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リアクション
●23
雪がまた、汚れた山を隠すように激しさを増した。
黒い防寒着にもそれは積もる。バロウズ・セインゲールマンが、アリア・オーダーブレイカーに肩を借りながら現れたのだ。
「パイ、行くんですか……?」傷は痛むが命に別状はない。バロウズは心配そうに言った。「あなたは、これからずっと塵殺寺院の刺客に狙われることになります………僕たちと一緒にいれば、安全なはず……です」
「さっきも言ったでしょ。高周波会話でね」パイは首を振った。「今のあたしがあんたらの中にいると……ローが危ないの。あたしは一人で逃亡生活に入るわ」
「そんなこと言わないで下さい。パイさんのために、かわいい服をたくさん用意したんですから」ベアトリーチェが言い、
「そうよ。私たち、友達でしょう?」美羽も言った。友達じゃない、と即否定されるだろうな、と少し寂しく思いながら。
ところがパイの回答は、やや異なっていた。
「たとえそうだとしても、敵同士なのよ。あたしたちはね」
雄軒が進み出る。
「なら、私たちと共にあればいい……と、言いたいところですが」雄軒の冷徹な頭脳は、とうに計算を終えていた。「私たちも限りなくアウトローのような存在ですからね。敵が増えるだけかもしれません。全力でお奨めというわけにはいかないですね。……それに」これを認めるのは、雄軒にとっても辛いことだったかもしれない。とりわけ、ミスティーアのことを考えると胸が痛んだことだろう。されど彼は続けた。「いまのクランジΡ(ロー)を、我々が保護しつづけるのも難しすぎます。応急処置はできましたが、バルトやドゥムカとは大きく系列の異なる『クランジ』という機晶姫を、私たちが完璧に修復することは不可能です。あそこまでダメージを受けてしまっては……もっと設備と研究の進んだ教導団や空京大、あるいは蒼空学園に預けるのが賢明と言えるでしょう」
この発言を聞けばミスティーアは怒るだろう。ローを引き渡す際には、ことと次第によっては泣くかもしれない。しかしミスティーアも、本当はわかっているはずだ。だから最後は、認めてくれるはずだ。
「ねえあんた。ローザマリア、だっけ?」パイはローザに言う。「あの、クシーだかオミクロンだかよくわからないヤツに伝えて……『身勝手かもしれないけど、もう手打ちにしましょう。元気でね』、って」
「澪がそれを聞いたら喜ぶでしょうね」ローザマリアは眼を細めた。
「持っていって下さい」衿栖が、袋に詰まったビーフジャーキーをパイに手渡した。
「こんなに沢山……くれるの?」
「沢山? いいえ、本当はもっと用意してきたんです。これはまだ、たったの半分です」衿栖は告げた。「残り半分は、今度会ったときに渡しますから」
「ありがと」ふっ、とパイは微笑んだ。「でも、残りをもらえる日はなさそうね」
「そうでしょうか? わかりませんよ」
ここに籠もっていても仕方ない。下山するわ……とパイは別れを宣言して立ち去った。一同を見回して、短く手を振った。
「じゃあね」
止めようとするものはなかった。