リアクション
第1試合 「ブルースロート、模擬戦用データ、セットします。戦闘用AIパターンセット」 「ブラックバード、フィーニクス基本データセット。カスタマイズデータロード。パイロットリンク開始」 各データをセットして、リカイン・フェルマータと久我浩一が準備を整えた。 『では、第1試合を開始したいと思います。 イーブンサイド、AI制御によるブルースロート! オッドサイド、佐野 和輝(さの・かずき)パイロット、アニス・パラス(あにす・ぱらす)サブパイロットによる、ブラックバードです!』 シャレード・ムーンのアナウンスと共に、対戦機のデータがスクリーンに映し出された。 ブルースロートのデータはヴェロニカ・シュルツ(べろにか・しゅるつ)機の物を使用しているようだ。 対するブラックバードは、グレイゴーストの後継機として、フィーニクスを改造した強攻偵察機だ。前機と同じクレイシルバーの機体だが、機首部分はロング化し、カナード翼も大型化している。前進翼と二枚の垂直尾翼のデザインも継承しているが、垂直尾翼部分は大型化し、バックシステムとしてのイコンホースと一体化していた。 「初戦の相手が、AIとはな。まあ、慣らし運転としては手頃ということか」 ブルースロートのデータを確認しながら、佐野和輝が疑似コックピットのパイロットシートに身を滑り込ませた。実体はシミュレータのベッド状のコックピットに横になっているのだろうが、五感はそれを感じさせない。狭いブラックバードのメインパイロットシートそのものが再現されている。 『――こっちの準備もオッケーだよ』 後部サブパイロットシートに座ったアニス・パラスから、精神感応でダイレクトに意志が伝わってくる。黒いパイロットスーツの佐野和輝とは対照的な、白い専用パイロットスーツに身をつつみ、各センサーなどにダイレクトに直結して情報処理を担当している。本当は、佐野和輝の膝の上にいたいのだが、コックピットがそういう構造になっていないので、ちょっと不満だ。 『――さあ、始めようか』 佐野和輝が、ブラックバードのエンジンに火を入れた。電磁カタパルトに載ったブラックバードが、出力を上げる。ロックが外れ、カタパルトのシャトルがブラックバードを外界へと力強く押し出した。 天沼矛のイコンベースから発進したブラックバードが、白い雲を引き裂いて加速していった。あっという間に、音速を突破する。 『――ステージは海京そばの空中みたいだよ。……敵イコン補足。10時方向俯角40距離20』 『――こちらでも補足した。0方向から急降下攻撃を開始する』 まだこちらに気づいていないブルースロートに対して、ブラックバードが高高度から急降下して接近した。小手調べとばかりに20ミリレーザーバルカンを発射する。 直前で気づいたブルースロートの肩部バインダーが跳ね上がった。光の膜がくるりと回転するようにして広がる。その表面で、オパール色に輝く美しいバリア表面が、レーザーを受けて雨に打たれた水面のように彩りを変えた。 『――予想以上だな。この程度ではブルースロートは抜けないか』 素早く水平飛行に移って離脱しながら、佐野和輝が思った。 『――バリア展開スピードとパターン分析しゅうりょー。もうちょっと、データがほしいかな?』 今の攻撃の結果を解析しつつアニス・パラスが言ったが、AI制御とはいっても、敵も立ったままの人形ではない。ビームライフルによる反撃がすぐに襲いかかってきた。 即座に、ブラックバードが急旋回した。機体の軋む振動が再現されて感じられる。 その後を追うようにして、ビーム束が斜めに海面を薙いだ。水蒸気爆発によって、巨大な水柱の白いスクリーンが立ち上る。それを背後に遠ざけて、ブラックバードがブルースロートの側面に回り込んだ。 ミサイルを発射しつつ、再び上昇する。 超電磁ネットでミサイル群を撃墜すると、ブルースロートがブラックバードの後を追った。だが、圧倒的な推力の差で、ブラックバードが引き離す。 撃ち落とそうと下から浴びせかけられるビームをローリングで巧みに避けていたブラックバードが急反転した。 『――ひゅううう〜』 ほとんどジェットコースターのような機動に、アニス・パラスが楽しみながらも悲鳴をあげる。 ぴったりと射軸を捉えたブラックバードが、正面からツインレーザーライフルを発射した。反転時にそれを予測していたブルースロートがビームシールドを展開してレーザーを防ぐ。だが、エネルギーを収束させたために、上昇スピードが鈍った。その横をすり抜けていったブラックバードからグレネードがばらまかれる。シールドの隙を突かれたブルースロートの機体表面で爆発が広がった。 海面すれすれで水平飛行に移ったブラックバードの背後に、炎につつまれたブルースロートが墜落して海中に没する。激しい水柱があがり、ブルースロートの機体が消えた。 『――対象沈黙……』 『――まだ!』 気を抜こうとした佐野和輝に、アニス・パラスが叫んだ。 突然、ブラックバードの背後に、海中からブルースロートが飛び出してくる。エネルギーシールドでダメージを抑えつつ、墜落したふりをしてビームシールドを展開して海中へと突っ込み、そのままブラックバードの背後へと回ったのだ。 ブルースロートが、ビームライフルを構える。 ブラックバードが無理な機動で機首を上げた。風圧にあおられるようにして機首が跳ね上がって機体が回転する。その最中で、変形が始まった。上面をさらすことになったブラックバードの左翼をビームが貫いた。それには構わず、宙返りをする形で強襲モードへと移行したブラックバードがブルースロートの背後へと回り、両手に持ったツインレーザーライフルで止めを刺した。 火柱と水柱をあげて、今度こそブルースロートが海中に没する。 『――今度こそ、対象沈黙』 『――確認したよ。にひひ〜っ、勝利♪』 『――状況終了。帰投する』 無理な機動や被弾のために変形機能に支障をきたしたブラックバードが強襲モードのまま天沼矛へとむかう。 機首部分はシールド然として左腕に回り、下部が右腕となっている。機体中程で二つに折れて形成されたボディは、コックピットが胸部にあり、下部が展開して脚部となっている。イコンホースはそのまま肩部で補助ブースターとなっていた。 主翼をやられて揚力による飛行は不可能とはなったが、ブースターによる飛行は可能な状態にあった。 『――和輝、壊したね〜』 『――あ〜。すまん』 ★ ★ ★ 『第1試合、勝者ブラックバードです!』 |
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