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魅惑のタシガン一泊二日ツアー!

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魅惑のタシガン一泊二日ツアー!
魅惑のタシガン一泊二日ツアー! 魅惑のタシガン一泊二日ツアー!

リアクション

「師匠、おちっこ」
 一度は寝付いたにゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)が目を覚まし、ゆさゆさと同室の変熊 仮面(へんくま・かめん)の身体を揺すった。ちなみに、屋上でいつもの全裸仮面ショー(?)をしていた変熊だったが、「早く寝るように」とルドルフに注意され、すごすごと部屋に戻って寝たあとである。
 なお、就寝時は全裸ではなく、愛用水玉模様パジャマ、三角帽子に着替え済みだ。これで寝冷えの心配も無用……という話ではなく。
「むにゃ〜、一人でいけよ〜」
「一人じゃ、こわいにゃ〜」
 腹黒猫のくせに可愛らしいことを訴え、にゃんくまはしつこく変熊を爪でつつき、起こそうとする。。
「しょうがないな……早くしろよぉ〜?」
 変熊は仕方なく起き上がったものの、寝ぼけ眼もいいところだ。ふらふらと立ち上がり、部屋を出る。……トイレは各部屋にもあるのだが、どうやら両者とも寝ぼけているらしい。
 お騒がせ寝ぼけ組は、危なっかしい足取りで近くの部屋のドアノブに手をかける。当然閉まってはいるが、ピッキングで変熊はやすやすと鍵を開けた。寝ぼけているくせに、こういうところはしっかりしているらしい。
「ほら」
 部屋に放り込まれたにゃんくまは、さすがにトイレではないことに気づいたが、面倒くささが先にたった。なにより膀胱が限界だ。
「もうその辺の布団でしちゃお……」
 怒られるのはどうせボクじゃないにゃ〜……と思うあたりが、にゃんくまである。ほとんどためらいもせずに、目の前のこんもりと持ち上がった布団の中にもぞもぞと入り込む。
 そして、その布団の本来の持ち主、もとい、哀れな犠牲者とは。
「む……?」
 オットー・ハーマン(おっとー・はーまん)は、不思議な暖かさを感じ、うっすらと覚醒する。同室の光一郎は、ロビーにて明日のガイドを担当するコーヒー農園について、よっぴいて暗記中のため、留守だった。
 が、問題はさらにその後だ。
(むにゃ?このお布団大きい魚が寝てる)
 にゃんくまはふと興味を覚え、オットーの下布をぺろりとはがしてみた。そして。
「はっ!この人、ちんちん無い……!」
 驚きにぶわっと毛を膨らませ、にゃんくまはベッドから転がり落ちると、顔面蒼白のまま叫んだ。
 ……それが先ほどの絶叫だったわけである(大事なことではないので二度繰り返さない)。
「な、な、な?」
 さすがにオットーも目を覚まし、にゃんくまは一目散にドアの外に逃げ出した。
「なっ! にゃんくま、その年で夜這いとは何と大胆な!」
 目が覚めたのかどうなのか、変熊がかなりズれた驚きをする。しかし、このままでは不味いことはさすがに理解しているようだ。
「に、逃げるぞ!」
 にゃんくまの手を掴み、走りだそうとしたところで、やおらドアが開く。
 どんっ!!!
「あ……ご、ごめんなさいっ」
 なにごとかと起き出してきたレモと、思い切り変熊が出会い頭にぶつかった。パンでもくわえていれば、恋に落ちそうなシチュエーションではある。
「た、大変にゃー! ちんちんが無いのにゃ!」
 わたわたとにゃんくまがレモに訴える。どうやら、よほど驚いたらしい。鯉のドラゴニュートなのだから、目につくところにないのは当たり前といえば当たり前なのだが。しかし。
「え? そういうこともあるよね?」
「へ?」
 さらりと言ったレモに、かえってにゃんくまと変熊が驚く。なんというか、女性なら、というのとはニュアンスが異なるように聞こえたのだ。
「えーと、レモ君?」
「だって、大きくなったら生えるものだって、ラドゥ様が。でも、同い年でももうある子もいるんだよね。ちょっと焦っちゃうなぁ」
 レモがはにかみ笑いをもらすが、聞いている二人としては、「え、それって」である。
「こら、そこの二人! なんの騒ぎだ!」
 駆けつけたマリウスとルドルフにがっつり捕まり、叱られている間も、変熊とにゃんくまはキツネにつままれたような顔をしたままだった。

 なお、オットーは結局、徹夜になった光一郎のベッドで寝たという。
(まったく……頭が痛いわい……)
 本当に、災難としか言いようがない。



「……ん……」
 皆川 陽(みなかわ・よう)は、怠い身体を横たえ、ベッドの上で寝返りを打った。
 なんだか大声が聞こえた気はしたが、多分気のせいだろう。
 彼を抱きしめたまま、テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)は寝息をたてている。穏やかな寝顔ではなかった。切なげに、眉根を寄せたままだ。
 テディの前髪を指でそっと払いのけ、その整った顔を陽は見つめた。
 ……どうしても、とテディは望んだ。
 断られても、あきらめられない。日に日に己の中の独占欲は募るばかりで。
「今ならわかる。僕は、他の人に手を伸ばすことも出来る。出来るんだ。それがわかった。でも、そうしようっていう気分にはちっともならない。……陽しかいらない。陽が手に入らないなら、何もいらない」
 だから、と。
 伸ばされた指先を、陽はふりほどくことはせず、今夜、受け入れたのだ。
 だがその瞳は、冷静にテディを見つめていた。
 考えてみれば、滑稽な話だ。
 契約してからずっと、陽はテディのことが羨ましかった。キレイな顔立ち、すらっとした長い脚、社交的な性格、甘い微笑み。そして、戦う力。彼はなんでも持っていた。まさに薔薇の学舎にふさわしい存在。
(でも、僕は、もうなんの価値もない。イエニチェリという立場もない。居場所も、なくしてしまった)
 からっぽだ。陽はそう思う。中身のない人形。
 それなのに。何もかもを手に入れられるはずの男が、その空っぽの人形を欲しがるだなんて。
 陽は自嘲じみた笑みを漏らし、目を閉じる。
 瞼の裏の暗闇は、陽になにも求めず、なにも奪わない。
 ……ああわかった。なんとなくわかった。
(ボクは、この完璧なパートナーのことがとてもうらやましくて、とてもまぶしくて、とても憧れてて、とても好きで、そして、……とても大嫌いだったんだ)
 だから。
 空虚な身体でいいなら、こうして一時、預けもしよう。だけど、心は。
 恋人、とテディは求めるが、身体を重ねたところで、所詮名ばかりの恋人にすぎない。陽はそう思いながら、ゆっくりと再び眠りに落ちていった。




「大変な騒ぎだったね」
 ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)が苦笑する。
「まぁ、この程度で済んだなら充分だよ」
 ルドルフはそう答え、深く息をついた。
 深夜の温泉に、今は二人だけだ。仕事を終え、束の間の休息といったところだろうか。
 ルドルフは、今は仮面も外している。もともとヴィナには素顔を見せたこともある。お互い、気にはしない。
「ありがとう」
「なにが?」
 ルドルフの礼に、ヴィナは微笑んで尋ねる。
「いや、助かっているよ。……本当に」
 新校長として、ルドルフはそれなりに忙しい日々を過ごしている。それは、この旅行に限ってのことではない。
 しかもどうしたって、強力なカリスマと個性を持つジェイダスになにかにつけ比べられるのも当然だ。ルドルフはそれに対し、当然受け入れてはいるけれども、それなりにプレッシャーはあってもおかしくはない。
(ただでさえあなたは、勤勉で頑張り過ぎちゃうこともあるからね)
 ヴィナはそれが好ましい反面、心配でもあるのだ。
 だからこそ、そんなルドルフを、ヴィナは出来うる限り側で支え続けてきている。そのことに、改めてルドルフは感謝を述べたのだ。
「気にしないで。それより、今回の旅行は、みんなが楽しんでくれているようでよかったね。そもそも今まで閉鎖的過ぎる所があったから、これを機にどんどん交流していってほしいよ」
「ああ、まったくだな」
 ルドルフが同意する。
「明日も、晴れそうだね……」
 露天風呂から星空を見上げ、ヴィナは呟いた。明日もまた賑やかに、楽しい一日になるといい。そう願いながら。
「よろしく頼むよ」
 ルドルフは微笑んで、そう乞うた。
「もちろんだよ」
 明日だけじゃなくて、これから先も。そんな想いをこめて、ヴィナは穏やかに答えた。


 そうして、夜はふけ、……次の朝が来た。
 旅行、二日目である。