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あの頃の君の物語

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あの頃の君の物語
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世界が見てみたくて〜笹奈 紅鵡〜

 パラミタが出現して数年後の2015年。
 14歳の笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)は家で世界中の風景や遺跡が載っている写真集を見ていた。
「いいな〜、ここ」
 切り立った山の上に立った教会。
 高原に立ち並んだ奇怪な岩石群。
 真っ青なラピスラズリで彩られたかつてのモスク。
 光の反射で蒼にも緑にも見える湖。
 人工の物から自然の物まで、どれも見応えがあり、写真の横にある説明も面白くて、紅鵡は食い入るようにそれを見つめていた。
「ほら、紅鵡。ずっと本見てないで、こっち手伝いなさい」
「はーい」
 キッチンにいる母に声をかけられ、名残惜しいと思いながら紅鵡は本を閉じた。
 そして、母に言われて、お皿を出しながら、母にこう言った。
「ボク、世界中の遺跡に行ってみたい!」
「そう。大人になったらね」
(大人に、かあ……)
 母の言葉に紅鵡はちょっとだけ意気消沈した。
 言われていることはもっともだけど……。
(もっと早く、いろんな世界を見てみたい)
 紅鵡はそう思っていた。


 その後、紅鵡は近くの公立高校に進学した。
 高校は普通科だけのよくある普通の高校で、紅鵡はバイトに明け暮れた。
「ありがとうございました〜!」
 コンビニで元気に紅鵡は客を見送る。
 高校生でも雇ってくれるということで、コンビニにバイトに入った紅鵡だったが、コンビニのバイトはやることが多くて大変だった。
 ファーストフードのバイトも、学校が終わった後に入ったのだが、忙しかった。
「ポテトのSとハンバーガー入ります。ご一緒にお飲み物もいかがですか?」
 慣れない敬語を使いながら、紅鵡はレジ打ちと応対に勤しんだ。
 父はがんばる紅鵡を応援していたが、母はちょっと不満そうだった。
「バイト行くために高校に行かせてるんじゃないんだから」
 しかし、夏休みになると、紅鵡はさらにバイトに励んだ。
 夏休みに選んだバイトは選果場だ。
 真夏の暑い中、選果場で汗を拭き拭き、紅鵡はバイトをがんばった。
 あまりに一生懸命な紅鵡を見て、父も心配し始めた。
「せっかく高校に行ったんだし、夏休みは友達と遊んだらどうだい?」
 母も同じ意見だった。
「高校2年になったら受験が近くなって遊べなくなるんだから、バイトは少し控えたら?」
 しかし、紅鵡のバイトの日々は止まらない。
 冬になると、紅鵡はクリスマスで忙しいレストランでバイトをし、大晦日のお寺でも売り子をした。
 そうして、1年間がんばった成果は紅鵡の預金通帳に現れた。
 通帳には高校生が持つには十分なお金があった。
「高校生活以外に興味が出来たので辞めます」
 高校2年生になった紅鵡は学校の先生にそう言いだした。
 当然、教師は驚き、家に電話。
 父も母も大反対した。
「何を言ってるの!! そんなこと高校を卒業してからだっていいでしょう!」
「紅鵡、高校だって無料じゃないんだ。教材費とか色々とかかっている。それに、後から入学したいと思っても出来ないんだよ?」
 あと1年待てとか高校中退がどれだけ大変かを親は説いたが、紅鵡の決意は固かった。
 高校を中退し、世界を旅したいと。
 結局は両親が折れて、許してくれた。


 紅鵡はパスポートを手に入れて、世界を旅に出た。
 アメリカの入国審査に戸惑ったのは最初の時。
 その後、逆にヨーロッパの国家間の通りやすさに驚いたりした。
 中学生の頃に本で見た景色を本当に見て、肌や髪の色の違う人たちとたくさん触れて、紅鵡は高校では味わえなかった広い世界を見ることが出来た。
 同じ制服を着て、同じような髪型をして。
 自分の将来に役に立つか分からない勉強をして。
 恋や人の噂話しかしない女の子の友達に囲まれてるよりも。
 紅鵡には広い世界の方が合っていた。
 日本の普通の高校に収まるには、紅鵡の羽根は大きすぎたのかも知れない。


 2019年の春。
 日本に帰った紅鵡は今度は両親にこう言った。
「パラミタに行きたい」
 もう両親は紅鵡を止めなかった。
 その代わりに、蒼空学園のパンフレットを見せた。
「これは?」
「もう一度、高校に行きなさい」
 母が渡してきた蒼空学園は、パラミタにある学校で、入学年齢などの制限がない学校だった。
「あなた高校2年でやめてしまったでしょう。高校は、卒業しなさい」
 それだけは聞いて欲しいという両輪の願いを、紅鵡は聞き入れた。
 そして、紅鵡はパラミタに行き、蒼空学園に入学する。