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月冴祭の夜 ~愛の意味、教えてください~

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月冴祭の夜 ~愛の意味、教えてください~

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 ■ 知りたいことは ■



 ニルヴァーナで月見が開催されると聞いて、杜守 柚(ともり・ゆず)はそう言えばと振り返る。
 地球に居た頃は、柚はよく月を見上げていた。
 けれどパラミタに来てからは、月を見上げる回数は少なくなっている。
 それはきっと……1人じゃないから、なのだろう。
 そんな自分の変化に後押しされるように、柚は高円寺 海(こうえんじ・かい)を月冴祭に誘ってみた。
「ニルヴァーナで月見?」
「はい。池に小舟を浮かべたり、竹林を散策したり出来るようになっているそうですよ」
「月見かぁ……まあ暇だし、行くか」
「ありがとうございます」
 海が行くと言ってくれたことが心から嬉しくて、柚は何度も頭を下げた。


 空京の南東にあるゴアドー島から、回廊を通ってニルヴァーナへ。創世学園近くに造られた月冴祭会場まで来ると、海は柚に尋ねた。
「で、どうする? 舟にでも乗るか?」
 池の畔の舟乗り場を指す海に、柚はそれよりも、と竹林のあるほうに目をやる。
「舟もいいですけど、竹林を歩いてみたいです」
「分かった。向こうだよな。行ってみよう」
 海は柚の意見を受け容れて、竹林がある方角へとすたすたと歩いていった。

 竹林の散策路には月の邪魔にならぬ程度に、小さな灯りがぽつぽつとともされている。ゆるやかにカーブしているので、道の先は見通せない。
「竹林と月って日本で見た景色なので、懐かしいですね……」
「そうか? オレはそんな風流な景色と無縁だったからなぁ」
 月なんてゆっくり見上げた覚えがない、と海は竹の間から漏れ見える月に目をやった。
「うちの近くには大きな竹林があったんですよ。夜、その場所を通った時、空を見上げると月がとても綺麗で……くしゅんっ」
 夜風の冷たさに、柚はくしゃみをした。
 一枚羽織ってくれば良かったかも知れないと考えながら見れば、海もかなり薄着だ。
(海くんは寒くないのかな? 寄り添ってたら温かくなるかな?)
 小径の狭さも手伝って、柚は海に寄り添った。
 自然と海の手を握る。
 海は振り払いはしなかったけれど、柚の手を握り返してくれることもなかった。

 海のことを知れば知るほど優しくて、面倒見が良くて、嫌がりながらも頼まれごとを受けたりしていて。不器用なところもあるけれど、そこに気遣いも含まれていて。
 そんな海のことが柚は好きだ。
 柚にとって初めての恋だから、どうしていいか分からないことも多い。
 一緒に居たいし知りたいと思うから、色々なところに誘っているけれど、自分は楽しいけれど海はどうなのか、と不安になるときもある。
 だらりと垂らされたままの海の手を握りしめているうちに、柚の口から知りたいと思っていたことが、自然とこぼれる。

「海くんは好きな人いますか?」
「へ、オレ? んー、ノーコメント」
 海はははっと笑って柚の質問を受け流した。

「えっと、その……」
 肩すかしにあった柚は、動揺を隠して月に目をやる。
「綺麗な月……ですね。一緒に見れて嬉しいです」
「いや別に、月見するぐらい構わないぜ。特に予定が入ってたわけでもないからな」
「それなら良かったです。来てくれてありがとう……」
 柚は自然な笑顔に戻ると、素直な気持ちを口にした。
「礼を言われるようなことしてないし。それよりここを抜けたら茶でも貰いに行こうぜ。結構風が冷たいから風邪引きそうだ」
「はい、そうしましょう」
 海がそう言い出したのは、さっき自分がくしゃみをしたからだろう。海の面倒見の良さを改めて思いながら、柚は頷いたのだった。