人の方に向き直り、ゲルバッキーはおもむろにこう言った。
「ああ、これからも娘たちをよろしく頼む。婿殿」
その言葉に、ラルクが敏感に反応した。
「いや婿殿じゃねぇし!? 俺の奥さんは一人だけだからな!?」
「そ、そうですよ! パパにはちゃんと奥さんが!」
ついとっさに助け船を出……そうとして、いつものくせでラルクを「パパ」と呼んでしまったソフィア。
それを聞いて、ゲルバッキーは少し考えるような素振りを見せてから、やがて遠い目をしてこう言った。
「それがお前の選んだ幸せなら、これ以上私が言うべきことは何もない」
「いや、なんか今すげえ誤解されたような気がするんだが!?」
「え!? え、あ、えええっ!?」
慌てるラルクとソフィアであったが、いったん「合点」したゲルバッキーの認識を改めさせるのはほぼ不可能に近い。
そんな様子を眺めながら、ふと、コルデリアがエヴァルトにこう尋ねた。
「ところで、何がどう『なるほど』だったんですの?」
「ん? いや、別に深い意味はない」
実は「顔つきなどが自分の双子の妹にそっくりなのに、体型だけは全然違う理由」の話だったのだが、エヴァルトがそんなことを本人に向かって言うはずもなく。
コルデリアの方も、あっさりとその説明で納得したのであった。
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