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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~1946年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~1946年~

リアクション


●Interlude part1 -3
 
 エラー。エラー。エラー。エラー。
 起きてはならいことが起きた。
 エラー。エラー。エラー。
 蓋が開いたのだ。水晶の棺の。
 エラー。エラー。
 システムが警告音を発している。あってはならないことだから。
 ――しかし。
 求められているのは事実だ。これが本来の流れではないと……イレギュラーな形で棺が開いたのではないと、なぜ言い切れる?
 いずれにせよ、求められているのであれば応えるまでだ。
 警告音が止んだ。
 鑞のように硬直していた五体が、ほのかな赤みを取り戻す。
 システムが起動したのだ。
 ぴたりと貝のように閉じられていた瞼が、カッと見開かれた。
 かくて、リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)は目覚めたのである。
 生気の無い瞳でするりと流し目する。右。左。すぐに視線は中央に固定された。
「……起動処理、完了しました」
 リーブラは横たわったまま、半開きの蓋に手をかけた。『LIBRA ALTERNATIVE』と彫られた半透明の蓋は、ごとりと音を立てて棺から滑り落ちた。
 身を起こす。白い入院服のようなもの以外、彼女はなにも身につけていない。
 暗い部屋だった。今が何時なのか、夜なのか昼なのかすら判らない。棺の脇に置かれたカンテラと、これを水晶がうすぼんやりと反射するものだけが光源だ。
「あなたは?」
 彼女は、自分を見下ろすようにして立つ男に呼びかけた。
 リーブラの記憶(データ)にない姿だ。白いスーツに黒のネクタイ、ただしネクタイには黄金の竜が刺繍されていた。年の頃は四十前だろうか、黒い革手袋をはめ、丸いサングラスを胸ポケットからのぞかせていた。狐のような目でこちらを見ている。
「私ですか? 新しい雇い主ですよ、リーブラ・オルタナティヴ君」
 男は、不気味に慇懃な口調だった。
「実業家をやっています。この東京で、手広く、色々とね……名前は色々ありますが、新宿では『ウォン』というのが一番有名でしょうか」
「そうですか。あなたが私の主(マスター)なのですね」特に感慨もない様子で彼女は言った。「組長……と、お呼びすればよろしいでしょうか?」
「鋭いですね。そう、暴力団『新竜組』というのが最近の看板です。まあ、日本人の組長をちゃんと置いていますので、私の立場は『相談役』にとどまっていますが、実質支配者という意味では……おっと、あまり面白くない話をだらだらと、失礼しました」
 素足が冷たい床に触れた。リーブラは棺から出たのである。
 事情はおいおい説明しますが、と言って、ウォンは胸ポケットから二枚の写真を取り出した。
「あなたは大陸の『秘宝』でしたが、私が金と血を莫大に費やして買ったものです。それに見合う活躍を期待したいですね」
 ウォンの目が、すうと糸のように細くなった。
「なんなりとご命令を」
 リーブラは膝を折って彼に屈した。
「求めたいのはこの男の抹殺、そして、これの奪取です。盗みではありませんよ。彼が生きるのを許したのは私、こちらの宝物も、私の所有物になるはずのものだったんですから」
 写真はそれぞれ石原肥満、そして勾玉を写したものだった。
「石原、肥満、ですわね?」
 咀嚼するかのように、リーブラはその名をゆっくりと繰り返した。
「みにくい名前に似合いの姿ですこと……」
 写真に移る肥満は、痩せ犬と呼ぶのがぴったりの容姿である。こちらに向けた目だけがらんらんと輝いていた。