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リアクション
・Chapter27
「……おかしいな、間違いなく首が飛んでたはずなんだけど」
牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は背後を振り返ることなく、コード:アンリミテッド――アンリと名乗った少年の刃を、首を傾けてかわした。髪が切れ、宙を舞う。
「なんでかなー? からだがかってにはんのうしちゃったみたーい」
正直な話、自分でもよく今のをかわせたなとは思う。
(まあ、人間の認識を自在に操るあの子に比べれば、はるかにマシですよね)
あの『灰色』は、こんなものではなかった。
「よくも……マイロードを! シーマ、務めを果たしなさい」
「出し惜しみしていられる相手ではないな」
ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)が叡智の聖霊を呼び寄せ、魔力を強化する。アルコリアとシーマが傷ついてても、すぐに完全回復が行えるように準備を整えた。
「出し惜しみしてる場合じゃないな」
シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)がオーバードライブを発動。
「だが、アルが相手をするまでもない。来い!」
プロボーク。アンリの注意をシーマに向けさせるものだ。法と秩序のレイピアを構え、アンリに連撃を叩きこもうとする。
だが、
「言ったでしょ? ボクには追いつけない」
レイピアによる攻撃を全て逆手に握ったダガーで弾き、シーマを蹴り飛ばそうとする。
「追いつけないのなら、止めればいい。アル!」
アンリの蹴りを盾で受け、そのまま地面に倒れるようにして抑え込む。
「追いつけないのは、速さだけじゃないよ?」
シーマが天井に吹き飛ばされた。
そのままアンリが回転。
アルコリアの二刀でのソニックブレードを弾いた。そこからダガーによる回転連撃が繰り出され、妖刀村正の刃二本ともにヒビが入ってしまう。
「……あれを全部受けきるとはね。ちょっとびっくり」
「あははー? なんでかな?」
が、無傷とはいかない。切り傷が彼女の上半身の至る所にできていた。
(アンリミテッド……無制限、パワーでもスピードでも、常にこちらの上をいくというわけですか)
だが、彼の力には一定の制約があるようだ。そうでなければ、それこそ光速を出して、容易く一瞬でアルコリアを斬り伏せていることだろう。
(おそらく、視認した対象の一段階上。複数いる場合はその中で最も強力な者の一段階上、ってところでしょうか。どちらにしても「追いつけない」ことに変わりはないですけど)
アンリとの距離を取る。
「マイロード!」
ナコトから完全回復を施してもらう。武器は直らないが、傷は完治した。
「面白いね、キミは。ここからはキミのパートナー抜きで、一対一でやらないかい? まあ、嫌って言うなら先に始末しちゃうけど」
「できると思ってるのか?」
ナコトが立ち上がる。
「できるよ?」
その直後、彼女の顎にダガーが突き付けられた。
「今すぐにでも、ね」
「させませんよ」
アルコリアが素に戻って、告げる。
「二人とも、下がって下さい」
自分の予測が正しければ、一対一で戦った方がまだやりやすい。自分より一段階上の強さを持った相手は、パートナーには荷が重いだろう。
「これでいーいー?」
「うん。どうにもボクは、キミに一目ぼれしちゃったみたいだ」
「おにーさんろりこん?」
「かもね」
面的には、五歳児と十三歳が向かい合っている形だ。それがまたこの空間に異様な雰囲気を漂わせている。
「ラズンちゃん、チャンスは一度ですよ」
(きゃははっ! やーっと面白くなったね。さぁさ、この狂った宴を楽しもうじゃないか)
魔鎧として纏っているラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)に呼び掛ける。
あの連撃を受ければ、間違いなく刃が折れる。だから、一発で決めるしかない。
「れっつぱーりぃ!」
クライハヴォック。叫びを上げ、チャージブレイクを行う。追いつけないなら、待てばいい。
アンリのダガーが、アルコリアを捉えた。
「おまえのみを、きりふせる!」
一刀両断。
その刃は、アンリのダガーによって砕け散った。それでも、刀を握った手は止まらない。
「折れた刃で、何をするんだい?」
「――こうするんですよ」
真空波。
刃があろうとなかろうと、関係ない。ここまで距離が詰まっていたからこそ、確実に当てることができる。
アンリのダガーがアルコリアの両腕を貫いた。真空波の直撃を受けた彼の身体が、アルコリアにのしかかる。
「はは、振られちゃったかな?」
「アルちゃん、せっかちなおとこのひとは、ちょっと……」
少年の身体から力が抜けた。
「マイロード! 今すぐ治療を!」
すぐにナコトが駆け寄り、アルコリアからダガーを引き抜き、回復を施した。
「あー、つかれた。アルちゃん、かえる」
アンリを倒したアルコリアは、来た道を引き返した。