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リアクション
■ 友だちであったかも知れない人 ■
年末年始の長期休暇を利用し、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は故郷である合衆国カリフォルニア州に帰省した。
実家への顔出しの為、という他に、メイベルにはもう1つ帰郷の目的があった。
ここ数ヶ月、手紙が途絶えてしまっている友人を訪ねることだ。
友人。
そう言い切ってしまうには少し微妙な関係だけれど、パートナーのセシリア以前に友人らしき存在だったのは彼女ぐらいなものだ。
親から交友関係については厳しくされていた為に、メイベルはセシリアと出会うまで、知り合い以上友人未満という人しかいなかった。
友人を作ることを禁止されていたメイベルは、誰に対しても注意深く距離を取っていた。だから1人クラスの中で浮いてしまっていた。
それでも彼女は、メイベルのことをよく気にかけ、話しかけてくれた。
明るく屈託無かった彼女。
生来の気質なのか、単なるおせっかいやきだったのか分からないけれど、朝会えば必ず元気に挨拶をしてきたし、お昼時になれば、一緒に昼食を取らないかと誘ってくれた。
当時のメイベルは、親の言うがままになっていた為、彼女がそうしてくれても、踏み込むことが出来なかった。
親の言いつけを守らなければと思いこんでいたから、どれだけ彼女が歩み寄ってくれてもそれに応えることはなかった。それどころか、クラスメイトとの間に置いている距離を無造作に詰めてくる彼女に、戸惑うばかりだった。
なのに、彼女はメイベルの方で断ってもなお、態度を変えなかった。
メイベルが日本の百合園本校を経由してパラミタに渡るまで、色々と気にかけてくれた。
パラミタに渡ってからでさえ、彼女は幾度となくメイベルに、自分の近況や百合園本校の近況を書きつづった手紙を寄越した。
その手紙は嬉しかったけれど、パラミタに来た当初のメイベルは、なかなかそれに返信することが出来なかった。けれど、パートナーたちと過ごすうち、メイベルの方からも手紙を送ることが出来るようになった。
いつしか彼女からの手紙を心待ちにするようになっていたのだけれど……ここ数ヶ月、彼女からの手紙は途絶え、一切の情報が無くなってしまった。
何通手紙を出しても、返事はない。
ずっと気になっていた彼女の消息を、この機会に尋ねてみようと思ったのだ。
手紙の住所を頼りに彼女の自宅を訪れてみると、出てきたのは彼女と面差しの似た母親だった。
「あの子は……亡くなりました」
急性白血病で、と母親は涙を押さえた。
「若いから進行も早くて、発見された頃にはもう……」
手紙が来なくなった頃に、彼女はこの世から去っていたのだ。
彼女が友人だったのか。
今もメイベルにはそうだとは言い切れない。
けれど……大切な人だった。
それだけは間違いない。
深い喪失感を抱きながら、メイベルは彼女の家を辞したのだった。