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リアクション
エリュシオン帝国領の中に、ハーフフェアリー達が住まう村がある。
豊かな自然が溢れる盆地に、隠れ里のように存在していた。
村に降りる階段や道は一切なく、滑走路もない。
小型飛翔具や、有翼種や飛龍などを用いてしか、入れないようになっている。
その村は、第七龍騎士団の団長である、レスト・フレグアムが治めており、彼の邸宅が村を見守るように、存在していた。
そしてレストの邸宅の敷地内。
広い庭園の片隅に、彼女の墓はあった。
ユリアナ・シャバノフ。
彼を愛し、彼のために死んだ女性。
彼女の墓石は、まるで記念碑のようだった。
よく磨かれていて、周囲には沢山の花々が植えられていた。
(ユリアナ、安らかに眠れてる?)
心の中で語りかけながら、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は墓前に花束を供えた。
(皆は、よくしてくれてる? 今はもう辛くない?)
答えは返ってこないけれど――。
彼女の墓の周りを見れば分かる。
ここが大切にされているということが。
そっと目を閉じて、ルカルカはユリアナの安息を願う。
「……」
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)も、何も語らずに花を供える。
「ほらよ、花の他に酒ももってきたぜ」
「え!?」
カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)の言葉に、夏侯 淵(かこう・えん)が目を丸くする。
「いや、俺だってちゃんと考えてるぜ。日本酒や焼酎じゃなく、これこれ」
言って、カルキノスはシャンパンを瓶ごと墓前に供えた。
それからカルキノスはちょっと周りを見回して。
「いいところだな」
と呟いた。
ここにはビルもなく、アスファルトもなかった。
豊かな自然と、時折空を飛んでいるハーフフェアリー達の姿に心が和んでいく。
カルキノスは、自然や生物を慈しむ物、守るべき物と考えてる。
それが大地の守護者たる龍族の役目だと。
(この娘さんを、ユリアナを包んでやってくれ)
そして、大地に対して、密かにそう頼んだ。心の中で。
「んー、いいところだ」
訝しげな目でカルキノスを見ていた淵にも、彼のの気持ちが伝わったのか。表情を穏やかな笑みに変えると、共にユリアナの冥福を祈り始める。
それからもう一人。無言で花を手向ける者がいた。
先に目を開けたルカルカは、その人物――神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)が祈りを終えるまで、彼女とユリアナの墓を交互に見ながら、待っていた。
祈りを終えて、目を開くと、優子は淡い笑みを見せた。
ルカルカも微笑み返して、歩き出す。
空を飛ぶ鳥たちを、赤く染まりつつある木々を眺めながら、ルカルカは言う。
「いつか私もシャンバラの大地に還ると思ってる。この仕事をやってる以上、死は常に私の友人。大勢の死を人に与えてきたし、これからも多分与えていく私だもの、いずれ私にも与えられるのも当然ね」
「キミはシャンバラに還るのか。地球ではなく」
優子の問いに、ルカルカは「ええ」と答える。
「人は皆、死という唯一つの終焉に向かう存在だけど、その時が来るまでは精一杯生きようと思うわ」
それから、ルカルカは真っ直ぐな、真剣な目を見せた。
「できたらそれは戦場でありたい。その瞬間まで目を見開き終焉を見つめたいのよ」
ルカルカの言葉に、優子はふっと息を漏らした。
「シャンバラの軍人なんだな、キミは。いや、当たり前のことだが」
こくりと頷いた後は。
ルカルカは笑みを浮かべて。
「さ、前の時に回れなかった所、全部行こう。全部♪」
言って、優子やパートナー達の手をひっぱり、背を叩いて村へと誘う。
「って、ダリルなにそれ」
ルカルカが、ダリルの腕を掴もうとして、疑問の声を上げる。
彼の手には、金属製の手甲が着けられていた。
甲がきつく覆われており、満足に手を動かせないような状態だった。
「入村が許可されたと言っても、俺は剣。兵器種族だ。だから、これはケジメだ」
ダリルの種族は剣の花嫁である。
彼はこうすることで、自らの武器を取り出すことが出来ないようにしていた。
「住人を怯えさせたくないからな」
そんな彼の言葉に、ルカルカは良い傾向だと心の中で思う。
(ダリルが相手を自然に思いやるようになるなんてね)
「いや、私達の存在自体がおびえさせかねないけどな」
優子が苦笑した。
ここには、シャンバラのロイヤルガードの存在はそう知られてはいないようだが、それでも、龍騎士の屋敷を護る者達は、優子やルカルカ、そして今回彼女達と訪れた者達の活躍は知っているはずだ。
「そうそう、ルカが原因で帝国への入国が叶わなかった事もあったな。最終兵器の異名がある貴女はご遠慮下さいって話だった。お前も兵器だと認識されてるって事だよ」
そんなダリルの言葉に「本当か?」と優子がルカルカに目を向ける。
「そ、んなこともあったかもしれない」
目を逸らすルカルカの様子に、カルキノスが笑い声を上げる。
「神楽崎は帝国はもう何度目なんだ? 結構あちこち飛び回ってるイメージがあるんだがな」
そして、優子にそう問いかけた。
「正式に呼ばれたことはないからな。そう何度も来ていない。まあ、いろいろ飛び回っているのは、事実だけど。ちなみに、私は兵器とみなされたことはないぞ」
優子は悪戯気な目で笑う。
「もう……っ」
ルカルカはちょっと膨れた。
「まあ、星剣は兵器かもしれないけれど、使うことは殆どないからな」
優子の言葉に、後ろを歩いていた淵が一人の人物を思い出す。
「アレナ殿はどうしておられる? ご息災か?」
「空京で元気に過ごしているよ。特に変わりはないようだ」
振り向いてそう答えながらも、優子は僅かに複雑そうな表情をしていた。
「剣以外の生き方をするのも良かろうと思うが、運命はそれを許さぬだろうし、アレナ殿もまた、剣である事をいずれは選ぶだろうとも思うておる」
淵の言葉に、ダリルが頷く。
優子は軽く苦笑した。
(何かのキッカケで星弓は再び輝くだろうと)
淵はそう思うが……それは口には出さなかった。
「あっ、果樹園! 果物がいっぱい生ってる!! いこういこう♪」
ルカルカがぱっと笑顔を浮かべると、優子の手をぐいぐい引っ張る。
優子の笑みから、苦みが消えて。
村の雰囲気と同じような穏やかな笑みを浮かべ、周囲に溶け込んでいく。
安らぎを感じる世界に。
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