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リアクション
■ 師匠への相談 ■
地球に戻ってきた涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)は、実家に帰る前に寄り道をしてゆくことにした。
寄り道の先は叔父である本郷 涼二が営む骨董店。
涼介にとってこの叔父は、パラミタに上がる前、魔法のイロハと護身用の剣術を教えてくれた師匠でもあった。そしてまた、涼介の趣味の大半に影響を与えた人でもある。
昔は足繁く通った場所だけれど、パラミタに行ってからは地球自体になかなか戻ってくる機会が無い。
店にかかる『涼庵骨董堂』の看板を涼介は懐かしく眺めてから、店内に入った。
「久しぶりです。涼二叔父さん」
「本当に久しぶりだな」
そう言う叔父は変わりなく元気そうだった。
そして店内も変わりなく……客の姿が無かった。
「それにしてもお店のほうは相変わらずですね」
「まあ、こっちはこんなものだろう」
「ということは今でも祓い屋の仕事がメインなんですね」
叔父は表向きは骨董商を営んでいるが、裏向きは魔法関連の事件を解決する祈祷師をしている。本業は裏向きのほうだから、骨董品店が暇でも問題ないのだろう。
「ああ。で、今日は顔見せに来てくれたのか?」
叔父に聞かれた涼介は、それももちろんありますが、と言ってから来訪の目的を告げる。
「帰るのが少々気まずかったのと、それから相談があって寄らせてもらいました」
涼二が優雅な手つきで抹茶を点てて出してくれる。
いかにも由緒ありげな茶碗だから、もしかしたら店の商品なのかも知れない。
柔らかな甘味の中にきりっと苦みを感じる抹茶は、まるで叔父のようだ。懐かしい味がする茶を味わいながら、涼介は話し出した。
「私はこのままで良いんでしょうか……。今年の修学旅行の際、エリュシオンの龍から言われました。『優しいだけではいつか大事なものを失う』と」
涼介にとて大事なものは、守るべき愛しい人。生涯の伴侶である妻だ。そのことは涼介も理解はしている。
優しさ以外に何が必要なのかを、魔法使いとしての先輩で師匠である叔父に聞きたいと思って、涼介は店に寄ったのだ。
「私がパラミタ大陸に行ってから2年半。医学に長けた魔法使いとして、人々の役に立つために力を使ってきました。だが様々な事件を通じて、その力を時に破壊のために使うこともありました。そして今では、イコンという大きな力を扱うこともあります……」
涼介が考え続けてきたことをぽつりぽつりと話す言葉に、叔父は急かすこともなく静かに耳を傾けた。
そして涼介が語り終え、自分が変わらなければならないのかと尋ねると、叔父は答えた。
「お前の優しさは大切なものだ。そこは変える必要は無い」
しっかりとそう言った後、だが、と叔父は付け加える。
「お前の場合、若干肩に力が入ってることがある。男には時に肩の力を抜いて覚悟を決めなきゃならない時がある。それが出来るようになれば力に溺れる事は無い。魔法使いなら清濁併せ呑んでこそだ」
「はい」
真面目に頷く涼介に、ただし無理は禁物だと叔父が注意していた時。
「兄さん、なかなか来ないと思ったら涼二叔父さんの所に来てたんだ」
店を覗いて涼介を見付けた妹の本郷 涼子が声をかけてくる。
帰省するというメールを寄越しておいて、なかなか帰ってこない涼介を迎えに来たのだ。
店に入ってくる動きにつれて、涼子のつややかな黒髪ポニーテールが弾む。
「ちょっと叔父さんの顔が見たくなってね」
涼介はそう言ったが、涼子は心配そうな表情になった。
「また、お父さんに相談しにくいことでも話してたの? 案外、帰りづらくて叔父さんのところに来たんだったりして」
離れていても妹は妹。ずばりと核心を突いてくる。
「でもさ、兄さんの結婚のことはお父さんもお母さんもうれしがってるから、きちんと兄さんの口から報告しないと。さあ、兄さん。一緒に帰ろう」
涼介の手を引っ張って、涼子はぽつりと言う。
「次は奥さんと一緒にだよ」
「参ったな……」
本当にお見通しなんだなと苦笑しつつ、涼介は叔父に礼を述べ、涼子に連れられて家への帰路を辿るのだった。
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