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【創世の絆】西に落ちた光

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【創世の絆】西に落ちた光

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★第三章・3「野営地にて」★


 基地を出発してから何度目かの野営。
 遠野 歌菜(とおの・かな)は、月崎 羽純(つきざき・はすみ)を誘ってキャンピングカーの上にいた。夜の帳が降りた空は、地球やシャンバラと似ていて、でもどこか違う雰囲気を持っている。

「たまにはこういうのもいいよね!」
「ああ、そうだな」

 歌菜が空を見上げながらそう言うと、羽純も同意した。そしてデジカメに夜空を撮影。

「明日こそ何か見つけたいな。未知の食材」
「……分かってると思うが、今回は落下物の調査だぞ?」
「大丈夫だって。ちゃんと私が毒味するから。あ、何かあったら【清浄化】で回復よろしくね、羽純くん!」
 ハキハキと毒味へのチャレンジを告げられた羽純は、「分かってないだろう」と心の中で呟くが、彼女らしいとも思った。
「明日は……? あそこでなにしてるんだろ」
 何かを言いかけた歌菜は、首をかしげた。羽純も視線を追いかけていく。
 ごそごそっと暗闇の中、地面にしゃがみ込んで何かしているイリス・クェイン(いりす・くぇいん)の姿がそこにあった。

「ま、こんなところかしら。あまり大きいものを捕まえても持ち帰られないし」
「イリス見て見て。僕も落とし穴作ってみたよ」

 そんな彼女に明るく報告するクラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)は、楽しみだな―と呟いた。そうね、とイリスも相槌を打つ。
 興味が沸いた歌菜は、2人へと駆け寄っていく。羽純は「やれやれ」と息を吐き出してから仕方ないな、と彼女を追いかけた。

「あの、何してるんですか?」
「ん? あら、あなたはたしか」
「遠野 歌菜です。イリスとクラウン、だよね。何してたの? こんな夜遅くに」

 イリスとクラウンの目が歌菜と羽純に向いた。羽純は軽く頭を下げる。イリスは自分がしゃがんでいた場所を2人に見せる。

「罠を張っていたんです。新種の生き物を捕まえるために」
「僕は落とし穴だよ。すっごくがんばったんだ!」
 イリスは肉を置いた場所にかごをかぶせただけの簡単な罠をしかけていた。クラウンが指し示す個所は、何もないように見えた。それだけ巧妙に隠したのだろう。

「どこまで効果があるかは分かりませんけどね」
「へぇ……あ、何か捕まったら見せてもらってもいい?」
「ええ。かまいませんよ。ではまた明日にでもご報告しますね」
「うん、ありがとう! おやすみ」



「疲労だね。しっかり食べて、ゆっくり寝ること。分かった?」

 ジェライザ・ローズは診療室代わりとなっているキャンピングカーの中で、診察をしていた。
 やはり何日も旅が続くと、ただでさえ慣れないニルヴァーナの環境に体調を崩す者が何人かいた。ほとんど軽い疲労ですんでいるが、ひどくなるようなら引き返すことも考えなければならないだろう。
「ま、思ったより少ないし、あともう少しでつくだろうから大丈夫だと思うけど」
 カルテに何か書き込み。薬の在庫を確認する。睡眠薬の消費が予想よりも多いが、怪我人は逆に少なく、残りの日数を考えても十分持つだろう。
 そして聞こえた声に目をローズがそちらへ向けると、別の場所で診察している燕馬が見えた。

「ん、気分が悪い、か。……乗り物酔っぽいな。今日は足場が悪かったし。ま、しこれ飲んでゆっくりしとけ」

 医療班としての役目を果たしている彼の後ろでは、サツキローザが、そんな燕馬を見ながら話をしている。
「燕馬ちゃんは、普段も3食作ってくれてるのよねー」
「医者見習いとして私達の体調管理にも責任持ちたいそうです。『ここ数ヶ月はプラマイ500gだろ?』とか言われました」
「うあ゛ー、乙女の秘密がだだ漏れだわー」
 そんな話を聞いた燕馬は、
(旅は疲れるだろうと思ってなるべく料理は豪華にしてたんだが、少しやせたな。もっと増やした方が良かったのか?)
 冷静にそんなことを考えていた。



 夜の姿というのは、昼とはまるで違う。同じ景色とは思えないこともある。
 氷室 カイ(ひむろ・かい)は、そんなことを思いながら雨宮 渚(あまみや・なぎさ)と野営地の周辺を見回っていた。ほとんどただの散歩に近かったが。
 少し冷たい風が渚の髪をさらい、空から降り注ぐ月の光が彼女の髪に反射して輝く。カイはそんな光景に目を細め、
「この岩は、不思議ね。触ると簡単に崩れちゃうなんて」
「そ、うだな。一応これも持ち帰るか」
 ハッと我に返った後、地形について何かわかるかもしれない。そう言って岩の一部を取った。

 護衛として調査隊に参加した彼だが、パートナーの息抜きになるのでは、という思いが根本にあった。もちろん敵が来れば全力で戦うが。
 ちらと渚へ目をやれば、目をつむって夜の凛とした空気を心地よさそうに吸い込んでいた。道中、小さな戦闘が予想以上にあったものの、楽しそうな彼女を見てカイも頬を緩めた。

「さ、そろそろ帰りましょ。危険な生き物もいないみたいだし、あまり遅くまで起きてると明日がつらいわ」
「ああ」

 夜までどこか騒がしい調査隊の中心部。常時火を焚いているその場所に、志方 綾乃(しかた・あやの)ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)がいた。見張り役だ。
 渚とカイは2人へ声をかける。
「2人とも御苦労さま」
「見える範囲に魔物はいなかった。後は、任せる」
「おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい」
「…………」
 綾乃が笑顔で、ジャジラッドが無言で2人を見送れば、とたん、辺りが静かになる。

 今回、綾乃は裏方に徹していた。夜の見張りも積極的に引き受け、近づいていた脅威を気づかれぬうちに排除する。せっかく楽しそうにしているのだから、その雰囲気を壊したくなかったのだ。
 ジャジラッドは護衛、というわけでなく。この調査隊でおきた事実をありのままパラ実分校に伝えるのを目的としていた。
 とはいえ、スパイと言うわけではない。敵が襲ってくれば戦うし、調査隊へ危害を加えるつもりもない。パラ実分校が孤立化してしまうことを防ぎたかったのだ。あとはイレイザーのような脅威が出てきた際、代王に何かあっては大変なことになるのを深く理解していたため、護衛と言う目的も持っている。
 だが基本は、観測者でいるつもりだ。

――落下物とはなんだ? イレイザーでないことを祈るが。もしも落下物がイレイザーであり、代王が危険にさらされるようなら、分校への保護も考えるべきか。

「……どこへ行く」
「ちょっと見回りに行ってきます」
 彼が深く考え込もうとした時、綾乃が立ち上がった。彼がふと時計を見ると、だいぶ時間がたっていた。たしかにそろそろ一度見回りをしておくべきだろう。綾乃を見送った後、ジャジラッドは【伝令】を使って現在までの出来事を分校へ報告をすることにした。いざという時はブルタたちに迎えに来てもらう必要もある。

 見回りに出た綾乃は、野営地の周囲をゆっくりと歩いていしく。神経を極限まで研ぎ澄ませ、小さな異変をも読みとるように。
 ぐるっと一周回った後、彼女はとある方向へと目を向けた。

「落下物……いったい何なのでしょう……まあここで考えても志方ないですが。どーせ」

 明日には、分かるのだから。



 翌日。罠を見に来たイリスは、無言だった。籠が、倒れている。
 それだけならばよかった。籠には穴が開いており、そこからドリルが生えていた。時折キュイーンという音を立てて回転している。

(何? 一体籠の中に何がいるの?)

「大丈夫だよイリス。逃げようとしたら風術で捕まえるから」
「え、ええ。ありがとう」
 イリスは深呼吸した。とりあえず見てみないことには何も始まらない。
 そして籠に手をかけ、あげた。まず見えたのは、細長い黒っぽい何か。いや、茶色だ。
 短い茶色の毛に、細長い蛇のような体。5本の足(尻尾と思ったところも足のようだ)。その足には鋭い爪が生えており、ドラゴンの足を思わせる(サイズはともかく)。そして、頭にはこれまた鋭いドリル(回転もする)。

「……これは、何?」
「見事なUMAだね! おめでとう、イリス」
 見ても何であるか分からないそれは、たしかにUMAだろう。