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お風呂ライフ

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「ほう……」
 シェア大佐は下方からやって来るドラゴ・ハーティオンを見下ろしていた。
「蒼空戦士ハーティオン! 心の力に導かれ、温泉の平和を守る為ここに見参!」
「若いな……」
 ニヤリと二重顎を歪めるシェア大佐。
「卑劣なノゾキ行為により、多くの民を煽動した罰、許しがたいぞ!!」
 ハーティオンがシェア大佐を指さす。
「多くの民が付いてきた……ならば、それこそが正しき道だとは思わないのか?」
「ふざけるな! 己の享楽の為にルールを破り、覗きが正しい行為だと信じきることこそが貴様の誤り……この私が正してやろう」
 ハーティオンは、胸に輝く【ハート・クリスタル】から剣を取り出す。
「最後通告だ。今すぐ貴様の手下達を撤退させろ!」
「断れば?」
 剣を構えるハーティオン。
「残念ながら力づくでも捕まえてスパ施設の職員に引き渡すしかあるまい」
「ふむ……凄い気迫だな。だが、これでも私を切れるかな?」
 巨猿が手に持ったのはグッタリとした舞花であった。
「!!?」
「どうしたのだ? ハーティオン? 私を倒すために、一人の無垢な少女を傷つける覚悟はあるか? 君のその正義でな!!」
「ひ……卑怯な……」
 その時、舞花がふと目を覚ます。
「ここは……?」
 舞花は下に見えるスパリゾートアトラスの施設と、巨猿を見て、瞬時に自分の置かれた状況を把握した。
「ハーティオンさん!!」
 同じ蒼空学園の生徒のため、顔を知っていたハーティオンに呼びかける舞花。
「私に構わず!!」
「舞花……」
「この人は危険です!! 巨猿を利用したのも……」
「やれやれ、お喋りなお嬢様だ。少々、甘やかしすぎたか?」
 巨猿が舞花を握る手に力を込める。
「クッ、ぐぅ……!!」
 苦悶の表情を浮かべる舞花。
「や、やめろ!! 舞花に手を出すな!!」
 ハーティオンが慌てて止める。

 尚、既にその映像は、ルカルカ達の番組スタッフの機材により、ニュース速報番組としてお茶の間に届いていた。
 ツァンダの自宅にて夫婦で仲良くTVのニュースを見ながらティータイム&雑談を楽しんでいた陽太の元にも……。
「ブッ!?」
 突然流れた映像。電波塔の上で舞花が巨猿に捕まっている姿は、陽太にお茶を吹き出させるのには十分すぎるインパクトであった。
「ゲホッゲホッ! 何かあれば必ず連絡してください、と念押ししていたのに……」
 陽太がソファーから立ち上がると、彼の妻である環菜が顔をあげる。
「どうするつもり?」
「勿論、助けに行きます! 小型飛空艇で飛ばすと、ここからスパリゾートアトラスなら……」
「やめなさい」
「ど、どうしてです?」
「あの子は、気ままにパラミタを歩き回りたい、と希望していたし、あなたや私もそれを認めたわ。旅には危険も少々必要よ」
「危険過ぎるでしょう!?」
「何とかなるわ……だって」
 環菜の言葉を遮るように慌てる陽太。
「ならなさそうだから、俺が……」
「陽太?」
 ビシリと視線で彼に釘を刺した環菜が、ティーカップをテーブルに置いて、陽太のオデコをピンッと突っつく。
「舞花が危険だからっていちいち出かけて行ったら、あなたの身が持たないし、あの子の成長の糧にならないでしょう?」
「あ……」
「それに今は周りに大勢の契約者達がいるの。彼らや舞花を信じてあげなさい」
 環菜はそう言ってお茶を一口飲む。妻の豪胆さに唖然とする陽太。
「……それもそうですね」
「全く、不安なのは私も一緒なのに、あなたまで私を不安にしてどうするのよ……」
「……」
「ひょっとして、あの子」
「え?」
「去年の秋頃から私達夫婦で温泉旅行を計画してたでしょう? その話を聞いて、アルバイトに行ったのかしらね……」
 環菜の言葉に、陽太は「よしっ!」と気持ちを整理してまたテレビに向き直る。その表情は妻の出産に立ち会うような父親の顔に近い。そんな陽太を環菜は口元に笑みを浮かべて見守る。
「……ん?」
 陽太が画面の端に注目する。
 そこには蟻のように電波塔をよじ登る何かが見えていた。

 鉄塔の上では、ハーティオンと共にやってきた少年が声をあげていた。
「やめろ!! これからツンデレーションの第二部が始まるっていうのに、どうして停電などを起こす! これじゃ、俺の交通費が無駄になってしまうぜ!!」
「君は、仲間内で電撃作戦のシン総統閣下と呼ばれている者だったな……」
「どうして、俺の通り名を知っているんだ!?」
「君のことはとある人物から少し聞いていた。生活の全てを追っかけに費やしている、とな」
「ふん! そうと判れば話が早いぜ! 今すぐノゾキなどやめてお前も俺と一緒に追っかけをやばいい」
「生憎、そうもいかぬのだよ。私は偶像ではなく自然を愛しているからな」
「何を!?」
 アイドルを馬鹿にされ怒り心頭のシンがハーティオンの肩からシェア大佐に向かって飛び移る。
「うあああーーッ!!」
 拳を振り上げるシンをシェア大佐は悠然とした動きでかわそうとし……。
バキィィ!!
 シンの右ストレートがシェア大佐の頬を捉える。
「何!? 実は弱かったのか!!」
 ハーティオンが驚きの声をあげる。
「く……これが若さか」
「アイドルを馬鹿にする奴は許さないぜ!!」
「だが、勝負は別だ……こちらには人質が!? ど、どうした!? 巨猿!?」
 巨猿は、何やら仕切りに足元を気にしている。
 シェア大佐が見ると、足元に彼の同志であったノゾキ達が数名張り付いている。
「ふははは。この鍛えあげられた筋肉。最高だなー」
「ボス、俺も連れて行って下さい!!」
 ノゾキ達はイナの薬により、巨猿しか見えなくなっていた。人間に異性以外の同性同士の恋愛を好むものがいるが、彼らもそうらしい。
 足がくすぐったいのか巨猿が悶絶する。
「ええい! 貴様ら、どけ!!」
「大佐ー! 自分だけ、一人占めしようなんてズルいですよー」
 まとわりつくノゾキ達を振り払おうと、巨猿が手にした舞花を離す。
「しまっ……」
 シェア大佐がシンともみ合いながら、叫ぶ。
「舞花!!」
 ハーティオンがすかさず舞花を受け止める。
「あ、ありがとうございます」
「いや……よいのだ。あとは……」
 ハーティオンがシェア大佐を睨む。
「あの者を掴まえるだけだな」
 その時。
 スパリゾートアトラスの近郊にて、火山のような爆発音と地響きがする。
「な、何だ?」
「……フン、どうやら間に合ったな!」
 シェア大佐は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。