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リアクション
第二章 ゲルバッキーと娘と時々息子 2
そんなこんなで、ゲルバッキーの周囲が少し落ち着いた頃。
「お父さん、お久しぶりです!」
驚いた様子で駆け寄ってきたのは、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)。
「ええっと……お父さんって、ゲルバッキーだったの?」
不思議そうな顔の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)に、ベアトリーチェはゲルバッキーをひょいっと抱き上げながらこう言った。
「はい。お父さんです」
「いつも娘が世話になっている。これからもどうかよろしく頼む」
その、当の「娘」に抱きかかえられている犬の口からこんなセリフを聞く機会など、まあ普通はそうそうないだろう。
「……うん、ええと、こちらこそ?」
ゲルバッキーとの予期せぬ再会に加え、こんなサプライズを重ねられては働く頭も働かない。
頭上に「?」を浮かべたまま答えた美羽に、ゲルバッキーはなぜか満足そうに頷いていた。
「あれ、もしかしてお父様?」
ゲルバッキーの姿を見つけて驚いたような声を上げたのは、ローザ・シェーントイフェル(ろーざ・しぇーんといふぇる)。
「え?」
驚くパートナーの新風 燕馬(にいかぜ・えんま)の腕をとり、そのままゲルバッキーのところへ連れて行く。
「うわ〜、超久しぶり〜! 元気にしてた?」
「ああ、お前も元気そうで何よりだ」
そんな再会の挨拶の後で、当然ゲルバッキーの視線が燕馬の方に移ってくる。
「あー、えーっと、娘さんとは仲良くさせていただいております……」
心の準備をする間もなくこんな場に引き出されてしまい、とっさにそんなことを口走ってしまった燕馬。
その様子を、もう一人のパートナー、サツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)は不機嫌そうに見つめていた。
こんな殺風景でつまらない場所に連れてこられたのはまだいいとしても、まさかそこでこんな光景を見せつけられるとは思いもしなかった。
そんなサツキの神経を、ゲルバッキーの一言がさらに逆撫でする。
「うむ。これからも娘をよろしく頼むぞ、『婿殿』」
「まあ、お父様ったら、婿殿だなんて〜」
そんなことを言いながら、ここぞとばかりに燕馬に抱きつくローザ。
その二人の間に、いよいよ我慢の限界を迎えたサツキが割って入った。
「……ところで燕馬『さん』」
その言葉に、燕馬がビクリと背筋を正した。
サツキが燕馬を「さん」づけで呼ぶのは、第一級の危険信号なのである。
「花嫁の父にご挨拶してる場合じゃないと思うんですけど?」
「そ、それもそうだな……あ、でも最後に一つだけ!」
慌てる燕馬に、サツキは一度小さくため息をつき、大人しく引き下がる――前に、ローザにだけ聞こえるようにぽつりとこう言った。
「あと……おいそこのピンク。『私の』パートナーに駄肉をくっつけないでくれませんかねぇ?」
が、もちろんそんな手が通じる相手ではなく。
「あら? サツキちゃん、妬いてるの〜?」
あっさりとそう受け流され、サツキは無表情のまま……しかし、拳を強く握りしめながら引き下がることになったのであった。
そんなこんなでサツキが引き下がった後、燕馬は今まで気になっていたことをゲルバッキーに尋ねてみた。
「それで、ローザのことなんだけど、『私の製作者が私を封印した』って前に言ってたんだが」
「ああ。理由は聞いていないか?」
あっさりと肯定するゲルバッキー。
「危険な存在だと判断された、とだけは。ただ、その詳細までは」
「そうか……実はだな」
そういうと、ゲルバッキーは器用に前足を振って「耳を貸せ」というしぐさをする。
燕馬がそれに応じてゲルバッキーを抱え上げ、顔を耳元の方に近づけてやると、ゲルバッキーはぼそぼそと小声でその「理由」を説明し始めた。
「……ということだ。わかってくれただろうか?」
説明を終えたゲルバッキーを降ろして、燕馬は複雑な表情を浮かべた。
確かに疑問そのものは氷解したのだが……。
「まあ、わかると言えばわかるけどさ……危険、危険かぁ……」
どうにも釈然としない、という表情で首を傾げる燕馬が何を聞いたのか、それを知るのは当人しかいない。
そして、ローザと似たようなことを考えていた者は他にもいた。
「勇平君、改めてご紹介しますね。私の父です」
すごくいい笑顔で、パートナーの猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)にゲルバッキーを紹介しているのはウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)。
「ウイシアの制作者ってゲルバッキーだったのか……初めて知ったぜ」
「ええ、いつかお話ししようとは思っていたのですけど、なかなか機会がなくて」
「うむ、まあ普段はそんな話はあまりしないだろうからな」
まあ、二人の言うことにも一理あるのだが。
「ともあれ、婿殿。これからも娘をよろしく頼む」
「あ、ああ、こちらこそ……」
そんなことを答えながら、勇平はなぜか理由のわからない不安を感じていた。
この出会いが、何か危険であるような……別に今さら制作者が誰であれ、ウイニアはウイニアで何も変わらないはずなのだが、なぜかそんな気がして仕方なかったのだ。
だが、彼の第六感が危険を告げていた理由は、きっと「ウイニアの制作者がゲルバッキーだと判明したから」ではないだろう。
(これでお父様との挨拶も終わりましたし、あとは既成事実と婚姻届だけですわね)
きっと、ウイニアが内心でそう考えていたことの方が、ある意味ではよっぽど「危険」なのだから。
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