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あの頃の君の物語

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あの頃の君の物語
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マフィアの血〜雷霆 リナリエッタ〜

 魔道書「あの頃の君の物語」の元にピンクのツインテールの美女がやってきた。
 「あの頃の君の物語」が本を開く机の上に座り、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は艶やかに微笑んだ。
「女の過去を知りたいだなんて、罪作りな人ねぇ……」
 セクシーな唇から発せられる甘い声。
「ふふ、いいわ。教えてあげる」
 リナリエッタは過去を語り出した……。


 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は日本で生まれ、シチリアで育った。
 日本人である母譲りの美しい黒髪は、イタリア人のそれとはまた違い、なめらかで艶やかだった。
 イタリア人の父はマフィアのボスだった。
 マンガのような実は自警団でしかないマフィアとかそんなことはない。
 密輸・賭博・強奪・暴力。
 それらを行うれっきとした犯罪組織だった。
 しかし、リナリエッタはその家の末娘で。
 跡取りはもうリナリエッタの腹違いの兄に決定していた。
 そのため、リナリエッタはまったくそのような世界は知らず、お姫様や妖精の出てくる絵本とお花が好きな夢見る女の子として育った。


「お嬢様はその本がお好きですね」
 フリルの白いワンピースに身を包んだリナリエッタに、屋敷のメイドが声をかける。
 すると、リナリエッタは花のような微笑みを浮かべた。
「ええ、だってこのご本とってもステキなんですもの」
 メイドに見せるようにリナリエッタが本の表紙を向ける。
 その本はキラキラとした加工がされていて、表紙には色とりどりの衣装を身に纏った妖精たちが踊っていた。
「リナはね、大きくなったら妖精さんと一緒に空を飛んで、お花を摘みに行くの」
「空をですか?」
「ええ。箒に乗って七色の虹を渡って、妖精さんの世界に行くのよ」
 とても楽しそうにリナリエッタが笑う。
 それを見ていると、メイドもうれしい気分になって笑顔で答えた。
「素敵ですね。リナリエッタお嬢様なら、きっと虹色のちょうちょさんが迎えに来てくれますよ」
「本当! 素敵〜」
 メイドの話を鵜呑みにし、リナリエッタは何歳になったら迎えに来てもらえるかしらとうきうきしながら眠った。


 少し大きくなると、リナリエッタにもお屋敷以外の世界が見えてくる。
 リナリエッタは自分のお屋敷から見える古いお城に興味を持っていた。
「すごく綺麗なお城……」
 でも、リナリエッタは勝手な冒険はせず、自分の屋敷の中の人に聞いた。
「あのお城にはどうしたら行けるのかしら? パーティに招かれたら?」
 お嬢様らしい質問にファミリーの構成員はちょっと困ったように答える。
「あの城からパーティの招待状は来ませんよ」
「来ないんですの?」
「あそこは誰も住んでいないのです」
「誰も?」
 リナリエッタは首を傾げた。
 確かに新しい城ではない。
 でも、誰も住んでいないようには感じられないのだ。
「誰も……というのは違うかも知れません。あそこにはとても恐ろしい炭の魔女が眠っているんですよ」
「魔女のお城……なの?」
「嘘じゃあ、ありません。ファミリー全員、炭の魔女の話は信じています」
 その言葉をリナリエッタはそれほど疑わなかった。
 リナリエッタの家は炭の一家と呼ばれていた。
 炭の一家の名称の意味は、報復として相手の財産、家族を燃やし尽くすことにあったが、リナリエッタはそんなことはまったく知らずにずっと育っていた。
 ただ、自分たちが炭の一族というのだから、もしかしたら、炭の魔女と何か縁があるのではと夢見ただけだった。
「魔女が眠るお城では行けませんね」
「そうですよ。ですから遊ぶなら中庭……は今は駄目ですね。何か別の遊びをしましょう」
「ええ、そうですわね」
 リナリエッタは柔らかな微笑を見せ、屋敷の奥に入ろうとした。
(でも、いつかは魔女さんとお会いしてみたいな)
 そんなことをリナリエッタが思っていると、中庭からパンと音がした。
「あら……」
「あ、お嬢!」
 構成員がリナリエッタを止めようとするが、リナリエッタの動きの方が早かった。
 屋敷の窓から顔を出したリナリエッタが見たのは、黒い水鉄砲を持った父親と、倒れている人。
 倒れた人の下には水たまり。
 赤い、赤い、水たまり。
 その水たまりの量が多くなって、小さな川を作り始める。
 流れる赤を見て、リナリエッタは思った。
(ああ、なんて綺麗…)
 お父様も水鉄砲がアレを作ったのかしら。
 そしたら、なんて魅力的なものなのかしら……。
 

 次の日。
 リナリエッタは美容師を家に招いた。
「髪をピンク色に染めて欲しいの」
「え!?」
 美容師はその言葉に驚いた。
 その美容師は有名ブランドのファッションコレクションなどで、ヘアメイクを担当するような有名な美容師だ。
 ファッションショーで様々な髪色をすることがあるから、ピンクに染めること自体は造作もないのだが……。
「本当にいいのですか? 綺麗な黒髪ですのに……」
「いいの。リナね、綺麗な赤の色を見つけたの。だから、赤のお友達のピンクさんになりたいの」
 リナリエッタは無邪気は微笑みで答えた。
 それは今までのリナリエッタと同じような無邪気さなのに。
 無邪気さの方向性がどこか違ってきている……。
 美容師はそんな気がした。


 それ以降、リナリエッタは父の仕事に興味を持ち、徐々に変わっていく。
 パラミタに行く頃には幼い頃のリナリエッタを見たらビックリするほど違うリナリエッタになっていたのだった。