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リアクション
■ 夫婦でお月見 ■
ニルヴァーナで催される月冴祭の話を耳にして、山葉 加夜(やまは・かや)は山葉 涼司(やまは・りょうじ)を誘ってみることにした。
「ニルヴァーナで月見の行事があるそうですよ。お仕事が大丈夫そうなら行ってみませんか?」
風情とはあまり縁のない涼司は、月見か、と呟く。
「……そういうのは、あんまりしたことがないな」
「でしょう? この機会にどうですか? ……というか、行きたいです」
加夜にお願いとねだられて、涼司はそうだなと相好を崩した。
そして2人は連れだって月冴祭に出掛けた。
「涼司くんとお月見って初めてですよね。嬉しいです」
加夜にまともに見つめられて、涼司は幾分へどもどする。
「いや、まあ……たまには月見ってのも良いもんだな」
「小舟に乗ってお月見したり、竹林を歩いたりできるようですよ」
「お、舟で月見か。面白そうだな」
涼司が乗り気になったようなので、加夜は池のある方角へと向かう。
「池はこっちだったはずです。あ、ちょっと待っててくださいね」
舟を借りに行く前に加夜はたいむちゃんの所に寄って、餅を貰っていった。
小舟に乗り込むと、加夜はさっきもらってきた餅を取り出した。
「何だ? もう腹ごしらえか?」
「違いますよ。このお餅を分け合って食べると、永久に結ばれるといわれているそうなんです。素敵な伝説ですよね」
涼司らしいと笑いながら、加夜は餅を2つに分けた。
手を出して受け取ろうとする涼司に軽く首を振り、餅の1つを彼の口元に近づける。
「はい、あーん」
「えっ……あ、ああ……」
口を開けた涼司に餅を食べさせると、加夜はもう片方の餅を涼司に渡し、
「あーん」
と今度は自分が口を開けた。
その手のことが得手ではない涼司は、急いで餅を加夜の口に入れると、ぱっと手を引っ込めた。それだけで耳まで赤くなっている。
こういうところは結婚しても変わらずだと、加夜はそんな様子を好もしく見つめるのだった。
空に浮かぶ満月と、池に映る満月と。
2人で楽しむ2つの月。
「空の月も池に映る月も綺麗ですよね」
そう話しかけながら、加夜は涼司にそっと寄り添った。普段は人前で甘えるのを控えているのだけど、こんな時なら。
「今日は皆さん、月に夢中みたいなので……甘えても大丈夫ですよね?」
途端に照れて涼司は身を固くする。
もっと触れたいし、触れて欲しいのに、と加夜は甘えるように名を呼んだ。
「涼司くん……」
「う……」
加夜の見つめる視線に負けて、涼司はそっと顔を近づけ……。
頬に触れる優しい唇の感触に、加夜は微笑んだ。
きっとこれが、今ここで涼司の出来る精一杯なのだろう。
小舟の揺れを言い訳に、加夜はもう少しだけ涼司に身を寄せる。
冷たい秋風から護ってくれるような、涼司の体温を隣に熱く感じながら。
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