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【創世の絆】西に落ちた光

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【創世の絆】西に落ちた光

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★プロローグ★


「まだかー? 早くいきたいぞ!」

 セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)が頬を膨らませたのを見て、そろそろ文句を言うだろうなと予想していた源 鉄心(みなもと・てっしん)は苦笑いを浮かべた。
 調査に向かうぞ、と意気込んでいたセレスティアーナたちであったが、まだ出発できていなかった。
「でもきっちりと準備をしてないと、何があるか分からないし……あともう少しだから」
 調査隊に必要な物資の確認や護衛の募集、行程の計画表など、まだまだすることはあるのだが、鉄心は一先ずそう言ってなだめる。それでもむくれるセレスだったが「途中でお腹が減るのはいやでしょ」という言葉にしぶしぶうなづいた。

「君、水と食料なのだが、何人分必要なのだろうか?」

 そんな鉄心に話しかけたのはマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)で、淡々とした……聞く者によっては冷たくも聞こえる声だったが、職務に忠実なだけだと知った鉄心は気にするでもなく、机の上から一枚の書類を探し出して彼に渡す。
「落ちた場所までの距離と人数を考慮し、水は少し多めに見積もってます。ああ、あと気候や土地のデータを取るため、計測器が欲しいとのことです」
「ふむ……たしかに必要か……了解した。手配しよう」
「お願いします」
 書類を手にどこかへ向かおうとしたマーゼンとすれ違った女性。九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は、黒い髪を揺らしながら、両手に重そうな箱を抱えていた。
(ニルヴァーナはシャンバラと違い、われわれの勝手知ったる土地ではないですからね。身体を崩される方が出てくるかもしれません。私がしっかりしないと)
 医学生であるローズは、調査隊へ医療班として参加するため、医療班専用のキャンピングカーへと医薬品を運んでいた。気合は十分なほどに入っている。

「九条。毛布が一枚足りないようだが、知らないか?」

 そんな彼女へと話しかけた新風 燕馬(にいかぜ・えんま)もまた、医療班の1人。ローズは抱えていた箱を下した後、首をかしげる。
「おかしいな。さっき確認した時はあったはずなんだけど……どこかにまぎれちゃったかな」
「あ、それなら他の部署の人が来て、持って行ったわよ。なんでも手違いがあったらしくて足りなくなっちゃったんだって。でもこっちには十分あるからあげてもいいかな、と思ったんだけど。まずかった?」
 疑問に答えたのはローザ・シェーントイフェル(ろーざ・しぇーんといふぇる)だ。手にはやはり箱を抱えており、彼女の斜め後ろに立つサツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)も同じく。が、さつきはどこか不満げな顔をしている。

「『どこ行ってもいいからローザと一緒にいろ』って……私は子供ですか」
「そりゃサツキちゃんは前科持ちだもの」
「失敬な。10回中9回道がわからなくなるだけです」

 サツキとローザで交わされる定番のやり取りを横目に、燕馬はローズに目をやった。毛布についての確認だ。
「うん、大丈夫だと思うよ。予備の分だしね」
「だ、そうだ。あと2人とも。ほとんど物資は運び終わったから、そこら辺でテキトーに遊んでてくれていいぜ」
 今回、燕馬が調査隊に参加したのは、
(休日にどっか連れてくとか、まるでしてないからなぁ。都合ついた奴だけでも、息抜きレジャーと洒落こんでやろう)
 という思いからだが、サツキとローザはそんな燕馬の気持ちを察しつつも、燕馬の役に立ちたいという思いが強く、隙をついては手伝いをしていた。

 そんな彼女たちが忙しなく動いているここは『物品管理室』と名付けられた場所で、ニルヴァーナへと運ばれてきた物品の貸与・支給受付をする場所である。ここにすべての物資が集められているため、非常に人でにぎわっていた。
 管理室の提唱者であるマーゼンのパートナー、本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)早見 涼子(はやみ・りょうこ)アム・ブランド(あむ・ぶらんど)の3名は対応に追われていた。
「すみません。コンクリートの追加発注をお願いしたいんですけど」
「はいはーい、ちょっと待ってね。……って、その発注別の人が来てたよ」
「あれ? おっかしいな。確認してきます」
「よろしくー。次の人どうぞー」
 飛鳥は建築資材担当らしく、明るく元気に対応しつつ、二重発注や廃材の行方などをしっかりとチェックしていた。
「工具の返品ですわね……はい、確かに全部揃ってますわ。ごくろうさま」
 こちらは涼子。重機や工具の貸与や返品を請け負っている。
「重機の貸し出し、12時からうちのところってなってたのにまだきてないんですけど、どうなってますか?」
「えーっとあなたのところは、3番ですわね。アム! ちょっと確認してきてくれません?」
「わかったわ。どこに行けばいいの?」
 声が飛び交う中、マーゼンは黙々と調査隊の水や食料を準備していた。



 そんな慌ただしい物品管理室とは正反対に物静かな部屋。ジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)の部屋に訪れた黒崎 天音(くろさき・あまね)は、丁寧な仕草で頭を下げた。

「お傍で警護をしたい所ですが、気になる事があるので探索に行って参ります。
 あのそれでひとつお願いがあるのですが?」

 いきなり頼みごとはぶしつけだったろうか、と天音は思ったものの、多忙なジェイダスの時間を社交辞令で埋めるわけにもいかないと思いなおす。
 そんな彼の心境を悟ったのかどうかはわからないが、ジェイダスは興味深そうな顔をした。無言で先を促された天音は、真っすぐにジェイダスを見て願いを告げる。
「もし僕が面白い成果を得られたら、ニルヴァーナの学校にグランドピアノを一台、理事長の目利きで寄贈して頂けませんか?」
 ジェイダスの目が一瞬見開かれる。彼からしてみれば、ささやかすぎる頼みごとであった。
 しかし流通が確立されていない現状、個人でピアノを取り寄せることはかなり難しい。細い指を顎に添えたジェイダスは、考えるそぶりを見せた後、うなづいた。
「ふむ。ピアノか……わかった。素晴らしい一品を用意させるとしよう」
「ありがとうございます」
 色よい返事に、天音は柔らかい微笑みを浮かべた。



 調査隊が準備に追われているのと同時刻。キャンピングカ―の上で高笑いをしている人物がいた。

「ククク。西に落下してきたもの……我らオリュンポスが一番乗りしていただいていくぞっ!」

 眼鏡をきらりと輝かせた白衣の男、ドクター・ハデス(どくたー・はです)である。
 彼の周囲にはたくさんの人がいるのだが、誰も彼の言動をとがめない。忙しいからか。関わり合いになりたくないからか。資材を抱えてそそくさと通り過ぎていく。
「ご主人さ、じゃなかった。ハデス博士。食料の積み込み終了しました」
「こちらも準備できましたよ」
「ふむ、御苦労」
 ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)の2人が声をかけると高笑いがやんだ。十六凪が、西の方角を眺めて小さくつぶやく。
「西に落下した光、ですか。興味深いですね」

 どうやら彼らもまた調査隊に参加するようであるが……はてさて。どうなることやら。