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リアクション
一方、同じくリカインのパートナー、ハーフフェアリーのミスノ・ウィンター・ダンセルフライ(みすのうぃんたー・だんせるふらい)も、
「先生の敵は僕の敵!」
とばかりにシルフィスティと共に戦おうとしたのだが、シルフィスティ自身に、
「ミスノは生身でイコン戦はダメ」
と禁止された為、生身で巨人に向かって行く者を見付けて、その前に立ちはだかった。
一直線に自分を目掛けて走って来る者に、巨人は気付いた。
「ほう!」
それが生身の人間であることに、巨人は笑みを浮かべて身を向ける。
だが、その前にミスノが飛び出した。
「何、あなた。私の邪魔をするつもりですか」
九十九 昴(つくも・すばる)は、身構えるミスノを見て、六輪の刀を、じゃっ、と構える。
「うん、そのつもり」
「容赦はしませんよ!」
昴はミスノに攻め込んだ。
「昴!」
「天地、すぐに終わらせるわ!」
「承知しましたわ」
パートナーの英霊、九十九 天地(つくも・あまつち)は頷く。
ミスノと昴は激しい打ち合いとなったが、それも長くは続かなかった。
「んもう、負けないんだもん!」
劣勢なのは明らかにミスノの方だった。
一旦後退したミスノは僅かな溜めを作り、昴はミスノを追って、一気に飛び込む。
「これで、終わりです!」
二人の武器が激しくぶつかり合った。
「レジェンドストライクの同時撃ち!」
後方で、天地が呟く。
「――くうっ!」
力負けしたミスノがよろめいたところに、昴はとどめの一撃を打ち込もうとする。
そして直後、二人はそれぞれ背後に飛び退いた。
昴は自ら、ミスノはリカインに抱え込まれて。
ガツ!と、二人の間に、巨大な刃が突き立てられる。
昴は上を見た。
巨人が、二人を隔てるように突き立てた大剣を引き抜き、身を翻す。
「待ってください!」
声を張り上げると、振り向いた。
「――名前を訊いても?」
巨人はふと肩を竦める。
「アルゴス」
一瞬だけミスノの方を確認して、昴は巨人へ向かった。
何より、彼と対峙する方が優先だ。
もしもミスノがまだ攻めてくるようなら、天地が警戒してくれるはず。
最も、その心配は杞憂だった。
リカインに捕まって、突き立てられた剣から飛び退いたミスノは、そのままリカインにホールドされていた。
「全く、何を馬鹿なことやってるの、あなたも!」
「だってだってだって、先生が〜!」
「だってはいいから、とにかく来なさい!」
ちら、と巨人を見遣りつつも、そのままリカインはミスノを引きずって行く。
彼は、ミスノを助けてくれたのだ。
「ではアルゴス。何故あなたは演習場を襲ったのです!?」
巨人の耳に届くよう、叫ぶように昴は訊ねた。
「それだけではない、あなたは誰も殺さないように戦っている」
イコンと戦って、操縦者を殺さずにイコンを大破させるなど、意識しなくて出来る芸当ではないはずだ。
巨人は軽く頷いた。
「全く面倒なことだが。殺すなと言われているからな」
「殺すなと? 誰にです」
「そこまで知る必要もないだろう」
「いいえ、語ってもらいます。腕ずくが必要であらば、戦ってでも」
ふ、と巨人は笑って剣を取る。
魔鎧、龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)を装着し、ケンリューガーの姿となった武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、可変機晶バイクに乗り、灯の合図で一気に飛び出した。
昴と同様、イコンに搭乗しない彼は、巨人を倒す為というよりは、味方の援護の為の戦法をとった。
疾風迅雷、アクセルギア、速さを上げて、死角から一気に巨人の足元へ突撃する。
狙いは利き足の踵骨腱だ。
「あの外見からアキレス腱を連想するわけではありませんが。
故事は参考にするものです」
と灯は言う。
生身であるならば、そこは弱点であるはず。
巨人はケンリューガーの姿を視認はできなかったが、彼の接近に気付くと、足を背後に滑らせた。
「何!」
向かっていた巨人の足が逆に向かって来る。
向きを変えようとするが間に合わず、巨人の足を固く覆う脛当てが、バイクごとケンリューガーに激突した。
「くっ!」
弾き飛ばされたケンリューガーは、受身を取ってすぐさま起き上がる。
見下ろす巨人と目が合った。
「皆、足元を狙って来るな。それも同じ場所を。対処にも慣れた」
「……くっ」
ケンリューガーは立ち上がる。
「教えてくれ。何故、演習場を襲撃した!?」
死者も重傷者も無く、あの兆発の言葉さえ、「女王を守る為に体勢を整えろ」と言っているように、灯にも感じ取れた。
「汚名を着ても、多くの人に訴えたいことがあるんじゃいのか?
話してくれ。名誉に賭けても、その言葉を全て代王に伝えてみせる!」
くく、と巨人は笑った。
「痛み入るが、我々は、極めて個人的な理由で行動している」
「何……?」
きっぱりと言い切った巨人に、ケンリューガーは、仮面の下で眉をひそめる。
その肩の上でヴァーナーが、先の会話の巨人の言葉を思い出した。
「知りたいことは、ただひとつ。
二つの選択肢を前にした時、お前達が、そのどちらを選ぶかだ」
会話は終わりだとばかりに、巨人は剣を上手横に構えながら身を翻した。
元より、多くのイコンに囲まれつつあるこの状況で、話をしている余裕などあるはずもない。
ケンリューガーも始めは、戦闘が終わり、巨人を取り押さえた後に質問をするつもりだった。
巨人は、叩き下ろされた背後からの剣撃を受け止める。
響く衝撃にケンリュウガーは、援護のタイミングを計る為に一旦身を引いた。
「実体剣のくせに、ビームサーベルを受け止めたわよ! 何あの剣!」
一撃を叩き込んで、御凪 真人(みなぎ・まこと)とパートナーのヴァルキリー、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)の操縦するアストレアは、素早く巨人から距離を取った。
「出力低下……? いや、正常に復帰」
激突した一瞬の計器の狂いに、真人は慎重に計器類の確認をする。
「思ったんだけど、まず投降を呼び掛けなくてよかったのかしら」
「攻撃した後に何を言ってるんです」
思い出したように呟いたセルファに、真人は苦笑する。
「まあそれは多分教導団の人の仕事でしょうし、多分言ったところで無駄でしょうし、多分皆、力ずくで行くしかないと思っているでしょうし」
「勿論真人もそう思ってるのよね」
「多分、君もね」
「それじゃ、全力で行くわよ!」
上空から、プラズマライフルで牽制する。
岩場の多い荒野を上手く移動しながら、巨人は剣を盾にしながら銃撃を防いだ。
「やっぱり、あの人、まさか飛べたりはしないようね。
人間には死角ってものがあるんだから。三次元で攻められるのが、イコンの強いところよ!」
しかし見たところ、巨人は周囲からの砲撃を、涼しい顔で防いでいる。
「というよりは、むしろ、つまらなそうですね」
真人は、その動きを読みながら呟く。
「予測できないような、突飛な行動をしているわけではありませんが……」
一方他のイコンも、多くが長距離攻撃か弾幕援護に徹していた。
「予測できない動きではないが、上手いな」
柊 真司(ひいらぎ・しんじ)とパートナーの強化人間、ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)の操縦するゼノガイストも、常に一定の距離を取りながら、巨人の行動パターンを探っていた。
「死角からの攻撃は、見ないで防いでいる。
相手が生身ならまだ解るが、気配などないだろうに、どうやって察しているんだ?」
割とどのイコンも問答無用で撃っているのに、巨人の肩に乗っているヴァーナーには全く影響が無い。
子供を盾にするつもりは毛頭無く、乗せたままなのは、余裕なのだろう。
「あの剣、あんなに大きくて重そうなのに、とても軽く扱いますね。素材は何なのでしょう」
巨人の持つ大剣を見て、ヴェルリアが言った。
確か、竜殺しの剣と呼ばれていたのだったか。
「剣技ならこっちも、とっておきのを持っている」
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)のイコンは、遠距離攻撃などには走らなかった。
むしろ、これだけのイコンが援護と遠距離攻撃に出ているのなら、自分は自分のイコンの特性を生かす。
祥子とパートナーの聖霊、イオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)は、北斗星君で巨人の懐に飛び込む。
「ふっ!」
突きから蹴りへの連続攻撃は、いずれも剣で受け止められた。
「!?」
祥子はぱっと距離を置く。
「イコンで挌闘? よく動く」
半ば驚き、感心したように呟きながらも、巨人は反撃に来た。
「何今の。びりっと来たわ!」
祥子とイコンは今、畢我一如によって一体化したような状態になっている。
イコンが受けた違和感が、痺れのように感じ取れたのだ。
「解りません。あの剣が、何か……」
「来るわ!」
「回避いたします!」
回避をイオテスに任せる。
受け流し、巨人の体が空いた部分を狙って渾身の力を込めた突きの一撃を、ダイアモンドクラッシュに乗せた。
「ち」
「――なっ……!」
突きは巨人に届かなかった。
手首から向こうを、スパッと斬り落とされたからだ。
「あの大剣で、あんな器用に――」
間合いは近く、攻撃するなら剣を薙ぎ払って来るほうが余程易かったはずだ。
最も、それならイオテスも避けられた。
「ごめんなさい、祥子さん」
「あんな細かい動きに、いちいち反応間に合わないわよ」
回避が間に合わなかったイオテスが謝ったが、イオテスのせいではないことくらい、祥子は解っている。
巨人は攻撃しつつも飛び退き、慎重に祥子のイコンを見て笑んだ。
「驚いた。やるな」
「むかつく言い草だわ」
こちらの会話は勿論向こうに届かないが、巨人の声は、呟きですらも聞き取れる。
「祥子さん……」
「解ってる、これ以上は無謀だわ。
一瞬だけど、斬られる時もあの痺れが来た。挌闘戦は不利ね」
祥子は冷静に判断して身を引く。
ふ、と巨人は微笑した。
「面白い戦いだったがな……」
と、それは口にはしなかった。
呟きですら、確実に周りの耳に拾われるくらいは自分の体が巨体であることを、自覚しているからだ。
「こんな時でなければ、もっとまともに相手したかったものだ」
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