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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第2回/全3回)

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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第2回/全3回)

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第三章 予兆と相棒

 湖の水面にも砂が膜を張り浮いている。きっと砂漠のオアシスのように緑あふれる美しい集落だったことだろう。
 そんな中央部の湖傍の集落は今、まさに戦地となっていた。
「おらぁぁああぁああ!!!」
 白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)は『長ドス(虎徹)』を逆手に握り直し、そして神官戦士の胴部を斬り振った。
「まだまだぁぁああ!!!」
 神官の腕を斬りつけて『ハルバード』を手放させた。胴部に後ろ蹴りを入れて飛ばすと、竜造は次なる標的を見渡し探した。彼が次に斬りかかったのは桐生 円(きりゅう・まどか)だった。
「円様っ!!」
「っ!!!」
 桐生 円(きりゅう・まどか)に装したアリウム・ウィスタリア(ありうむ・うぃすたりあ)がこれにいち早く気付き、彼女の『神速』で斬撃を避けた。
「あっぶなーい。助かったよ、アリウム」
「いえ、しかしあの方は……」
「そーだね」
 は彼に向き直った。集落に押し寄せてきた神官戦士は20名弱、怪犬『オルトロス』は5体といったところか。集落の人々は既に避難させていた為にたちはすぐに応戦を始めたのだが、そこに竜造松岡 徹雄(まつおか・てつお)が乱入してきた。
 味方の援軍かと思ったのだが、彼らはネルガル軍だけでなく、たちにも刃を向けて来たのだ。その様は無差別に暴れているようにも見えた。
「ちょっとキミ! いーかげんにしないと―――」
「おらぁっ!!!」
 苛立ちを振り払うように竜造は『長ドス(虎徹)』を振った。
 ――どいつもコイツも面白くねぇ。もっともっとだ、もっと強い奴は居ねぇのか!!
「徹雄ぉ!!」
「………………」
 無言のままで徹雄は『煙幕ファンデーション』を投げ放った。瞬く間に視界が遮られてゆく。
「そぉだ! この状況でもまともに戦える奴が強ぇってもんだぜ!!」
 むしゃくしゃが止まらない、これもみんなジバルラが期待はずれだったせいだ、あんな腑抜けだったとは。
 そんな時に見つけたのがこの騒動だ、女神像を狙えば生徒たちが向かってくる、周りには神官共も集まって来る。
「行くぞ契約者ぁ! 護れるもんなら護りきってみろや!!」
「あっ! ちょっと待ちなよっ!!」
 煙幕の中へ駆ける竜造が追った。彼が女神像の位置を知っているかどうかは不明だが、このままでは像が危ない。
「なるほど、とにかく暴れたいって感じなのかな?」
 女神像に張り付いて戦うをしていた影野 陽太(かげの・ようた)は素早く辺りを見回した。これまではどちらの勢力の者にも刃を向ける竜造をただ警戒していただけだったが、おおよそにしろ目的が分かれば対処しようがある。
 ――というより、上手くすれば。
 煙幕に包まれるかの際で戦う2人に目を向けた。一人はミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)、彼女は今まさに『ミネルバちゃんSP(ハイアンドマイティ)』を振りかぶっていた。
「せぇーのー!!」
 重すぎる剣で有名な、持ち上げるだけで奇跡と謳われる剣で彼女は神官戦士と『オルトロス』を薙ぎ払った。その斬撃に2人と3体が吹き飛んだ。
 『金剛力』を、そしてその上で『一刀両断』を駆使しているのだろうが。彼女が大剣を振る度に数人数体が吹き飛んでゆく、まさに無双状態であった。
 ――ダメ、ですね。
 もう一人はオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)、彼女は吸血鬼だろうか、『ノーブル・カラミティ(ブラッディイーター)』を携えていた。
「ワンちゃんと遊んでる暇は無いのよ〜」
 迫るオルトロス3体に対しても動じる事なく彼女は『エンドレス・ナイトメア』を唱えた。
 人間ほどではないが、怪犬にも頭痛や吐き気を起こす事は出来たようで。彼女は悶える怪犬の背に巨大な杭を突き刺した。
「あらあら突き抜けるなんて。以外と脆いのね〜」
 物怖じする事も無く、それどころか笑顔で言ったオリヴィア陽太は寒気を覚えた。
 ――ダメです、彼女はもっとダメです。
 そうして2人に呼びかける。
「ミネルバさん! オリヴィアさん! もう少し離れて下さい!! できれば煙幕の外で!!」
 彼女たちが竜造と対峙すれば、彼を喜ばせるだけになる。こちらが狙うはそれではない。
「岩造さん!」
 次に呼んだは松平 岩造(まつだいら・がんぞう)、彼は神官戦士と戦っている最中だった。
「ふっ!!」
 右手の『ブライトグラディウス』で敵の槍撃をいなし、左手の『ウルクの剣』で斬りつける。見事に『二刀流』を駆使する彼も十分に強いが、彼ならば冷静さを失う事もないだろう。
「岩造」
「ん? どうした? …………っと」
 岩造に纏われている武者鎧 『鉄の龍神』(むしゃよろい・くろがねのりゅうじん)陽太の声に気付いた。が、言った直後に槍撃が迫っていた。
 『スウェー』を使ってこれを避けたが、岩造は、
「よく気付いたな、助かったぜ」
「違う…… いや、違わないが違う」
「ん? 何だ? 何言ってんだ?」
 神官戦士の『ハルバード』を叩き落としてから、ようやく陽太が呼んでいる事を伝えるが出来た。して、陽太の用件は「竜造を誘き出して欲しい」だった。
「女神像の近くへ? 大丈夫か?」
「あぁ、像は俺が護る。それでイケるはずだ」
「よく分からんが、やってみるぜ」
 視界が遮られていようとも、竜造の居場所はすぐに分かった。まぁ、あれだけ奇声を発しながら戦ってれば誰でも気付くというものだ。
 敵姿を捉えると岩造は『ウルクの剣』を振り放った。直後に剣と剣が弾きあう衝音が響いた。
「ああ゛? 何だよ、良い重さしてるじゃねぇか」
 これは腕力だけで受け捌かれたが、目的はここにあらず。構えたままにスッと煙幕中へ後退して行った。
「おいおい、テメェも腑抜けかぁ!! 逃げんじゃねぇ!!」
 単純な奴だ、いや冷静さを失った者などこの程度なのかもしれないな。陽太の狙い通り、竜造がこちらへやってくる。あとは―――
「君たちの相手は彼ですよ」
 像に迫る神官戦士に『弾幕援護』で牽制をかける。急所を狙うではなく、あくまでも停滞、あわよくば後退させるような。そうして時間を稼いでいれば。
「邪魔だゴラァ!!」
 岩造を追い現れた竜造が神官戦士に斬りかかった。像を護る側だと思った事だろう、神官たちはすぐに竜造に『ハルバード』を向け構えた。
「退けっつってんだ雑魚共が!!」
 いくら気が触れているとはいえ、神官戦士を相手どるはどれも一撃で倒せる程に容易ではない。まぁ、敗ける事はないだろうが、その間にこちらは次ぎなる神官を誘導すれば良い。
「なるほど、考えたな」
「えぇ、使える要素は使わないと。手数は限られてますから」
「もっともだ」
 煙幕が張られた事も大きい。煙幕外の神官や怪犬はや彼女のパートナーたちが駆逐するだろう、それだけの力がある事は先程の様子を見れば十分に期待できる。
 バレないように、このまま上手く操る事ができれば。神官たちが大軍で押し寄せて来た時には正直タジロいだが、最悪の事態だけは避けられそうである。
 バランスと案配が鍵を握る。湖傍を騒がす戦いは正に佳境を迎えたのであった。