|
|
リアクション
■ 父似の娘 ■
ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は新年を前に、母ミリディア・ディスティンの墓を訪れた。
ミルディアの父母はどちらもヨーロッパ系で、墓も教会の墓地にある。盆だからお彼岸だからと墓参りをする習慣はないけれど、パラミタに行っていると地球に戻ってこられる日も限られている。長期休暇の機会でもないと、なかなか墓参りもままならない。
父のローフル・アルフレッド・ディスティンは仕事で年末も忙しいから、ミルディアが来ないと母も寂しがるだろう。母の身寄りといえるのは、父とミルディアだけなのだから。
「すぐに綺麗にするからねっ」
ミルディアは墓とその周辺を掃除する。
てきぱきと掃除を済ませると、花を供えて改めて墓と向かい合った。
「久しぶりだね、ママ」
ミリティアはミルディアが小さい頃に亡くなった。
「あの頃は、パパの仕事が軌道に乗ったばかりで、ママは家で独りぼっちってことが多かったんだよね……」
だから病気になったときも、病院に行くのが遅くなり、結局手遅れになってしまったのだ。
母の最期の言葉は、まだミルディアの耳に残っている。
『パパをお願いね……あの人、どこまでも暴走するから』
最後の最後まで、父のことを心配していた母……。
ローフルが豪快な反面周囲に気を配るのに対し、ミリティアは繊細で柔和な反面大胆なことをやってのける人だった。
ディスティン商会の初代会計をしていたミリティアは、自分から弱音を吐かない性格だった。病気になってもギリギリまで仕事を行い、その結果病気を悪化させて命を落とすことになってしまったのだ。
ミルディアはミリティアが会計の仕事をするのを、よく見聞きしていた。ミリティア亡き後は、父ローフルと共に母のしていた仕事をこなしていた。ミルディアが今経理に明るいのは、その辺りの影響なのだろう。
「でもね、あたしはママじゃなくてパパに似ちゃったのかも。暴走もするし、男勝りなところもそうだし……能天気もか」
ミルディアはそう言って照れたように笑った。
「さて、そろそろお土産買って帰るかな」
感傷に浸るのもなんだからと、ミルディアはまた来るねと母に呼びかけ、墓を後にしようとした。
「……あれ?」
そこではじめて、ひっそりと置かれていた花と酒に気が付いた。
「誰だろ?」
そう言いながら花と酒を確かめ、ふ〜んと心得たように頷く。
花の種類と酒の銘柄で大体のことは予測がつく。
「まったく、走りまわってるくせして、肝心なことは忘れてないんだよね、あの人は」
やっぱり自分は父に似ているのだろうと思いつつ、ミルディアは笑って母の墓を後にするのだった。