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リアクション
「えっ、博士が女王様を……?
神子探しの時には助けてくれたのに、どうして?」
早川 呼雪(はやかわ・こゆき)から話を聞いた、パートナーのドラゴニュート、ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)は、ありありと顔を曇らせた。
「解らない……。
だが博士は、何も知らず、知ろうとせずにその辺で暴れている連中とは訳が違う。
後で悔いのないよう、きちんと仔細を確かめなければな……」
そもそも彼は何故、わざわざ女王殺害が目的なのだと言い残して去ったのか。
黒崎天音と手分けして、人型甲冑との2人の巨人、そして、眼鏡の男性とツインテールの少女の2人組の情報を集める。
そして、時折の村で、2人組が宿を取ったという情報を得ては、連絡役の従者を通してそれを仲間達に伝えた。
その際、人型甲冑も村近くに目撃されることがあったが、巨人の姿は確認されず、巨人は人里には近付かないようにしているようだった。
「毎日、宿を取れているようではないな。野宿も多いのか」
「ハルカちゃん大丈夫かな〜」
ファルの荷物の中には、チョコやお菓子が詰められている。
巨人や博士や、ハルカと皆で一緒に食べられるように、と。
オリヴィエ博士が潜伏場所に選ぶのなら、アトラス直轄自治領であるキマクではないだろうかと、ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)は考えた。
自分が彼の立場なら、此処に身を隠す。
シャンバラ政府といえど、簡単に手は出せないのではないかと思うからだ。
そこで、痕跡を追う国頭 武尊(くにがみ・たける)と分かれ、一気にキマクへ向かった。
「別に、放言しているだけでまだ女王殺害が実行されたわけでもなく、パラ実に被害が出ているわけでもないがな」
そして捕らえたとして、シャンバラ政府に引き渡すつもりは今のところないのだが、とりあえず恩を売る材料になれるかもしれない、とは考えている。
「むしろ、キマクに来ていてくれれば、こちらも色々と動きやすいのだが」
とりあえず身柄を確保し、彼の護衛につくことを考えたのだが、キマクでは有力な情報が得られなかった。
「来ていないということか?」
「場所柄、余所者が紛れ易いですものね。
容易には見つからないということかもしれませんわ」
パートナーの悪魔、サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)は、後でシャンバラ政府に請求するつもりで、懸賞金付きの手配書をばら撒いたのだが、それも効果はない。
「ただ、これを」
渡された紙を見て、ジャジラッドは、
「何だ、これは?」
と訊ねた。
「不可思議な籠の中に、『ラウル・オリヴィエの現在の居場所は?』と書いて入れてみたのですけれど」
サルガタナスの言葉に、ジャジラッドはもう一度紙を見る。
そこには、「何とかと煙は」と書かれてあった。
ジャジラッドは軽く息を吐く。
「とりあえず、国頭に伝令を送れ。高いところを探せと」
「了解いたしましたわ」
サルガタナスは頷いた。
「シャンバラ大荒野の住民に、手当たり次第水のペットボトルを渡してね、情報提供を呼びかけたの」
豊かさが戻り始めているとはいえ、まだまだ厳しい環境の方が多い荒野では、水と食料は貴重だ。
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とパートナーのヴァルキリー、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は、地道に情報を収集して、リネン達とその情報を共有した。
「巨人は、シャンバラ大荒野を北上してるみたい。
どうも、サルヴィン川沿い、っていうかサルヴィン川沿いの何処かに向かってるっぽい感じがするの」
サルヴィン川は、地球の川で例えるなら、ナイル川のようなものだ。
距離が長い為、エジプトを流れる流域のように平坦な地形もあれば、青ナイル上流、もしくはグランドキャニオンのような険しい谷もある。
目撃情報は、その険しい地形へと向かっているようだった。
美羽とコハクは、オリヴィエ博士とは付き合いが長い。
彼が理由も言わずに突飛なことをしでかすのはいつものこと、と思っていたが、流石に今回は驚いた。
「博士のことは信頼してるけど……止めないわけにはいかないよね」
ロイヤルガードとしての立場もある。
コハクと話し合い、リネンらと共に彼を捜索することにしたのだ。
きっと、何か理由があるはず。
「ハルカは、今も博士と一緒にいるのかな……」
先にハルカを見付けられたら、彼女をも説得したいと、コハクは思う。
自分達と一緒に、博士を説得して欲しい。
女王殺害をやめさせて欲しい、と。
ネットでゴーレムのことを調べていたレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)も、リネンの飛空艇に合流した。
入って来る情報に、レキは少し呆れる。
「普通は、こういうことしでかしてたら、変装くらいしてるかと思ってたんだけど」
何だか、その辺で大声で名前を呼んだら、返事をして出てきそうな気がする。
「あの人、普通の枠に入らないからなあ」
「博士が本気で誰かを殺そうとしているのなら、ハルカが止めないわけはないと思うのじゃがな」
パートナーの魔女、ミア・マハ(みあ・まは)が言った。
「そうだね。
ていうか、ハルカ、ちゃんと博士と一緒にいるのかな? 迷子になってないといいんだよ」
ハルカに対しては、別の心配もあるのだ。
「言える理由なら、最初から言っていますよね、きっと……」
ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は、そうパートナーのゆる族、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)に漏らした。
「だとしたら、直接会って、訊ねても、答えては貰えないかも……」
「まあなぁ」
ベアはそう答え、ぼりぼりと頭を掻く。
「でもまあ、何もしないで考えてるよりは、会いに行った方がいいだろ」
「そうですね」
直接にはその動機を教えてくれなかったとしても、会話の中で、汲み取れるものがあるかもしれない。
ハルカなら、何かを答えてくれるかもしれない、という期待もあった。
「全く、変な知り合いばっかいるよな、あの博士は……」
いつかは、ナラカのドラゴンも、博士のことを知っていた。
今度は巨人か。一体どういう縁なのか。
「それにしても、ハルカ……」
ベアは深い溜め息をつく。
「一宿一飯の恩義、はねーだろ……」
脱力した様子のベアに、ふふ、とソアは笑う。
「ハルカさんらしいですね」
「まあなぁ……」
「ハルカさんがついているのですから、きっと、本当に悪いことはしていないと思います」
オリヴィエ博士のことを信じている。だからこそ、真意を確かめたかった。
◇ ◇ ◇
ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)は、巨人が持つ大剣が発見されたという遺跡に興味を持った。
既に発掘し尽くされ、新しい発見があるとは思えなかったが、念の為、調査に向かうことにした。
「国軍の情報部にも何の資料も無かったし……、本当にタダの、旧時代の建物の遺跡、なんだけどねェ」
何故この遺跡に件の剣が収められるに至ったのか、それが解れば、今回の事件、特に巨人について、何かが解るかもしれない。
が、やはり発掘され尽くした遺跡。
苦労して最下層まで行っても、目新しいものは何も無かった。
「……そういえば、この遺跡が巨大なのは、巨人のサイズに合わせてあるのかしら……」
1階に戻って一息ついて、ふと思う。下の階へ行くことを重要視していて、1階は全くスルーだった。
試しにざっと調べてみるが、普通に住居だったらしい、ということくらいしか解らない。
「……ん? 住居?
地下があんな、巨大サイズのダンジョンなのに、1階は普通に住居?」
ニキータは違和感を覚え、今度は徹底的に調べてみる。
そうしてその違和感は、先の発掘の際に見逃されたらしい、壁の後ろに落ちていた本を偶然見付けて決定的になった。
「巨人のサイズに作ってあるけど、普通にシャンバラ人の住居だった、ってことよね」
普通なのかどうなのか解らないけど。
ニキータは、本に記された、掠れて殆ど読めなくなっている署名を見る。
古代文字だった。
同名の人物がいても不思議ではないだろう。しかし偶然にしては出来過ぎだ。
「……ラウル、ってあるわよねぇ……」
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