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リアクション
坂を登った先の広場の再奥に台座が見える。北西部の海岸部の集落の女神像は青い空と蒼い海を背景に見る事ができた。潮騒や風の音を聞きながらに心静かに祈りを捧げる場であるはずが、聞こえてくるは『ワイバーン』の奇声や爆音だった。
「とにかく分散させるんだ! 急げ!!」
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が号令をかけた。彼は早くから『空飛ぶ箒』で空に舞い、集落全体を見渡していた。
襲来したネルガル軍は予想以上に数が多かった。20名近い神官戦士が『ワイバーン』や『オルトロス』の背に乗り来た。狙いはもちろんイナンナの女神像だ。
――避難は! 済んだのか?
エースは坂を下った右方へと目を向けた。
「ゆっくり、ゆっくりで大丈夫ですからね」
『地底迷宮』 ミファ(ちていめいきゅう・みふぁ)は左脚を負傷した民に肩を貸していた。最後まで女神像を護るとオルトロスに挑んでいたが、農具での抵抗も虚しく、終いには左脚を噛みつかれたようで。
「遅くなりました」
「葉月さん!」
菅野 葉月(すがの・はづき)が駆け寄り来て民の肩をとった。軽々と持ち上げる辺りは流石は男子と言ったところだろうか。歩みながらでも治療は出来る、とミファは中断していた『ヒール』を脚部に唱えた。
「他の方の避難は?」
「大方済みました。いま、ミーナが集計をとっている所です」
集落の外れの家屋まで避難させた。もちろん屋内ではなく建物の影へ。狙いが女神像である以上、動線から離れれば巻き込まれる危険はほとんど無くなる―――
「危ないっ!」
脚部に滴る血の臭いを嗅ぎつけたのだろうか、完全に撒いたと思っていたのだが、気付けば怪犬に迫られていた。
ミファの背後から跳び来るオルトロス、民を離し『アルティマ・トゥーレ』を放てば……いや武器を構えている暇は無い……『則天去私』で牙を砕くか―――
迷いの分だけ刻が減った。もはや跳び避けるも難しくなった状況の彼らを救ったのはミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)だった。怪犬の首根を狙った『則天去私』が迫る牙ごと、その巨体を吹き飛ばした。
「ふっふっふ〜、葉月、油断しすぎだよ〜」
「あ、いや、油断していたわけでは……」
何だ? 若干…… というよりだいぶキャラが違うぞ。まさか、一人にしたからか……? それともミファに手を貸したから?! いや、民を守ったりオルトロスを倒したりしているうちにハイで妙なテンションに?!!
「って、住民の避難はどうしたのです?」
「大丈夫、この人で最後みたいだから」
この会話がエースの耳に届いた訳ではない、距離的に届くはずもないがしかし、ミーナが持ち場を離れて葉月の元へ向かった事が何よりの証となった。
――避難は済んだか。ダリルは……?
女神像の周辺に仕掛けを施していたはずのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の姿が無い。いや、『正確には女神像周辺に彼の姿はない』であり、彼は既にエースと同じく空を飛んでいた。
「カルキ」
ダリルが『小型飛空艇ヴォルケーノ』でカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)の元へ飛び寄った時、彼はネルガル軍の『ワイバーン』に『天のいかづち』による雷撃を放った所だった。
「ダリル。もう済んだのか?」
「あぁ、待たせたな。これで自由に動ける」
まずは状況の把握を、全てはそれからだ。
「女神像の周りに張ったんだろ? そこへ敵を集めれば良いのか?」
「いや、まだ早い」
敵兵の数はさほど減っていない、オルトロスを優先して相手取っているからか。奴らも怪犬に戦わせて防壁を突破しようとしているようだし、当然といえば至極か。
結果として既に5体ものオルトロスを倒したようだ。地に横たわる姿が見て取れた。
「ふっ!!」
カルキノスが唱えた『ペトリファイ』がワイバーンの片翼を石化した。巨体の全てを石化するわけではないぶん効果の反映も早い、そして落下する巨体は、ともすればオルトロスを踏み潰す武器としても、その後の障害物としても期待できる。
「ダリル! カルキ!」
夏侯 淵(かこう・えん)が
「どうだ?」
「ハズレだ、ネルガルの姿はない。あの野郎、何考えてやがる」
「そうか」
俺が奴なら、女神を封じ民に効果的に服従を強いる為に自ら出向いて像を破壊する。ルミナスヴァルキリーを中心とした西カナン西部の緑化が進んでいる今こそが絶好の機会だというのに。ネルガルどころか奴に仕官した生徒の姿も見られない。
「まぁ良い、引き続き頼む」
「了解」
淵の記録撮影が鍵になる…… そう思っていたのだが。
「これ以上、続けるか?」
女神像に背を向けて、坂を見下ろしながらに悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が言った。
「何度やっても無駄だ無駄なのだよ。のう、アーガス」
「まったくだ―――」
アーガス・シルバ(あーがす・しるば)がこれに応えている最中だった、一体のオルトロスが坂道を駆け上がってきた。牙を剥き、双頭を跳ねさせながらに迫る様は恐怖を覚えるのには十分な迫力があるが、2人は冷静に、
『『サンダーブラスト』』を放った。
悲鳴を上げて地に落ち伏せる、地は坂道ゆえに巨体がゴロゴロと転がり落ちていった。
「だから言ったであろうに」
「……ふん。雷撃に弱いと分かれば、どうという事はない」
これで6体目。像に近づけぬよう牽制を兼ねて、氷、炎、雷と各属性を順に試してきた。結果、多くの怪犬を迎撃できたのは雷撃がより有効であるという結論に達せたからであった。
「ケイ、今なら良いぞ」
小さく頷き、緋桜 ケイ(ひおう・けい)が2人の前に出た。そして、
「聞いてください」
と神官戦士たちに呼びかけた。
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