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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

リアクション


・Chapter23


「誤差修正、エネルギーシールド、再展開するよ!」
 ニケのコックピットで霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)が座標計算を終え、味方機のシールドを展開した。
 現在援護しているのは、モスキートを引き付けている二機――【シュヴァルツァー・リッター】とフレスヴェルグだ。さすがに直撃はまずいものの、エネルギー武装である敵主砲のダメージを軽減し、有線ビットからの砲撃もほぼ無効化する。機体のエネルギー残量に留意しなければならないが、敵味方ともにエネルギー武装が主体であるため、かなり高い効果を発揮していた。
 衛星到達まであと少し。【マモン】とアイビス・クルセイダーも、モスキートの有線ビットの攻撃を掻い潜りながら、連携して距離を詰めている。
「この分なら、なんとかなりそうだけど……」
「どうしたの、鈴蘭ちゃん?」
「いえ、なんでもないわ。……集中しないとね」
 館下 鈴蘭(たてした・すずらん)は、ある違和感を覚えていた。
 これまでは、地球側の勝手な思い込みと誤解による言い分とはいえ、敵ははっきりとした目的を持って戦いを挑んできた。
 海京に攻め込んできた「軍」と、マリーエンケーファーに搭乗していた英国貴族エドワード。
 聖戦宣言を行い、F.R.A.G.を創設したマヌエル前枢機卿。
 世界をリセットすると告げ、原初のイコンを駆って現れた「軍」の総帥――ノヴァ。
 今度の敵はそういった者たちとは違い、何の声明も出してはいない。大規模な戦力を用意し、衛星兵器を掌握しようとしているのに、である。
 加えて本気で衛星を死守しようとしてはいるように見受けられるが、必死ではなさそうに見える。まるで、「衛星兵器を確保すればシャンバラに対し優位に立てるが、どれほど有効的かは分からないから、死守が難しそうなら諦める」と言わんばかりに。
 今回は本当にこれまでの敵とは違う、短絡的なテロリストなのか。それとも、この戦いの裏で動いている何かがあるのか。
 疑問は尽きないが、いずれにせよこの任務を成功させなければならないことには変わりない。

「向こうは、何とか大丈夫そうだな」
 モニターに映るモスキートと【シュヴァルツァー・リッター】、【フレスヴェルグ】の交戦の様子に目を遣り、星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)は呟いた。
 【シュヴァルツァー・リッター】がMVランスで有線ビットを切断していき、【フレスヴェルグ】がそれを援護するために銃剣付きビームアサルトライフルで弾幕を張っている。
 あとは、高威力のバスターライフルをモスキートに叩き込めるかだ。
『問題はこっちだ。あの衛星に有効な白兵武装を持っているのは、この【マモン】だが……』
 【アイビス・クルセイダー】も枳首蛇も、強力な白兵武装を持ち合わせていない。対エネルギーコーティングがあることを踏まえると、さらに実体兵装であった方がよい。
『引き続き援護します。その間に、衛星をお願いします』
 叶 白竜(よう・ぱいろん)が【枳首蛇】の照準を敵小隊に合わせた。シュヴァルツ・フリーゲII一機、シュメッターリンクII四機の最終防衛ラインである。
 【枳首蛇】が飛行形態から人型形態へと変形し、定位置からより正確な射撃が行えるよう態勢を整えた。
「ダリア、背中は俺がカバーする。行こう、凛」
「ここが正念場ですね」
 時禰 凜(ときね・りん)がコンソールを操作し、機動を行いながらの射撃が行えるよう、機体のバランス・反動調整を行う。
「ダリア、剣の損耗は?」
『問題ない。が、このままではあの反射板を落とすことは難しい』
 シールドの裏にいつもの二本の剣を収納。代わりに、智宏がまだ一度も目にしたことがない大剣が出てきた。形状は高機動プラヴァーのMVブレードに似ているが、広さが異なる両刃となっている。
「それは?」
『「四式」。【マモン】用のMVソードだ。エザキ局長が作った特製武装「十戒シリーズ」の一つ。……あまり使いたくはなかったが』
 対イコンではなく、対要塞を想定しての武装だという。
『このまま突破する。敵機は任せたぞ』
 【マモン】が大剣を両手で握り、メインスラスターを全開にした。淡い光を発し、飛んでいく。
 すぐに二機のシュメッターリンクIIが反応した。もう二機は、【枳首蛇】が足止めしている。
「智宏さん、いつ撃っても大丈夫です!」
「ありがとう、凛」
 凛が機体のスラスターを操作し、【アイビス・クルセイダー】が【マモン】に追従する。
「その機体色はな……」
 シュメッターリンクII二機に照準が合わさった。ロックオンの表示がモニターに映し出される。 宇宙に溶け込む濃緑、黒。それでも、装甲に走るオレンジだけがはっきりと色彩を放っている。
「……劇場で映像映えしない!!」
 左右の銃剣付きビームアサルトライフルのトリガーを引いた。二発のビーム弾が、それぞれのジェネレーターを撃ち抜いた。
 【マモン】の前には、最後の敵――シュヴァルツ・フリーゲIIが立ちはだかる。背部のウィングスラスターから黄色い光を放ち、ビームサーベルを振り抜こうとする。
『そこを、どけ!』
 【マモン】がすれ違いざまに、『四式』で敵の右腕をサーベルごと吹き飛ばした。バランスを崩した敵機だが、すぐにスラスターを噴かせて態勢を立て直し、ガトリングで背後から【マモン】を撃とうとした。
「させるか!」
「させませんよ!」
 【アイビス・クルセイダー】、【枳首蛇】がほぼ同時に射撃。翼状スラスターを破壊された機体はガトリングの反動を制御できず、狙いは外れた上に大気圏まで飛ばされた。
『これで、完了だ!』
 【マモン】が『四式』を振るい、反射板を衛星基部から切断する。衛星本体は後で大気圏に落として燃え尽きさせるという算段だ。その前に切り離した反射板を落とし、先に消失させる。
 これで、衛星αは無力化は完了だ。