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シャンバラ一武闘大会

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シャンバラ一武闘大会
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第五十三試合

 
 
『静かな戦いでした。続いては、サツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)選手対、小ババ様選手です。二人共頭に紙風船を載せていますが、小ババ様、ほとんど自分の頭と紙風船が同じ大きさです。可愛い♪』
「こばー♪」
「よろしくお願いします……。ちっこい……」
 一応一礼したサツキ・シャルフリヒターだが、はっきり言ってゆるスター並みの大きさの対戦相手で、ちょっと調子が狂っているようだ。
『さあ、試合開始です』
 ゴングが鳴ったとたん、サツキ・シャルフリヒターがミラージュで分身した。それぞれが、鞭でヒュンヒュンと風を切って身構える。
「こばー!」
 ほとんど何も考えずに、小ババ様が狙いを定めたサツキ・シャルフリヒターに突っ込んでいった。羅刹の武術を駆使して、黒縄地獄を叩き込む。だが、幻影が一つ消えただけだ。
 別の方角から、本物のサツキ・シャルフリヒターの放った真空波が飛んでくる。だが、ただでさえ的が小さい上に、すばしっこい小ババ様に殺気を看破されて避けられてしまう。
 怯まず、小ババ様が次のサツキ・シャルフリヒターを攻撃した。だが、これもまた幻影である。
「こばあ? こばあ!」
 ちょっと困った小ババ様が、何か思いついたらしく、じっとサツキ・シャルフリヒターの殺気を探り始めた。
 まずいと感じたサツキ・シャルフリヒターが逆転のチャンスをうかがう。
「こば……こばばばばばばばばばばこばばばばばばばばばばこばばばばばばばばばばこばばばばばばばばばばこばばばばばばばばばばこばばばばばばばばばばこばばばばばばばばばばこばばばばばばばばばばこばばばばばばばばばばこばばばばばばばばばば!!」
 雷霆の拳に小ババ百烈拳を乗せて小ババ様が放った。サツキ・シャルフリヒターの全ての幻影、本体をも含めてに、無数のちっちゃな拳が炸裂する。だが、ほとんど同時にサツキ・シャルフリヒターもカクタリズムを放っていた。
「ううっ!」
 サツキ・シャルフリヒターが頭の風船を破壊されて吹っ飛ばされると同時に、カクタリズムに舞い上げられた小ババ様が頭から床に落下する。幸いなことに頭の紙風船がクッションと鳴って無傷だったが、当然風船は割れてしまった。
『相討ちです!』
 シャレード・ムーンが告げた。
「こばあ」
 やっちゃったとばかりに頭を掻きながら、小ババ様が退場していく。
 サツキ・シャルフリヒターの方はやはり無言かと思ったが、ふいに身を低くするとロケットシューズを全開にして武舞台の上から観客席へと吹っ飛んでいった。
「うおっ!?」
 直線上にいたエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が軽く吹っ飛ばされた。
少し、痛いですよ……
「な、なんだ!?」
 すでに負けてのんびりと観戦していた新風燕馬が、サツキ・シャルフリヒターの突撃をくらって吹っ飛ばされる。
「いてててて。あまり気にするなよ。みんな一回戦落ちだ」
 珍しく涙ぐんでいるサツキ・シャルフリヒターをだきしめたまま新風燕馬が言うと、そばにいたザーフィア・ノイヴィントとローザ・シェーントイフェルが静かに苦笑した。
 
 
第五十四試合

 
 
緋桜 ケイ(ひおう・けい)選手の不戦勝です』
 
 
第五十五試合

 
 
『さあ、続いての試合は、シエル・セアーズ(しえる・せあーず)選手と、また匿名希望さんです。何か後ろめたいところでもあるんでしょうか。まあ、ここはキマクですので、多少のことなら大丈夫のはずですが』
「はーい。みんなー、頑張るよー」
 846プロ制服のアイドルの衣装を着たシエル・セアーズが、頭に青い薔薇の髪飾りをつけて武舞台に現れた。
 対するは、シニストラ・ラウルスなのだが、スーツの上にブラックコートを羽織り、襟を立ててほとんど顔が見えないようにしている。紙風船は、頭に被ったボルサリーノの上に載っけている。
「なんだか、どこかで見たような気が……」
 直前の試合が対戦相手が空席のために不戦勝となった緋桜ケイが、まじまじとシニストラ・ラウルスを見つめた。
「人違いじゃないですか」
 よせばいいのに、シニストラ・ラウルスが気にしてコートで顔を隠す。
「うーん、どっかで……。カナタなら、覚えているかなあ」
 先ほどまで青痣を常闇夜月に治療してもらっていたはずの悠久ノカナタを捜しに、緋桜ケイが観客席を移動していく。
「あっ、こら邪推するな。俺はただの一般人……」
 ペチッ。
「あっ」
 シエル・セアーズが放った炎の聖霊が、シニストラ・ラウルスの頭の紙風船を燃やして潰した。
 いつの間にかゴングが鳴っていたようだ。
『勝者、シエル・セアーズ選手です』
「みんなありがとー、これも、みんなの応援のおかげだよー」
 シエル・セアーズが観客席にむかって手を振った。
「お馬鹿」
「あああ……」
 自分は勝ったデクステラ・サリクスに怒られて、シニストラ・ラウルスは頭をかかえて会場の隅でしゃがみ込んだ。
 
 
第五十六試合

 
 
『さあ、続いての試合は、水橋 エリス(みずばし・えりす)選手対、馬 超(ば・ちょう)選手の戦いです。水橋エリス選手は、以前イルミンスール魔法学校で行われた魔法大会での準優勝者です。はたして、今大会ではどこまで勝ち進めるのでしょうか』
「イルミンスールの水橋です。どうかお手柔らかに!」
 なんだか周囲から期待されまくって、でないとは言えなくなってしまった水橋エリスが、武舞台の上で馬超に挨拶した。けれども、直後に、戦闘モードに心を切り替えて相手を見据える。シンボルとしては、掌大の缶バッジをイルミンスール魔法学校新制服のマントの留め具の横につけている。
「頑張れー、エリスー。アーシュラの分まで頑張ってー!」
 応援団長のニーナ・フェアリーテイルズが、「エリス、アーシュラ。二人とも頑張れ〜!!」と書いた大きな旗を周囲の観客にぶつける勢いで振り回していた。場所を移動して観戦していたエッツェル・アザトースの顔を、旗がパシパシと叩く。
「こっちだって負けないんだから。ハーティオンとドラゴランダーの分まで勝てー。
 そ〜れ♪
 頑張れ頑張れ馬超♪
 負けるな負けるな馬超♪
 しばいたれー♪オー!
 しばいたれー♪オー!
 シメは簀巻きで〜♪
 川にたたきこめー♪
 ファイト〜!オー♪」
 反対側では、ラブリトルが、馬超にむかってチアリーディングで応援をしている。
「さすがに、少し恥ずかしいな……」
 頭に紙風船をつけた馬超が、布の少ないラブ・リトルの姿を見てさすがに少し顔を赤らめる。
「だが、戦いに手は抜かぬ。馬孟起、参る」
 静かな闘志を秘めて、馬超が言った。
『それでは、試合開始です』
「雷光丸!」
 屈盧之矛を構えて間合いを詰めてくる馬超に、水橋エリスが指鉄砲の印を作って、雷球を高速で撃ち出した。
「妖術か。だが、その程度で、私の突進を止めることはできぬ
 紙一重で雷球を避けて、髪を逆立てながら馬超が矛の間合いに突っ込んできた。
 あわてて口笛を吹く水橋エリスの横に、大型騎狼が飛び出してくる。その鞍をつかむと、半分引きずられるようにして水橋エリスが馬超の攻撃を躱した。
「あたらんか」
 すぐさま体勢を立てなおす馬超に、水橋エリスが移動しながら雷術で攻撃を続ける。馬超が龍鱗化した腕でそれを弾き返すものの、わずかに身体が痺れる。次の瞬間、頭の紙風船が雷光に射貫かれていた。
「むう。私の負けだ」
 屈盧之矛を床に突き立てると、馬超が潔く武舞台から下りた。
『勝者、水橋エリス選手です』