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あの頃の君の物語

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あの頃の君の物語
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対照的な二人〜七枷 陣〜

 ヴァルキリーの孤児院。
 リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)はそこで育てられていた。
 親を亡くしたり、親に捨てられたヴァルキリーが集められる孤児院で、リーズは生まれてすぐにここに入れられた。
 孤児院の先生もヴァルキリーで、リーズは同族のお姉さんたちに囲まれて、すくすくと育った。
 優しい人々のおかげで明るく無邪気な子に育ったリーズだったが。
「……リーズを別の施設に移動するって……どういうことですか?」
 いきなりやってきた国の施設の使者だという者たちに孤児院は混乱した。
 しかし、彼女たちの混乱とは逆に使者たちはいたって冷静だった。
「リーズ・ディライドは頭一つ飛び抜けた身体能力の持ち主です」
「このままこの孤児院にいても、あの子の能力は生かせないでしょう」
「しかるべき施設でリーズを預かり、成長させます」
 彼らの説明に、孤児院の先生は困った。
「確かにリーズはすばらしい能力を持つ子です。13歳とは思えないほどの……。でも、あの子はまだ子供です。ここにいるお友達たちと離れるのは……」
「これは契約者を輩出するための措置です」
 有無をいわさぬ声で使者は言った。
「申し出を受け入れられない場合は、この施設への援助は打ち切られます」
「そんな!」
 その話はリーズの耳にも聞こえていた。
 見知らぬ人がやってきたのを見て、子供たちは心配し、様子を立ち聞きしていたのだ。
 もちろん、使者たちはソレに気付いていたが、あえて止めなかった。
「リーズちゃん……」
 お友達たちが心配する。
 しかし、リーズは笑顔で言った。
「あはは、ボク、すごい能力があるんだって。これは行かなきゃだよね!」
 心の優しいリーズは、自分がその施設に行けばみんなが困らずに済むと考えた。
 使者たちはそれを見越して、リーズたちに立ち聞きさせていたのだが、罠だったとわかっても、リーズは結局行っただろう。
「それじゃみんな元気でね!!」
 リーズは孤児院を旅立った。


「こいつの発言、斜め上杉。ワロス」
「1万人が参加とか盛りすぎだろ。どう見ても1000人いねぇ」
「今日のおま言うスレはここですかwww」
 七枷 陣(ななかせ・じん)は今日もネットの掲示板で政治家叩きに勤しんでいた。
 左側には自分用のテレビがあり、右側には菓子と飲み物が置かれている。
 まったく身動きせずに暇つぶしできるシステムがバッチリだ。
 ふと、テレビから音がして、テレビ画面の上に白い文字が2行表示された。
「速報で野じじぃの解任キターーwww 俺たち大・勝・利www」
「よし、この時間なら許す。アニメ録画中にこれ入るとマジ萎える」
 そんな文字が踊り、しばらくは賑やかだったが、少しするとそのスレも落ち着いた。
「……出かけっか」
 スマホを見ると友達からメールが入っていた。
 陣はリュックを肩にかけて、家を出ながら、友達に電話した。
「あ〜、うん、そこのゲーセンおるん? それならオレもこれから行くわ〜」


「最近の格ゲーなってないよな」
「なってないってなんや」
「オレらが小さい頃はもっと格ゲーって技出すの難しかったじゃん。それが今やどうよ。ボタン2つ3つ押すくらいで簡単にコンボじゃん」
「楽でええやん」
 そう答えながら陣はコンボを決める。
 コンボを、コンボを……。
「うわ〜えげつなっ。永久コンボ入ってるじゃん」
「初っ端から端っこに追い詰めてかーらーのー永久コンボは礼儀やろ?」
 友達の言葉に軽く答えて、陣は永久コンボを決めていく。
 そして、相手をKOするとこう続けた。
「こんなんはめられる方が間が抜けてるんや」
 陣の声と共に、なにかがガタッと鳴った。
 筐体の向こうの相手が動いた音だ。
「やべっ、逃げろー!」
 友達の1人の声に、陣たちは急いで逃げ出した。


 追いかけてくる学生をまいた後、陣たちはアニメ系のショップで同人誌やゲームを見て、その後は適当にファーストフードの店に入った。
「もう推薦取ってるから、やることないだろ、陣」
「ないな。お前たちだって、どうせAOで入るんだから関係ないだろ、授業」
「まったくないない。もう高3なんて夏で卒業にして欲しいよな〜」
 友達とダラダラしていると、画面にパラミタのことが映った。
「パラミタか〜小学校の頃は燃えたよな」
「あの頃はな。でも、どうせあそこだって、ここと変わらねえよ」
「あ、なんかこのおねーちゃん有名だよな。トレード長者だとか」
 画面に出ている女性を指さし、友達が笑う。
「陣もネットばっか見てるんだから、トレードしたらパラミタに行けるんじゃね?」
「元になる金もねえや。だいたい、オレがパラミタに行くなんて、宝くじで1等が当選する確率より低いわ」
「え〜、わかんねえじゃん」
「自堕落な日々送ってきたら、空から女の子が振ってくるとか?」
「急に押しかけ彼女が出来たりな」
 そう言い合ってから、陣と友達たちは笑った。
「まぁ起きるわけないんですけどね」
「ないない、絶対ないわ。そんな来たらマジ詐欺だし」
「オレ、モブキャラですしおすし」
 からっぽになったドリンクを傾けながら、陣たちは立った。
「さ〜家帰って、またどっか叩くか」
「どんなやる気だよ、それ」
「あ、それより陣。今日はイベントだから来いよ。お前の魔法、頼りにしてるんだから」
「ナニソレ。『リアルでは何をやってもダメなオレ。オンラインでは頼りにされてるんだ!』ってやつ?」
「よくわかってんじゃん」
 オンラインゲームの広告をもじった陣の言葉に友達は笑う。
 陣たちが外に出ると、先ほどニュースでやっていたパラミタが見えた。
 だから何? だ。
 月が見えようと太陽が見えようと、自分が行けるわけじゃないし、関係ない。
 陣は自分に関係があるオンライン世界に行くため、友達と別れて家に帰った。


 リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)はそのころすでに就寝していた。
 施設は早朝から起床し、朝食、訓練、昼食、訓練、夕食、入浴、就寝という規則正しすぎるほど正しい生活を送っていた。
 厳しい教官に見張られての無機質な日々はリーズから無邪気さを奪い、暗い表情をする子に変えていた。
「もうすぐ地球に降りることになるんだ……」
 夕食前にリーズは教官から説明を受けていた。
 地球に降りて、契約者を見つける。
 それが新たなリーズの任務だった。
 チャンスは4回。
 探せる時間はそれぞれ48時間。
 時間が来ても見つからない場合はパラミタに強制送還され。
 リーズには見込み無しの烙印が押され、『処分』されてしまう。
「……ボクが見える人を探さないと」
 全部失敗したら、これはリーズにとって、最初で最後の任務になってしまう。
 初めて行く地球でどこまで何が出来るのかわからないけれど、どうか誰かが自分を見つけてくれますようにとリーズは願うのだった。