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第4章 生徒たちの選択

「朝斗、他の生徒たちから、信じられないような情報が入っているわ」
 ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)が、調査隊の代表である榊朝斗(さかき・あさと)にいった。
 潜水艦パーンチラス号は、現在、海京近海の海底を探索中であった。
 操舵室にいるルシェンの傍らでは、アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が、計器に油断なく目を光らせている。
「信じられないって、どういうの?」
「それが……海底を、車椅子に乗った男の人が移動していた、というのよ。目の錯覚かしらね」
 ルシェンの話を聞いた朝斗の脳裏に、記憶の底に埋まっていた何かが浮かんできた。
「それは……もしかして、海人さんかな?」
「ああ、そういえば」
 計器を覗きこんでいるアイビスも、うんうんとうなずいていた。
強化人間 海人(きょうかにんげん・かいと)? ああ、いたわね、そういう人。でも、いくら何でも、海底を車椅子に乗って移動するって、ありえなくないかしら? しかも、その車椅子を押している女の人がいたらしいんだけど……。やっぱり、幻覚かしらね?」
「いや、集団で、そこまではっきりした幻覚をみるなんていうのは考えにくいな。やっぱり、海人が姿を現して、何かをしているんだと考えた方がいいかもしれない」
「何かって、何を?」
 ルシェンの問いに、朝斗は首を傾げた。
「さあ……僕たちと同じように、海京アンダーグラウンドの調査をしている、のかなあ?」
 いいながら、朝斗も、海人が車椅子で海底を移動しているというのはちょっと無理があるような気がした。
 まだ浅瀬ではあったが、探査にはやはり潜水艦などが必要なのではないだろうか。
 もっとも、朝斗とて、海人のことを、そんなに知っているわけではなかったのだ。

「きれい。これが、海の底の景色ですね」
 山葉加夜(やまは・かや)は、海人の車椅子を押しながら、周囲の景色にうっとりと目を注いで、いった。
 海底であるから、ごつごつとした岩が多くて、車椅子を動かすのはなかなか難しかった。
 けれども、まだ浅瀬なので、陽光が届いていて、周囲の魚などの姿をきらびやかにみてとることができたので、気は楽だった。
「でも、すごいな。本当にボクたち、海底を移動しているの?」
 ノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)は、信じられないといった面持ちで、周囲の景色をきょろきょろみまわしていた。
 さっきは、潜水艦のようなものが自分たちの近くを通り過ぎていった。
 あの潜水艦は何を調査しているのだろうと、ノアは思った。
「ノア。一緒にきてくれたのは嬉しいんですが、海人さんの側を離れないで下さいね。こうしていられるのは、海人さんの力のおかげなのですから」
 加夜は、ノアをみつめていった。
「うん。わかってるよ。ちょっとでも離れたら、水圧に押しつぶされちゃうもんね。いや、怖いところにきたなあ。加夜、よく、海人さんがいるとわかったね」
「そうですね。事件のことが気になって海辺を歩いていたら、海人さんが海に入るところだったんですけど、もしかしたら、精神感応で何となく存在を感じていたのかもしれませんね」
 いって、加夜は微笑んだ。
「う、うう……ああ……」
 車椅子の上の海人は、虚ろな瞳で、ぼんやりと上方を見上げていた。
 その口からは、よだれが垂れている。
 海人は精神感応で話すことができるのだが、今回はまだ、そんなに話してこない。
 加夜は、海人が一連の事件の裏にある何かに勘づいて、海底の調査を始めたのだろうと思っていた。
 だから、協力したいと思ったのだ。
 海人は、その恐るべき超能力によって、大きな気泡をつくりだし、その気泡に包まれることで、海底でも息をして、移動することができていた。
 もちろん、普通の強化人間にそんなことができるはずはなく、海人だからできる芸当だった。
「それにしても海人さん、いままで、どうしていたんですか? 姿をみせないから、みんな、心配していたんですよ」
「……」
 加夜の問いにも、海人は答えない。
 これまでの行動もそうだが、海人の素性については、あまりに謎が多かった。
 学院の機密のひとつらしいが、実は、学院の上層部でも、海人について詳しいことを知っている人は少ないと聞いたことがある。
 コリマ校長は海人について重要な情報を知っているようだが、秘書にも、海人のファイルをみせることはないらしい。
「海人さん、本当にすごいよな。こんな海の底まできちゃうんだから」
 ノアが、何とはなしにそういったとき。
(僕は、海で生まれた。だから、海の中では、驚くほど力が高まるんだ)
 ふいに、海人の声が、ノアたちの脳裏に響いた。
「海人さん!? 記憶が戻ったんですか。海で生まれたって……」
(正確には、現在の僕は、海で生まれた。一部ではあるが、記憶が戻ってきたようだ。もちろん、詳細はまだ想い出せない。だが、僕は、海の底に入ったとき、ひどく安心した心地になって……どうしてなのか考えたときに、自分の由来に気づくことができたんだ)
 加夜たちは、海人の言葉を聞いて、わかるようで、余計に謎が深まるような気がした。
「海人さんはもともと、海辺の町の人だったんですか?」
(そうではない。そうではないんだ……僕は、もともと……荒野の……すまない。これ以上は、まだ自分でもわからない)
 そういって、海人の声はやんだ。

「も、もがもがもが!? ここはー!!」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)マグ・比良坂(まぐ・ひらさか)は、戸惑った。
 学院の校長室でコリマ校長室に詰め寄り、敗れてテレポートさせられた先は、巨大な海水のただ中であった。
 海の中、いや、底である。
 しゃべろうとする口の中に、おびただしい量の海水が侵入してくる。
 海底にテレポートさせるなんて、校長は、自分たちを殺すつもりなのか!?
 恐怖が、リカインの背筋をはしりぬけた。
 マグはといえば、もう失神してしまったようだ。
 身体中が、みしみしと鳴り始めた。
 水圧に、耐えられない。
 そのとき。
(安心しろ。近くに僕がいる)
 どこかから声がしたかと思うと、リカインとマグの身体が、大きな気泡に包まれた。
「ぷはー!! あっ、息ができる? 誰が助けてくれたのかしら?」
(君たちは、校長にしてやられたようだな。こんなところに送ってくるなんて、校長は、僕が海底にいることに気づいたようだ)
 海人は、精神感応で淡々と語りかけていた。
「誰だか知らないけど、あなた、海底を移動できるの? 校長は、あなたが私たちを助けてくれるだろうと予期していたのね。まったく、とんでもないスリルを味わわされたわ。なるほど、これが銃で人を脅した報い、か。マグ、少しやり方を考えなさいよ」
 リカインは、肺の中に詰まった海水を吐き出しながらいった。
 マグは、ぐったりと倒れ伏していて、呻き声をあげている。
(相棒のダメージがひどいようだ。僕が、海辺まで君たちを送り届けよう。この気泡は、実は伝統的な術でつくられていて、安定している。あの浦島太郎も、この気泡の術によって、竜宮城まで送られたのだ)
 海人はそういって、リカインとマグを気泡に包んだまま、サイコキネシスで移動させて、海京の海辺へと送っていった。
「やれやれ。しかし、生きた都市伝説のような人に助けられたわね。まあ、今回の分は借りとしてカウントしておくわ」
 気泡の中でマグを介抱しながら、リカインは肩をすくめたのである。

「お、おおおおおおお!! どうした? だんだん身体が、ひしゃげていくようだぞ!!」
 単身で潜っていた日比谷皐月(ひびや・さつき)もまた、立ち往生を始めていた。
 まだ、浅瀬のはずだが、それでも、巨大な水圧が皐月を押しつぶし始めている。
「ごめん。さすがに無理だわ。まさか、こんなところまで潜るなんて。もう引き返せないわね」
 魔鎧である翌桧卯月(あすなろ・うづき)も、苦しそうな声でいった。
「そ、そんな、ヒーローがここで死ぬのか!? こんな終わり方、俺がみたどの特撮番組にもなかったぞ!!」
 皐月が呻いたとき。
(日比谷皐月。こっちへ来るんだ。魔鎧を装着していても、これ以上の潜水は厳しい)
 精神感応で、海人が皐月に呼びかけてきた。
「おお!! やはり、ここで終わる番組はないよな。いま、いくぞ」
 皐月は、必死の想いで、海人たちの付近に泳いでいった。
 気泡の中に入り、ひと息つく。
「はあ。助かった」
 車椅子の海人に頭を下げる皐月の姿を、加夜とノアは、ぽかんと口を開けて見守っていた。
「自殺でもする気だったの?」
 ノアの質問に、皐月は首を振った。
「正義のためなら、死ぬことなど怖くはない。だが、まず、生徒たちが捕まっている場所をみつけて、壮絶な激戦が起きなければならない。その激戦の中で果てるなら本望、というわけだ」
「はあ」
 皐月の説明に、ノアは、わかったようなわからないような顔だ。
「海人さん。皐月さんたちも連れていくんですか?」
 加夜は、尋ねた。
(もちろんだ。彼の志に、僕は胸を打たれた。頼もしい仲間だと思う)
「おお!!」
 海人の言葉に、皐月は感激した。
「まあ、そうだろうな。俺たち抜きで行っても、殺されるのがオチだ。ここは、正義のため、団結しようではないか。実は、戦隊ものも悪くないと思っていたところだっ!!」
 熱く叫ぶ皐月。
「……海人さんて、優しい人なのね」
 魔鎧である卯月は、思わずそう呟いていた。

「ソナーに反応あり。海底に、巨大な建造物があります」
 パーンチラス号の操舵室に、アイビスの声がとどろいた。
「何だって!? 針路変更。謎の建造物へ。注意深く進むんだ。解析を」
 驚いた朝斗は、矢継ぎ早に指示を出した。
 海京アンダーグラウンド。
 やはり実在していたのか?
 生徒たちに、緊張がはしる。
「建造物から通信です!! 着艦するようにと!!」
 アイビスが、驚くべき情報を伝えてきた。
「着艦? どうする?」
 ルシェンが、朝斗をみた。
「外からみてたって、何もわからない。行くしかないだろう」
 朝斗はいった。
 コリマ校長の精神感応さえ受け付けない施設である。
 潜入しなければ、何もわからない。
 こうしている間にも、捕まった生徒たちの生命が危険にさらされているかもしれないのだ。
「了解。着艦させます」
 アイビスは、建造物の内部の者が指定するポイントに、パーンチラス号を着艦させた。
「気密、確保。向こうの中に移動できます」
 アイビスはてきぱきと、操作を終える。
「よし、いこう」
 朝斗は、号令を下した。
 パーンチラス号の生徒たち全員が、海底の建造物の中に移動を始めた。
「俺は、残ろう」
 ふいに、紫月唯斗(しづき・ゆいと)が足を止めて、いった。
「残る? 大丈夫なの?」
 朝斗は、不安げにいった。
「全員移動する方が不安じゃないか? 俺は、校長にも頼んで、潜水艦に乗っていないことにしてもらっている。もとより隠密行動が専門だ。ここに潜ませてもらう」
 唯斗は、もう決心を決めたようだ。
「わかった」
 朝斗は、うなずいた。

 そして。
「やあ、諸君。私は、諸君が海京アンダーグラウンドと呼ぶこの施設の、代表を務めている。名を、キイ・チークという。よろしくお願いいたしたい」
 パーンチラス号の生徒たちが講堂に集まったのを確認して、キイはいった。
「まず、このモニターをみたまえ」
 キイが示したモニターには、海中の様子が映し出された。
 アンダーグラウンドに着艦している、パーンチラス号の姿がみえた。
 ふいに、パーンチラス号が、施設から切り離されたのがみえた。
 そして。
 ちゅどーん!!
 爆発音とともに、パーンチラス号は解体され、海の藻屑と化していった!!
「な、なに!? 何をするんだ!!」
 朝斗は、思わずキイに詰め寄った。
「これで諸君は、帰る手段を失った。さあ、これからどうするか、決めてもらおう」
 キイは、冷たい口調でいった。
「やり方が汚いぞ!!」
 朝斗の叫びは、無視された。
「選択肢は3つだ。君たちは、まず、我々の研究の手伝いをしてもらうか、あるいは、君たち自身が実験台として監禁されるか、あるいは、海中に投棄されるか、だ。それぞれが決めてもらおう」
 キイの提案に、生徒たちはざわめいた。
 帰る手段はない。
 海中に投棄されたくなければ、キイのいう選択肢のどちらかを選ぶしかない。
 生徒たちの脳裏に、様々な思惑がはしった。
 ここで攻撃を仕掛けよう、と動こうとする生徒たちもいたが、朝斗は、目で、そうした動きを制止した。
 いまはまだ、攻めるときではない。
 捕まった生徒たちがどうなっているかもわからないのだ。
 朝斗の意向を汲んで、闘いを始めようとした生徒たちは、動きを止めた。
 さて。
 どうしようか?
「早く決めたまえ。でなければ、我々が君たちそれぞれの扱いを決めよう」
 女生徒の数を無意識のうちに数えながら、キイはいった。

「むう。だから、いわんこっちゃない。危うく死ぬところだった」
 アンダーグラウンド内部の廊下に身を潜ませて、唯斗は呻いていた。
 研究者たちがパーンチラス号を爆破するつもりだとわかった刹那、唯斗は動いていた。
 切り離される直前に、何とか施設に潜入することに成功したのだ。
 いよいよ、隠密行動も本番だ。
「しかし、広い施設だな。どう動くべきか」
 唯斗は、首を傾げた。
 まずは、探索しかあるまい。
 そう肚を決めて、唯斗は、足を踏み出した。
「やれやれ。ここが竜宮城のようなところなら、気も楽なのだが。犯罪者たちの巣窟、では、な」
 唯斗は、まったく気を抜けない心境だった。

「提案だが。被験体として、アニスを提供しよう」
 佐野和輝(さの・かずき)の言葉に、多くの生徒が驚いて声をあげた。
「本気なの? 自分のパートナーを実験に差し出すなんて」
 朝斗も、絶句していた。
「ああ。ただ手伝うといっても、信用してもらえるかどうかわからないのでな」
 和輝は、淡々とした口調でいった。
「はぁ。昔、こういうところにいたから、好きになれないんだけどなー。でも、和輝のためなら、アニス、いろいろされても構わない!!」
 {SFL0049572#アニス・パラス}は、ため息をつきながらも、うなずいて、キイの前にその身をさらした。
 キイは、無言のまま、和輝と視線を通わせる。
 和輝は、うなずいた。
(作戦どおりにいこう。これで、他の連中も俺にならう)
 和輝の目から、キイはそうしたメッセージをみてとった。
 キイもまたうなずいて、
「いいだろう。この女生徒をいじらせてもらう代わりに、滞在許可を出す」
 アニスの丸みをおびた身体を鑑賞しながら、キイは、和輝たちを自分の側に招いた。
「はあ。アニスは、奴隷、奴隷だよー」
 アニスは、能天気な声をあげながら、手枷をはめられ、拘束されていく。

「それでは、ワタシは、八雲を提供しようかな。ただし、ワタシが直接八雲を研究したいので、その点はよろしく」
 和輝に続いて、佐々木弥十郎(ささき・やじゅうろう)が、パートナーである佐々木八雲(ささき・やくも)を差し出してきた。
「弟がそういうなら、従おう」
 八雲は、そういった。
 その身体をしげしげと眺めていたキイが、いった。
「むう。男、か」
「あれぇ? 不満なのぉ?」
 キイの心中を察した弥十郎が、意地悪な口調でいった。
「いや。いいだろう。この者を直接お前が研究するというなら、了承だ」
 キイは、首を振って、そういった。
 確かに、八雲は、被験体として魅力的だった。
 キイたちとしても、女生徒ばかり実験しているわけにはいかないのである。
(うまくいったな。後は、精神操作のプログラムに、反乱因子を含めるよう工作していこうではないか)
 八雲は、弥十郎と、周辺の生徒たちに、精神感応で語りかけていた。

「それじゃ俺は、エヴァを提供しよう。喜べ、女の子だぞ。しかも、お前たちが研究しても構わない」
 今度は桐ヶ谷煉(きりがや・れん)が、エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)の身体を押し出して、いった。
「……」
 エヴァは、異様な不安を胸に秘めながら、唇を噛んで、ただ黙っている。
 もちろん、煉が後で救出してくれるとはわかっていたが、それまでに自分が何をされるかと思うと、気が狂いそうになってくるのである。
「おお!」
 キイは、エヴァをみて、感動したようだった。
 その視線がいやらしさに満ちているので、エヴァは辟易した。
 ……こいつら、もう科学者じゃなくなってるぜ!
「本当にこの子で実験していいのか? ちょっと、触って検分してみたいのだが。構わないか?」
 キイは、鼻息が荒くなりそうなのをこらえて、いった。
「ああ。構わない」
 煉がうなずいたのをみて、キイは、エヴァの胸に手を触れた。
「……!!」
 エヴァの目が大きく見開かれる。
 思わずキイを殴り倒しそうになるが、煉の目をみて、思いとどまった。
 ……ったく、こんな我慢大会、やってられないぜ!!
 内心ではそう思うが、捕まった生徒たちを救出しなければならないと思うと、こらえようという気になったのである。
 実際、他の女生徒もこんな目にあっているなら、早急に手を打たなければならないのだ。
「ほお。なかなかのものだ。わりと感じやすいのも気に入ったぞ」
 キイは、エヴァの胸をまさぐりながら、笑っていった。
 ……くうっ、うまい触り方しやがって!!
 エヴァは、声を出すのをこらえた。
 キイの触り方は、明らかに、女の胸をもてあそぶのに慣れた者の触り方だった。
 いったい、何人がこの施設で地獄をみているのか?
 想像するだに、エヴァは身の毛がよだつ思いであった。
 ……ううっ、なんで……感じやすいと……わかる……
 歯を食いしばって屈辱に耐えながら、キイはエヴァに肩を抱かれて、連れていかれるのだった。

「それじゃ、オレは、ここで、妹を研究してみたいんやけど。ちょっと壊れてる妹やけど、研究対象としては面白いやろうからな」
 瀬山裕輝(せやま・ひろき)がいった。
「何やそれ、研究ってー、何するつもりやー、アホちゃう?」
 傍らの瀬山慧奈(せやま・けいな)は、目を白黒させてわめいていた。
 キイは、そんな慧奈の姿をちらっとみて、
「むう。確かに、美しいが、壊れているようだ。カノンとはまた違った壊れ方だな。よし、ここで妹を研究してみるがいい。ただし、たまには私たちも扱わせてもらおう」
 キイの提案に、裕輝はうなずいた。
「それより、いま、カノンいうたな? もしかして、カノンもここにおるんか?」
 裕輝だけではない。
 周囲の生徒たちも、カノンの名を聞いて、ざわめきだしていた。
「そうだ。カノンは、私が直接扱う予定だ。うらやましいか?」
 キイは、冷酷な笑みを浮かべて、いった。
「うらやましいって、何、いうとるんや! しゃあない、こうなったら、慧奈にドリルつけて、攻撃させるさかいな」
 裕輝は、立腹していった。
「はあ? ドリルって、兄さん、どゆことやー?」
 慧奈は、首を傾げてみせた。
「真面目に、兵器として改造するか。それもよかろう」
 キイは笑って、立ち去っていった。
 真面目に、って、何や?
 裕輝は、研究者たちが既に、自分たちが意図していた軌道からも外れてきていることを敏感に感じ取っていた。