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リアクション
■ 雪国のお正月 ■
例年の雪かきやお歳暮の始末、おせち作り等の年始の用意をパートナーたちと済ませると、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は東京駅まで金元 ななな(かねもと・ななな)を迎えに行った。
「はい、次はここで乗り換えだよっ」
「また乗り換え?」
東京から延々続く乗り換えに目を丸くしているなななに、ルカルカはもちろん、と笑って見せた。
「まだまだ乗り換えしないと家には着かないよ。なななの所が倉し……じゃなくM76なら、ルカの所は秘境異次元謎時空かも」
ルカルカの実家は東北の山間部。一体何をどう乗り継いだのか分からなくなるくらいの交通機関を経て、その後山道を歩いてやっと到着出来る場所にある。
「どこもかも雪だらけだね」
「雪景色は珍しいか?」
何もかもすっぽりと雪に覆われた景色を眺めているなななに、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が聞いた。
「M76星雲にも雪は降るけど、こんなにたくさんは積もらないんだよ」
なななは面白がって雪の中に踏み入ってゆく。
「転ぶなよ」
ダリルは新雪に足をすっぽり埋めたなななに注意すると、微笑ましくその様子を眺めた。
家に着くと、今度は初詣に出掛ける準備にとりかかる。
「なななにもルカの晴れ着を貸してあげる」
黄色と緋色の可愛い振り袖に着替えたルカルカが言うと、なななはいいよと遠慮した。
「こんな雪の中で着物着たら汚しちゃうよ」
「汚しても平気だよ。まとめてクリーニングに出しちゃうから。なななはどんなのが好きかな」
ルカルカがなおも勧めると、なななは鮮やかなブルーグリーンのグラデーションに様々な花を描いた1枚を選んだ。
着替え終わったなななを、ルカルカはちょっと遠出の初詣に誘った。
ダリルも夏侯 淵(かこう・えん)も和装で、日本の新年を味わいに行く。
乗り換え乗り換えして、ルカルカが皆を連れて行ったのは『星の里』だった。
「四方に鳥居がある天壇が珍しいかな。安倍の晴明さんが有名ね。京都や大阪のと違って静かでしょ。都会の神社と違って人も少なくて……ていうかほぼ無人だけどね」
ひっそりとした境内を指してルカルカは笑った。
「こんな人の少ない初詣は初めてだよ」
「M76星雲でも初詣は盛況なのかな?」
「うん。二年参りの時なんて、おしくらまんじゅう状態だもん」
大量の雪も静かな初詣もなななには物珍しいようだ。
「せっかく晴れ着を着ているんだ。そこで写真を撮ろう」
ダリルに言われ、なななはまた魂が吸い取られると騒ぎながらも写真に収まった。
「写真といえば……」
そう言ってダリルは、修学旅行でギリシアに行ったときの写真の焼き増しをなななに渡した。
「ありがとう。修学旅行を思い出すね」
色々あったねと、ルカルカとなななは修学旅行での思い出話にひとしきり花を咲かせた。
参拝を済ませると、次はどうしようとルカルカはなななに尋ねる。
「御神酒は飲んでみる? おみくじは?」
「御神酒はいらないけどおみくじは引きたいなっ」
「じゃああっちだよ」
皆でガチャガチャとおみくじを引いて、結果を見せあっこ。
「俺は中吉か……ななな殿はどうだった?」
淵に聞かれて、えっとね、となななはおみくじを開き、わわっと叫ぶ。
「凶だよっ!」
「……ある意味、レアだな」
「レアなんだったら大吉のほうがいいよ」
お正月でも凶は入っているんだねと、なななはおみくじをみくじ掛けにぎゅっと結んだ。
お参りを済ませると、また乗り継ぎを繰り返してルカルカの実家に戻る。
「今夜は泊まりかな。ていうかバスと汽車の本数がね……あはは、うち田舎なもんだから」
もう帰りのバスがないのだと、ルカルカは照れ笑いした。
「おせちもあるし、コタツにみかんに水ようかんもあるよー。これ食べながら、鉄道王桃伝説やろうよっ」
「おせちは和洋折衷で俺の自作だ。なななは好きな食べ物はあるか?」
ダリルに聞かれたなななは即答する。
「好きな食べ物は、サワラときび団子だよっ」
「なるほど。どちらも岡や……名物だからな」
「ルカは好き嫌い無いよ♪ この水ようかんもおいしい」
ルカルカはゲームのコントローラーを扱う傍ら、もぐもぐと水ようかんを食べる。
「何故、冬に冷たいようかんなのだ? 柔らかい味だから止まらんわけだが……」
淵もさっきから水ようかんにばかり手を伸ばしている。
「水ようかんは冬のモンだよ?」
つるんと喉を通っていく甘味がたまらない、とルカルカもまた水ようかんを口に入れる。
「食べ過ぎるなよ」
そう言いながらダリルもついつい水ようかんに手が出る。
ぬくぬくとコタツに入っているからこその冬の楽しみだ。
「そう言えば、ななな殿は熱心に参拝をしておったが、今年の抱負などはあるのか?」
淵が初詣の際のことを思い出して尋ねると、なななは堂々と答える。
「なななの今年の抱負は、シャンバラとニルヴァーナの平和を守ることだよっ!」
「ルカもニルヴァーナで頑張るつもりだよ。そういう淵は?」
「俺は……この外見と背丈がなんとかなればと……」
せめて男の娘扱いされないくらいになりたいものだと、淵は自分の身体を眺めて苦笑した。
その晩はおせち等を食べながらゲームに興じ、翌日、なななをまた全員で東京まで送っていった。
「気を付けてな、ななな殿。楽しかったぞ」
「いろいろありがとー、またねっ」
なななは大きく手を振ると、元気にパラミタに帰っていったのだった。