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リアクション
舞台は、大多数が嫌がるノゾキ達の侵入を心待ちにしていた者の話に移る。
【黒ネコ】の耳のヘアバンドをした前髪ぱっつんロングを揺らし、その者は笑う。
「うふふ。私のためのスナッフフィルムの素材になるために、こーんな一杯来てくれるなんて」
ほんわかした口調で恐ろしい単語を発するのは、警備員のイナ・インバース(いな・いんばーす)である。彼女の目の前には、【サバイバル】を使ったイナと他の警備員達によって取り押さえられたノゾキ達が拘束されている。
「フン……煮るなり焼くなり好きにしろ。もっとも、我らの悲願は必ずシェア大佐が叶えてくれるのだ」
捕まりつつ、高貴なノゾキ思考を止めないノゾキに、イナは笑顔で返す。
「誤解されていますね?」
「何だと?」
「ノゾキは許せない私は、皆さんにそれをわかってもらうため、ここに居るのですよ?」
「我々を改心させると言うのか!? フンッ、いつか貴様の姿もバッチリ覗いてやる! 金輪際ゆっくり入浴できる安住の地など無いと思うがいい」
「大丈夫です。これから私の実験台になる皆さんは、もう『そんな思考すら存在しなくなる』わけですから」
チョット(?)だけ、マッドサイエンティストが見え隠れするイナが、懐から何やら液体の入ったアンプルを取り出す。
「そ、それは……!?」
「私が【医学】と【薬学】を使って作った……お薬です」
まさかの薬によるお仕置きを予想していなかったノゾキ達は「人権蹂躙だ」と抗議の声をあげる。
「うふふ……悪人とノゾキには人権はありません」
パキンッと、イナがアンプルの頭部を折る。
「本来でしたら、注射器でしてあげたいのですけれど、直接体に投薬すると効果がどうなるか予想出来ませんし、粉末状なら他の皆さんにもご迷惑がかかります。だから、許して下さいね?」
「あ、謝るポイントが違ぁぁーー……うわぁぁ!?」
イナがノゾキ達の頭上から、アンプル内の液体を降りかける。
「これで、良し、と」
「……な、何だ? 何ともないぞ!」
「オレもだ。失敗したな小娘!!」
ノゾキ達は一斉にイナを嘲笑する。しかし、イナは余裕の笑みを絶やさない。それどころか、彼らを縛っていた縄を解いてやる。
「さぁ、お好きなだけ覗きに行くと良いですよ?」
「貴様、一体何のマネ……ハッ!!」
ノゾキの男が、イコンと争う巨猿に目を奪われる。
「どうした? さっさとノゾキに行こうぜ?」
「う……美しい」
「は?」
「わからないか!? あの顔!! 幾多のボス猿の奪い合いとなり、多くの子を産んできた逞しさが見えないのか!?」
「ただのビッチじゃねえか! ……いや、待て。お前の言う通りかもしれない」
ノゾキ達は次々と巨猿の群れに心を奪われていく。
「人間の湯など、覗いている場合じゃない!!」
「おう!! 彼らと友情や愛情を築かずにはいられるか!!」
「おーい! 俺たちと風呂に入ろうぜーー!!」
ノゾキ達は一目散に巨猿達の方へ向かっていく。まるで、久しぶりに駅で見かけた旧友に走り寄るかのような笑顔で……。
イナは、満足そうに頷く。
「私の作った薬の効果が出たみたいですね。実験成功です」
状況を見ていた他の警備員がイナに尋ねる。
「あのぅ。今の薬は一体?」
「ええ、これは巨猿とお友達になる薬です。人間に見向きもしなくなれば、ノゾキではなくなりますから」
イナの笑顔に、背筋にゾクリとしたものを感じる警備員。
そんな事お構いなしに、イナはメガホンを取り出し叫ぶ。
「さぁ、巨猿さん達とじーっくり友情なり愛情なりを深めて下さーい!!」