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【創世の絆】西に落ちた光

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【創世の絆】西に落ちた光

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★第二章・2「逃げて。超逃げて」★


「おっ張り切ってんなぁ。飯屋も出来るらしいし、食いながら一杯やりたいねぇ」
 少々のんびりした口調で中継基地を見まわしていたアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)は、目線を上空へと戻す。
 アキュートの見つめる先にあるのは、巨大な鳥――大甲殻鳥が建設中のアンテナ塔へと体当たりをする光景だ。

「一暴れして、汗かいとくかな。酒がもっと旨くなるってもん、だ!」
 そして彼は【バーストダッシュ】を用いて飛び上がり、大甲殻鳥へと一気に迫る。
 アンテナ塔へと意識を向けていた鳥であったが、直前でアキュートに気づいたらしく、回避行動を取った。
「ちっ浅いか」
 【ティグリスの鱗】が翼の一部を削り取ったものの、大甲殻鳥の飛行姿勢に乱れがないところをみるとあまりダメージはないようだ。
 そのままなすすべなく落下していくアキュートへ、今度は大甲殻鳥が攻撃をしかけてくる。鋭いくちばしが無防備なアキュートへと襲いかかり、彼は口角を釣り上げて笑った。

「無計画に突っ込む訳ねえだろ?」

 空中で身動きがとれぬはずの彼は、大甲殻鳥の攻撃を避けるどころか瞬時に背後へと回りこんだ。彼の背には、いつの間にか血塗られた黒い翼が存在した。

 そして別の場所でも戦闘が開始されていた。

「ふっはっは、今日の夕飯は鳥の丸焼きだな!」
「鳥じゃなくて俺たちがアンテナを壊した、なんて言われないぐらいにがんばってくれよ」

 笑い声を響かせるパートナーアルフェリカ・エテールネ(あるふぇりか・えてーるね)に、瀬乃 和深(せの・かずみ)はただただ、深い息を吐き出す。
 アルフェリカはややむっとした表情で「それぐらいわかっておる」と反論するが、さきほどから張り切って魔法を打ち過ぎなぐらいに打っている。今のところ敵以外に被害は出ていないのだが。
「まずは大甲殻鳥の情報を得るために倒したら駄目なんだからな」
「だから分かっておるというに」
 2人は言い合いながらも、互いをフォローし合いながら戦っていた。

 別の大甲殻鳥へと【歴戦の魔術】を打っているのは、清泉 北都(いずみ・ほくと)だ。敵であるはずの鳥へと向けられる目は、どこか悲しげだ。

「できれば殺したくないから、逃げて欲しいんだけどねぇ」

 少し心苦しそうなのは、巨鳥たちは元々ここに居た生物であり、自分たちは他所者である、という意識があったからだろう。
 パートナーのモーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)とともに、攻撃は倒すためと言うより追い払うようにわざと外しているようだ。
「なぜ体当たりをしてくるのか。原因が分かれば楽になるのだがな」
 モーベットは小型飛空挺から地上を見下ろした。

 地上には、アキュートや北都と戦っている大甲殻鳥をじっと見つめている人物がいた。

「ふむ。威嚇行動、とは少し違うようだな」
 夏侯 淵(かこう・えん)は時折呟きながら、何かを考え込んでいる。
 完成後もずっと攻撃をつづけられては、どれだけ頑丈にしたとしても限界があるし、常時護衛をつけるのも一苦労だ。
 そこで、大甲殻鳥がなぜアンテナ塔へと攻撃してくるのか。何が刺激材料か、何を嫌がるか。を知った上で鳥よけの対策を講じようとしていた。
 かすかな動きも逃さずに観察していた淵だったが、大甲殻鳥はアンテナ(だけでなく重機や周辺の建物)を食べ物として見ているのでは、と予測を立てた。体当たりする際の滑空の仕方には、獲物を捕まえようとする鷹や鷲を思わせるものがあった。
「だとすれば危険であることを分らせれば……ああ、ルカたちにも知らせるか」
 空を見上げて右手を二度振った淵は、ルカへとその情報を伝えることにした。アンテナの外装にも影響があるかもしれないからだ。


 一方、上空で戦っていた北都たちは淵の合図を見て、息を吐き出した。
「右手を二度……食料と思っている、か」
「ということは、倒さなきゃいけないってことだよね」
「仕方ないだろう。向こうは向こうの理由でここを襲っている。我らもまた、自分たちの都合でここに基地を作った。ただ、それだけのことだ」
「……うん。そうだね。そう、なんだよね」
 北都も頭では納得しているのだろうが、あまり気が進まないのだろう。モーベットはそんなパートナーをちらと見てから、剣を握りなおした。眼鏡の奥にある瞳がすぅーっと細まる。先ほどまでと雰囲気が一変したモーベットに、大甲殻鳥は一瞬戸惑うようなそぶりを見せた。

 それが、命取りであった。――羽が飛び散り、空を舞う。

「さーってっと、許可が出たところだしこっちも本気で行くとしようか」
 大甲殻鳥と並行に飛んでいたアキュートも地上の合図に気付いていた。氷術を翼に向けて放つ。鳥はそれを避けるが、意識がそちらに向かっている間に彼は鳥の頭上へと急上昇する。
 アキュートの姿を見失い焦った大甲殻鳥に向かって、今度は【バーストダッシュ】を使って急降下。彼の放った真空刃が、躊躇なくその首を切り落とした。
「ふぅ。いい汗かいたぜ」

 軽く汗を拭きとる仕草をした彼の視界の隅で、晴れ渡った空に雷が落ちた。

「ふっはっは! さっさと丸焼きになるといい、鳥め!」
 アルフェリカ の【天のいかづち】である。今までとはまるで違う威力とスピードだった。
 もうパートナーを止めるのは無理だな、と判断した和深はフォローに専念する。しびれ粉をまき、弾幕援護で敵の動きを誘導。
 和深のしびれ粉で身体の動きを鈍くさせられ、弾幕援護にて進行方向を制限されてしまった大甲殻鳥に、特大のいかづちが突き刺さるは、時間の問題だった。


 そんな空中戦を見つめていたベスティア・ヴィルトコーゲル(べすてぃあ・びるとこーげる)は、観察した大甲殻鳥の動作データから、対空防御施設の必要性を感じていた。
 彼女としては『実験隊のラボを建設して今後の装備開発に繋げて行きたい』のだが、ラボを作った後、ずっとあの鳥に襲われ続けるのはたまったものじゃない。
 何より、怖い。
 実験に専念するためにも害獣の排除は必要だ。今回は倒されたとはいえ、他の鳥が来ては意味がない。

「鳥害対策は通常、それ以上の捕食鳥の擬態模型を飛ばすとか更に別の電波等で追い払うなどが採られますが、あれ大きいですし、怖いので撃ち落しましょうか」

 中々考えていることは物騒だ。
 そんな彼女の元へとやってきたのは、であった。鳥よけ、とはいっても対象のサイズがサイズである。協力を呼び掛けに来たのだ。
「協力ですか……もちろんです! わたくしとしても、早く実験の方に取り掛かりたいですし」

 と、いうことで鳥よけ=対空防御施設、という大掛かりな施設がつくられることとなった。