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【創世の絆】西に落ちた光

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【創世の絆】西に落ちた光

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★第三章・1「セレス様の冒険記」★


「しゅっぱーつ!」
 そうキャンピングカーの上で胸を張っているセレスティアーナの横で、同じようなポーズを取っている少女がいた。小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だ。
 見晴らしがよいため、敵の接近にいち早く気づける、というメリットもある。……決して楽しいから、という理由だけではない。

「西には一体何があるのだろうな」
「うんうん、何があるのか楽しみだよね!」
「2人とも落ちないように気をつけてくださいね」

 そんな少女たちへ心配げに声をかけるベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、頭上を気にしつつ周囲への警戒を怠らない。彼女の前に置かれた調査隊共有のパソコンには、簡単な地図が写っている。ほとんど白紙に近いが。
 今回の調査は人数が多いため、いくつかのキャンピングカーを用意した。そして中には、セレスたちと同じくキャンピングカーの上にいるものたちも。
「セレスティアーナ様、こちらをお持ちください」
 虹のタリスマンと、ペンギンアヴァターラ・ヘルムをセレスへ差し出した酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、柔らかく微笑んで説明する。

「タリスマンには禁猟区を施してあります。念のためにお持ちください。あとそちらは……ペンタです。少しあずかっていていただけますか?」
「む、そうか。分かった……ペンタ、私と一緒にいるんだぞ」

 素直に受け取ってもらえたことに少し安堵してから、従者の五人囃子を呼び、曲を演奏してもらう。一日でつく距離ではない。セレスたちが暇にならない様に、という配慮だ。

「うわぁ、素敵な曲ですね。……あ、私は火村 加夜(ひむら・かや)といいます。今回はよろしくお願いします……えーっと、セレスティアーナちゃんと呼ばせていただいても」
「ああ、構わないぞ。こっちこそよろしく頼む」
「うん、よろしくね。私は美羽」
「俺は酒杜 陽一。よろしく、火村さん」

 加夜は嬉しそうにほほ笑んでセレスたちと握手を交わした。調査が目的、とは分かっているが、それでも楽しく過ごせたらいいな、と彼女は考えていた。

 そして別のキャンピングカーの上には、なぜかデッキチェアが置かれていた。もちろん置いてあるだけではなく、そこに寝そべる美女がいた。
 水着姿の彼女たちはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だ。調査隊の護衛および調査補助のために同行している、はずなのだが、誰がどう見てもリゾート地でバカンス気分を楽しむ女性、だ。

「んんーっ、何もない荒野の空の下でこうしてると、身も心も完全に解放されて……気持ちいいわぁ」
「ちょっとセレン!」

 あまりにもあんまりなパートナーにセレアナは注意しようとするが、

「む。それはベッドなのか?」
「これ? これはデッキチェアっていうのよ。あ! あと一つあるから、良かったら使う?」
「いいのかっ?」
 何やらセレスとそんな話をするセレンフィリティに言葉が続かない。いや、パートナーに、というよりは2人に対して頭が痛い。まだセレンフィリティならばいつものことと思えるが、代王までがこのノリとは。しかも周囲の面々は心配こそすれ、注意しない。
 ここは1つ、ちゃんと言っておくべきだろう。

「あなたたち、分かっているの? 今回の旅は落下物の調査で」
「固いことは言うな」「固いことは言いっこなしよ」

 なんとか言葉を絞りだすも、同時にそう言われては黙るしかない。しかもその後に「貴様も似たような服装ではないか」と指摘を受けてしまった。
――好きでしているわけではないのに。

「大丈夫ですか? 良かったら温かいお茶でもどうぞ」
「あら、ありがとう」
 心配そうに声をかけてお茶を差し出してきた加夜に、セレアナは苦笑しつつ受け取った。視界の隅では、陽一がデッキチェアをキャンピングカーの上に固定している。その上に寝そべる代王。

 これでいいのかシャンバラ。――きっといいのだろう。

 もちろん陽一や加夜もベアトリーチェも、気の抜き過ぎは禁物、と思っているが、リラックスして寝そべるセレンフィリティの手元にライフルがあることに気付いていた。もちろんセレアナも気づいているが
(でも、もう少し私の方みてくれたっていいじゃない)
 実のところ、自分を差し置いて話をされて、妬いているのだ。

「ん〜そうね。次は……あ! かーやん、何かリクエストある? 曲の」
 美羽が五人囃子と何か話していたがふいに加夜の方を向いてそう言った。どうやら加夜のことを呼んでいるようだ。
「えっと……セレスティアーナちゃんは何かありますか? 曲のリクエスト」
「うむ。ならば私はあれがいいぞ。あれ」
「あれじゃ分からないよ」
「だったら歌ってみたらいいんじゃない? 分かったら途中から弾いてくれるでしょ」
「そうだな。頼めるか? たしか最初は――」

「ふふっ皆さん、楽しんでるみたいですね」
 ベアトリーチェが頭上から聞こえてくる歌声を聞きながら口元に手を当てると、鉄心が横で苦笑する。こういう雰囲気になるだろうことは、出発前から予測していたのだ。

「とにかく、何が起きるか分からないからなるべく早く行きたいんだけど」
「そうですね。さきほども崖を迂回するためにかなり時間を費やしましたし」
 魔界のコンパスでしっかりと進路方向を見つめながらレムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)が答える。現在は周囲に何もなく、まっすぐ進んでいるようで時折進行方向がそれてしまう。レムはそれをすぐに指摘し、修正する。ベアトリーチェは他のキャンピングカーと連絡を取り合い、鉄心は行程の確認と修正・食料や水の管理をしていた。
 調査隊の代表はセレスティアーナだが、実際は彼らが調査隊の取りまとめを行っていた。

「まあ、今からそんなこと言っても仕方ないだろ。お前も上に来いよ。風が気持ちいいぜ」
 ひょこっと顔をのぞかせたリア・レオニス(りあ・れおにす)がレムテネルを天井へと誘う。少し考えた後、レムテネルは承諾した。方向の指示ならば上にいてもできるというのと、あまり突っぱねても雰囲気を壊してしまうからだ。
 2人からも許可をもらい、すみませんと謝ってから上に行く。

「おっ来たな。じゃあ、やろうぜ」
 器用にもキャンピングカーの上でトランプを配り始めたのはザイン・ミネラウバ(ざいん・みねらうば)だ。トランプをしている中にはセレスの姿もある。あまりにも気楽な様子をじかに目にしたレムテネルは、苦笑するにとどめた。もういまさら何を言ったところで変わるまい。

「流れ星なら願い事を言うんだけどな」

 唐突にそんなことをいったザインに、いぶかしげな視線が集まる。だが彼は、セレスの持つトランプをじっと見つめていた。今はババ抜き中だ。
「西に落下したやつのことだよ、っとやりぃ」
 言いながら一枚を抜き取って2枚のカードを場に捨てる。セレスががくっと肩を落としているので、彼女がジョーカーを持っているのだろう。
「落ちてからじゃダメだろ」
「でも、そうだったら素敵ですよね」
 リアと加夜がそう言った。2人の手にもトランプがある。
「でもほら、案外叶ったりするかもしれね―だろ。滅亡を避ける手ががり、だったら願い事に繋がるしさ。よしっあがり! あ、負けた奴は罰ゲームで勝ったやつの命令を1つ聞く、な」
「そっそんなの聞いてないぞ」
「まったく。その気楽さが羨ましいですね……申し訳ありませんが、あがりです」
「願い事か〜。叶ったらいいよね! 私もあがりっと。セレちゃんがんば!」
 レムテネルが呆れつつ、美羽が元気よくあがる。セレスの顔が青くなっていく。残りはリアと加夜に陽一、セレスだ。
「すみません、セレス様。オレもあがってしまいました」
 陽一は申し訳なさそうにセレスを見た。しかし内心では罰ゲームにならなくてよかった、とも思っていて。いやしかし代王に罰ゲーム……いいのか? もちろんセレス様はそれぐらいで怒ったりしないだろうけど、いや、でも……そんな苦悩する彼の横ではリアが上がっていた。残るは2人。
 もう誰の目にも罰ゲームがどちらになるかなど、分かっていた。
「……ごめん、セレスティアーナちゃん!」
「あああっ」


「子ども相手に大人げありませんの!」
「しかし、勝負は勝負だ!」
 元気よくババ抜きをしているセレスを見て、ティー・ティー(てぃー・てぃー)は良かった、と息を吐き出した。先ほどババ抜きで負けた時はそこまで落ち込むか、と言うほど落ち込んでいたのだ。
 今回の目的は調査、であるものの、こう言う時ぐらいセレスに息抜きをさせてあげたい。同行者たち全員の心だ。
 だから周囲への警戒などは自分たちに任せて、セレスには存分に楽しんでもらいたかった。イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)とトランプで勝負している姿は、とても楽しそうだ。
 少々大人げないが。

「双眼鏡NOZOKI……返してですの」
「なっ? さっき貸してもらったばかりだぞ。もう少し」
「じゃあ負けてください」
「卑怯だぞ」

 どっちもどっちかもしれない。

 しかしなんだかんだと言いつつ、イコナも楽しそうだ、とティーは微笑んで2人を見守った。もちろん、他のメンバーもしょうがないな、という温かい目を向けている。
「なあにセレス。双眼鏡使ってまで私の姿が見たいならそっちにいってあげるのに」
「ちょっとセレン!」
「ち、ちちちちち違うぞ! 私は景色をだな」
「怪しいですわね。双眼鏡にこだわると思ったらそういうことでしたの?」
「セレちゃんってそうだったの?」
「だから違うと言ってるだろう!」
「そんなに焦るなんて怪しいわね」
 みんなから存分にからかわれている顔を真っ赤にした姿に、ティーは微笑みを苦笑へと変えた。

 親しみやすいのが、セレスティアーナの魅力なのだろう……と、いうことにしておく。



「探索は、中々捗らないみたいだね」
 天音がメイドの入れた紅茶を優雅に飲みながら呟いた。
 現在、調査隊は周囲を岩壁(高さ20メートルはあるだろう)に覆われた迷路のような場所に入りこんでいた。何度か行き止まりでUターンを繰り返したり、前には進めているものの、時間がかかっている。

「お前の言っていた楽しい予感が当たらぬことを祈ろう。毎度ろくでもない事に繋がっている気がするからな……」

 出発前に天音が『西に落ちた物の探索を行うよ。何だか妙に引っかかるんだよね……楽しい予感がする』と言っていたのを思い出したブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が、それは嫌そうに顔をゆがめた。
 しかし天音は楽し気に笑う。

「手遅れだよ、ブルーズ。祈るなら、流れ星が落ちる前にしなくちゃ」
「……はぁ」
 ブルーズは言葉の意味を理解して息を吐き出し、天音のプラネタリアームへの細工に意識を戻した。データを改造し、地図データが立体的に映し出されるようにしているのだ。
――パートナーのおかげで苦労が絶えないのに、なんやかんやと世話を焼いてしまう自分はマゾなのだろうか。

 そんな疑問を抱きつつ。