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パンプキンパイを召し上がれ!

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パンプキンパイを召し上がれ!

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2


 クロエ・レイス(くろえ・れいす)が「はろうぃんぱーてぃをするのよ!」と弾んだ声で連絡をしてきたのは昨日の夕方。
 唐突な誘いだったけれど、運良く予定は空いていて。
「クロエ、来たよー!」
 当日朝、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)を連れて、工房を訪れた。
「みわおねぇちゃん! みんなできてくれたのね!」
 リンス・レイス(りんす・れいす)にエプロンを着けてもらっていたクロエが、美羽たちを見て笑う。
「こんにちは、クロエさん」
「クロエ、呼んでくれてありがとう」
 ベアトリーチェが丁寧に言い、コハクがやや砕けた調子でクロエに微笑む。それからコハクがリンスに向き直り、
「リンスさん、今日はよろしくお願いします」
 再び一礼。
「それと、たぶんそのカボチャの量じゃ足りないと思います」
「え」
 美羽も、そう思っていた。
 おそらくは、昨日買ってきたであろうカボチャ。二人で食べるには十分すぎるが、ハロウィンパーティをするには少ない、かもしれない。
 何せこの工房には人が集まるから、パイの材料はたくさん必要になるだろう。
「だからね、クロエ! カボチャをもーっと買ってきてほしいの!」
「うん、わかった!」
 美羽の言葉に、クロエが力強く頷く。
「リンスとコハクも一緒に行って。リンスだけじゃそんなに持てないだろうから」
「僕は荷物持ちってことだね。わかった」
「悪いね、ソーロッド」
「とんでもないですよ。お呼ばれしたんですし、これくらいお手伝いしなくっちゃ」
 一度脱いだ上着をまた羽織り、コハクが謙遜するように笑った。
 リンスとクロエも外に出られる格好になって、いざ行かんとしたところ、工房のドアが開く。
「こんにちは、クロエちゃん」
 ドアの先に居たのは、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)だった。エースはクロエに目線を合わせるように腰を屈め、
「今日もとってもかわいいね」
 チョコレートコスモスと、オレンジ色のガーベラ、紫色のトルコキキョウで作ったミニブーケを手渡す。
「ハロウィンいろね、きれい!」
「喜んでくれたようで何よりだ」
 エースは笑ってクロエの頭を撫で、それから視線をコハクに移す。
「みんなそろってどこかへ行くの?」
「はい。パンプキンパイの材料が少ないと思って、買いに行こうかと」
 ね、とコハクはクロエに言った。
「うん! たくさんつくるから、たくさんひつようだったの」
 クロエの頷きを見て、エースが嬉しそうに笑い、
「それなら丁度いい。ほら」
 くるり、振り返った。
 後方に控えていたのは、大きな荷物を持ったエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)
「クロエちゃんがパンプキンパイを作るって言うからさ、一緒に作りたいなって思って。たくさん材料を持ってきたんだよ」
「そのにもつ、ぜんぶ?」
 クロエが驚くのも無理はなかった。なにせかなりの量である。
「重かったでしょう、運び込むの、手伝います」
 真っ先にコハクが動き、エオリアの持つ荷物の半分ほどを持ち上げた。
「助かります、ありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそです」
 コハクとエオリアがパイの材料を工房に運び込むのを見た美羽が、
「あれ? 買って戻ってくるの、早くない?」
 と目を丸くしたので、コハクもクロエもなんだか可笑しくて笑ってしまった。


「なるほどねー。いくらろけっとだっしゅを駆使しても、あんなに早いわけないもんね」
 元からあったカボチャといただきもののカボチャの加工をしながら、美羽は独り言に近い呟きを発す。「そうよ! だからね、たすかっちゃったの。おはなももらったわ!」
 呟きにクロエが答えたので、美羽は「よかったねー」と笑う。
 隣に座るベアトリーチェが「驚きましたよね」と頷き、そのときの二人の反応を思い出したらしいリンスが小さく笑った。
「あ、クロエ。そこはこう彫るの」
「こう?」
「そうそう」
 美羽がクロエに教えるのは、ジャック・オー・ランタンの作り方。
 普通に作るとちょっぴり不気味なその顔を、美羽は自分流に改良して作っていた。
「くり抜いた中身はパイに使うからこっちのボウルに入れてね」
「はいっ」
 二人の加工を見ていたリンスが、「俺も手伝おうかな」と呟き。
「なら皆さんで作りませんか?」
 とベアトリーチェが提案し。
「エースさんたちも一緒にどうですか?」
 コハクがエースらも誘い、皆で並んで加工作業。
「中々難しいんだね。クロエちゃん、どうすれば上手くできる?」
「えっとね、んとね、こう! エースおにぃちゃん、わかる?」
「……うーん、抽象的」
「エオリアさん、お上手なんですね」
「うちでは家事担当ですから。こまごまとしたことが得意になってしまったようです」
「コハク、そうじゃないよ。こうやらないと、手を傷つけちゃう」
「うん。……美羽、教えるの、近くない?」
「え? そう?」
 エースがクロエと、ベアトリーチェがエオリアと、美羽がコハクと。
 隣に座った同士で自然とペアが出来た。
 リンスの隣にはメシエが座っており、二人は黙々と手を動かす。
「ヒューヴェリアルもこういうことするんだ?」
「得意ではないな。利があるとも思えない」
「リアリスト」
「その通りだ。だがリンスは得意そうだな」
「まあね、物作りを仕事の主としているし」
 刹那、沈黙が落ちて。
「礼を言いたかった」
 メシエが、リンス以外には聞こえないようにと呟いた。
「それが、この催しに参加した理由だよ」
「礼?」
「『夏祭り』の時に、君の人形のおかげで大切な人ともう一度と話が出来た」
 あの日のことは、忘れられない。
 辛くも思った。
 苦しくもあった。
 だけど何より、彼女とまた話せたことが、幸せだった。
「ありがとう」
「その言葉と笑顔が、何よりの報酬だね」
「……私は笑っていたか?」
「微かにね」
 そうか、と頷く。
 笑えていたことがこんなにほっとするなんて、いつぶりだろうか。


 ある程度中身がくり抜かれたので、ベアトリーチェはキッチンへ向かった。
 ジャック・オー・ランタンを作ってハロウィンらしさを演出するのは大切だけれど、おもてなしのためのパイがいつまで経っても準備されていないのでは困りものだからだ。
「わたしもつくるー」
 席を立つベアトリーチェに気付いたらしく、クロエが後をついてきて。
「俺たちも手伝うよ」
「他の人のレシピも気になりますし」
 さらにその後を、エースとエオリアがついてきた。
 いざ作らんとキッチンへ向かったところで、
「こんにち――って、今日は朝から人がたくさん居るんだね」
 工房のドアが開き、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)がやってきた。
「みんなクロエちゃんにお呼ばれしたのかな? 君は人気者だね」
 荷物を片手にクロエの傍まで歩み寄り笑いかける。
「ううん、きてくれるみんながやさしいの! りょうすけおにぃちゃんもきてくれて、ありがとう!」
 クロエも真っ直ぐ笑い返し、その場のみんながほっこりしていると、
「ちーっす。お招き頂きあんがとさん」
 再び、工房のドアが開いた。大小さまざまなカボチャをたくさん持った七枷 陣(ななかせ・じん)が立っている。陣の隣にはリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)小尾田 真奈(おびた・まな)の姿もある。
「あら? なんや人多くね? さすがパーティてか?」
 陣がリンスに問い掛ける。そうだねえ、とリンスは頷いた。朝からこんなに人が集まるのは、パーティだからに他ならない。
 また、きっとみんなクロエが好きなんだろうと。
 クロエがパイを焼くというから、一緒に手伝ってあげようと。
「クロエは本当、愛されてるね」
 彼女に言ってみたけれど、クロエはよくわかっていないとでもいうように首を傾げていた。


 涼介は特製レシピを持ち、キッチンに集まる面々に指南していた。
「……といっても、指南が必要そうな人は少なそうだね」
 ベアトリーチェも、エオリアも、真奈も、みんな料理スキルは高いだろう。
「もういっそ、みんなで好きなように作ろうか」
 混沌とするだろうが、キッチンは広い。各々がばらばらに、多少好き勝手にしたところで酷いことにはなるまい。
 それよりも、この中で指揮を執るほうが難しい。
「では、パンプキンクッキーを作りますね」
 まず行動に移ったのは真奈だった。
「パイは十分美味しいですが、それだけですと味気ないですし」
 真奈の言葉に、エースが頷く。
「そうだね。たくさんの人が来るだろうし、いろんなものがあるのはいいと思う」
「大は小を兼ねるとも言いますし」
 エオリアも同意した。ですよね、と真奈が微かに笑う。
「種類と量が豊富だと、それだけで楽しい気持ちにもなれますし……頑張ってたくさん、作りますね。
 ご主人様も手伝ってくださるのでしょう?」
「お? オレ?」
 不意に呼びかけられた陣が、慌ててキッチンに顔を出す。
「オレ、カボチャくり抜いたり材料混ぜることくらいしかできひんよ」
「いいんです。ご主人様と一緒に作りたいから」
 真奈が微笑むと、陣は照れたように顔を背けた。そのまま視線をリーズへ向けて、
「リーズは? どないするん?」
「ボクは美羽さんたちとジャック・オー・ランタン作ってるよ! 工房飾っておくから楽しみにしててねっ」
 問い掛けるとブイサインで返された。
 カボチャ加工組は加工組で、中々楽しそうにしているようである。