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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

リアクション


・Chapter24


「こっちは僕たちが引き受けます!」
 端守 秋穂(はなもり・あいお)ユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)の駆るセレナイトは、ステルスモードを解除した、敵第二陣のシュヴァルツ・フリーゲIIと対峙した。
(秋穂ちゃん、他の隊の状況だけどー……)
 ユメミからの報告を精神感応で受け取る。
(モスキート・カスタムが、変形?)
 α、βの衛星破壊組は順調に進んでいるようだが、モスキート・カスタムと【ヴァイス・フリーゲ】との交戦はかなりの苦戦を強いられている、とのことだ。
(ならば、一刻も早くここを無力化しないと)
 厄介な強敵を引き受けてくれている間に。
 新式ビームサーベルを構え、【セレナイト】がシュヴァルツ・フリーゲIIに向かって突き進む。
 激突する二つの閃光。ビームサーベル同士の鍔迫り合いから、互いに距離を取った。
「そこ!」
 即座に新式アサルトライフルのトリガーを引き、シュヴァルツ・フリーゲIIの背後から飛び出してきたシュメッターリンクIIを撃つ。
(一対二、ですか。かなり厳しいけど……)
 やるしかない。
 他の部隊には、単機で小隊を圧倒できるようなパイロットもいる。こんなところで怖気づいてはいられない。
(秋穂ちゃん、ちょっと変則な機動取るよー)
(分かった)
 ユメミと息を合わせ、活路を見出そうとする。
 ユメミがスロットルを操作した。スラスターを噴射し、直線的にではなく大きく旋回し、敵機の背後に回り込もうというところだ。
「悪いけど、こっちも負けられない」
 マジックカノンに換装。物理に依らないエネルギーであるため宇宙でも使える。他の武装と違い、地上との射程距離も変わらないため、距離感を一番掴みやすい武器でもある。
 牽制しつつ、タイミングを見て、
(今!)
 ユメミが敵陣に向かい、一直線に機体を突っ込ませる。
 秋穂は武装を新式ビームサーベルに換装し、その加速のままシュヴァルツ・フリーゲIIを両断した。
 そこから続けざまに、シュメッターリンクIIへと手を伸ばし――斬り伏せた。
「やった……」
 だが、モスキートを含めまだ六機残っている。
 先行した、龍皇飛閃ウィンダムはモスキートを振り切ろうしているところだ。
 他の機体を行かせるわけにはいかない。
『待たせたな。敵の第一陣は撃破した』
 そこに、通信が入った。アリサ・ダリンからだ。【イザナギ】、【イザナミ】、【ヒポグリフ】が敵部隊を倒し、駆け付けたのである。
『さて、ここからだ。私たちの【イザナギ】と【イザナミ】で、モスキートを引き付ける。その間に、人工衛星に向かってくれ』
 小隊全員に対し、アリサが通信を送ってきた。
 最優先は衛星の破壊、それを忘れてはならない。

(シマック、厄介な有線ビットはこっちで始末するよ)
(ああ、了解だ)
 高崎 朋美(たかさき・ともみ)ウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)との精神感応で、イコンの操縦が不安定にならないようにして、機体を駆る。操縦が朋美、武器系統がシマックだ。
 モスキートに接近し、機体の有線ビット射出口に直接アサルトライフルを撃ち込んでいく。装甲自体は堅いが、マルチエネルギーシールドに対抗するには、実弾の方がいい。
(さすがに、一機で相手をするのは厳しいぜ)
 有線ビットが、【ウィンダム】を捕捉した。だが、敵の攻撃は機体に命中しなかった。
『援護します。すぐに辻永君たちが来ますから、今のうちに衛星へ」
 スーパーノヴァから、アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)の声が届いた。
(シマック、換装。コードを斬って離脱するよ)
 【ウィンダム】が新式ビームサーベルを抜き、有線ビットのコードを斬り裂いた。
『さて、まだハエ共が残っていますね。あれを一掃しましょう』
 ステルスモードを解除し、こちらに向かってビーム式のショットガンやガトリングを連射してくる敵機たち。その弾幕を越えれば、人工衛星だ。
(強行突破するしかねーか)
 【ウィンダム】は再びアサルトライフルに持ち替え、敵の弾幕に対抗する。ジェファルコンの機動力を生かし、現在の位置座標から見て上方へと移動。敵機から見て斜め上になる位置から弾幕を張った。
「邪魔しないで! でないと、落ちてもらうよ!?」
 基本的にコックピットではなく、武器を狙う。なお、あえて下方に向かって撃つようにしたのかといえば、実弾であるアサルトライフルがスペースデブリになるのを避けるためだ。ここから撃てば、外したとしても大気圏で燃え尽きる。
(モスキートの方は……大丈夫そうだね)
 レーダーを見て、先ほどまで朋美たちが相手をしていたモスキートと味方の戦闘状況を確かめた。全部ではないものの、有線ビットは潰してある。多少戦いやすくなっていれば幸いだ。

(マスター十時上方に陽動射撃を、続けて一時方向にいるハエを狙ってください)
 六連 すばる(むづら・すばる)の指示を受け、アルテッツァは大型ビームキャノンの引鉄を引いた。
 なかなか斜線に敵が並ぶという状況にはならないため、彼は念入りに計算を行った。
(続いて、レーザーライフルで十一時、二時、十二時の順に撃ってください。角度に関しては、任意で大丈夫です)
 シャープシューターで狙いを定める。直接敵の機体を狙っているわけではないが、ここで撃墜できればそれに越したことはない。
 【スーパーノヴァ】は全身に黒い塗装を施してある上に電子戦機なため、敵機に気づかれないように身を潜めるのには適している。後方支援機としてはかなり有用だ。
(今です、一時方向に大型ビームキャノンを撃ち込んで下さい!)
 即座にトリガーを引く。
 一本の光条が奔り、一列に並んだシュメッターリンクII二機とシュヴァルツ・フリーゲIIを撃ち抜いた。
「一機、残ってしまいましたか」
 シュヴァルツ・フリーゲIIは被弾したが、まだ戦闘が可能な状態だ。
「……ですが、これで残りは実質三機ですか」
 シュメッターリンクII一機、シュヴァルツ・フリーゲII二機だ。
「弾数も残り少なくなってきましたね。使用後の大型ビームキャノンは……試しに捨ててみましょうか?」
「……スバル、キミまでそのようなことを」
「……じょ、冗談です」
 とはいえ、弾数ゼロになっても若干エネルギーが残っているようであれば、ブルースロートの機能をうまく使えばそれを敵機に誤認させることができる。もっとも、咄嗟にやって成功するようなものでもないが。
 そして最前線では【龍皇飛閃】が、【スーパーノヴァ】の攻撃が被弾した機体以外の二機と、対峙していた。

「目的の人工衛星γは目の前だ。ここは、通らせてもらう!」
 【龍皇飛閃】のパイロットである松平 岩造(まつだいら・がんぞう)は斬龍刀を構え、シュメッターリンクIIに斬りかかる。機動力ではこちらに分があるため、先に倒しておこうという寸法だ。
「敵機の裏手からエネルギー反応あり。回避して下さい!」
 フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)がエネルギー反応を見て、岩造に指示を出した。シュメッターリンクIIを盾にして、シュヴァルツ・フリーゲIIが大型ビームサーベルを振り下ろそうとしていたのである。
 それをスラスターを噴射することで何とか回避する。そこから姿勢を戻し、間合いを取った。
 ここを抜けさえすれば人工衛星なのだが、前方の二機は完全に守りに入っている。なかなか厳しい状況だ。
(迷っている場合ではない。一点突破あるのみだ)
 相手はたった二機だ。ごり押しできない相手ではない。忘れるな、真に戦うべき相手は目の前にいるものではないということを。
 人型形態の【龍皇飛閃】には射撃兵装がない。逆に、接近できさえすればやりようはある。先ほどのような不意打ちに、二度も引っかかるつもりはない。
 再び斬龍刀を構え、突撃する。今度は、シュヴァルツ・フリーゲIIが前に出てきた。
 即座に換装。イコン用光条サーベルで、相手の攻撃を受けた。実体剣でエネルギー系の剣を受けようとすれば、すり抜けてしまう。ビーム対策が施されていれば別ではあるが。斬龍刀にはそれがない。
「この距離なら――!」
 相手のサーベルを片手で受け止め、すかさずもう一方の手でブラスターフィストを繰り出した。シュヴァルツ・フリーゲIIの装甲にヒビが入った。
 だが、そこで終わりではない。両手でイコン用光条サーベルを握り、シュヴァルツ・フリーゲIIを一刀両断した。
 その後ろで、シュメッターリンクIIがショットガンを構えて待ち伏せていた。
 そのため、両断したシュヴァルツ・フリーゲIIを敵機に向かって蹴り出し、目くらましをする。その上でスラスターを噴かせて敵の側面に回り込み、斬龍刀を突き立てた。
「敵は退けた。これより、衛星の破壊に移る」
 敵機を倒した岩造は、すぐに衛星へと飛んだ。報告によれば、衛星にはビームが効かないため、接近して威力の高い武器で攻撃しなければならないという。
 【龍皇飛閃】は雷皇剣を装備した。
『分かってると思うけど、衛星は徹底的に破壊するんじゃなく、反射板を先に壊した上で衛星を攻撃に利用されないようにして、それから軌道をずらして地球の引力に捉えさせるんだよ』
 朋美から通信が入った。スペースデブリを懸念し、大気圏での摩擦熱で消滅させるというのが衛星破壊の方針だ。人工衛星自体は古いためそれで消滅するだろうということだが、大気圏に落とすタイミングは管制の指示次第だ。万が一残骸が海ではなく陸地に落下したら不味いためである。
「了解した」
 衛星に到達した【龍皇飛閃】は、言われた通りに雷皇剣で反射板を衛星本体から切り離した。その上で反射板を地球に落とし、大気圏で消滅させる。
 あとは、衛星そのものをいつ落とすかの指示を待つだけだ。