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リアクション
■ 小舟の告白 ■
「月うさぎの餅を1つ貰えるか」
「はい、どうぞー」
赤色のたいむちゃんが差し出してくれた餅を受け取り、シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)はふと考え直す。
伝説では1つの餅を分け合って食べるらしいが、金元 ななな(かねもと・ななな)のことだ。もう1つ食べたいと言いそうだ。
「悪いがもう1つ……いや、2、3個貰ってもいいかな」
「いいけど、そんなにたくさんの人と餅を分け合って食べたりしたら、後が怖いよ、きっと」
「そういうんじゃないから! 取り敢えず今回は、な」
貰った餅を手に、シャウラは池の畔へと向かった。
なななに月冴祭に一緒に行かないかと誘ったら、軽くOKしてくれた。
現地集合ということで、池の小舟乗り場近くで待ち合わせをしているのだが……なななは本当に来てくれるのだろうか。
小舟に乗り込むカップル、大船に乗り合わせる月見客を見るともなしに目の端に捉えながら、シャウラが待っていると。
「あ、ゼーさんだ」
シャウラを見付けたなななが、元気いっぱいにやってくる。
「こんなにお月様が大きく見えると、M76星雲がより近くに感じられるね。たっぷり電波を受け取れそうだよ!」
いつもに増してぴょこんと髪を跳ねさせたなななは、両腕を夜空に向けて広げ伸ばした。
そんな様子はとても可愛くて。
まるで月の光を一身に受けているかのように、シャウラの目にはなななだけが夜の中に浮かび上がって見える。
しばし見とれて返事を忘れていたシャウラは、
「どうかしたのかなー?」
なななに目の前で手を振られ、何でもないと笑って首を振った。
「わー、月がほんとに大きいねー。M76星雲もこんな風に大きく見えるといいのになー」
シャウラが漕ぐ小舟に乗ったなななは、ずっと空を見上げ、満月に感動している。
反対にシャウラは、月を見ることもせず、どこか思い詰めた様子だった。
「ゼーさん、もしかして食あたり? なんか変だよ」
気付いたなななに指摘され、うんまあ、とシャウラは答える。
「今日は一寸大切な話があってさ」
「大切な話? 宇宙怪獣のアジトでも見付けた?」
「いや、そういうんじゃなくて」
なななのペースに巻き込まれまいと、シャウラは深呼吸し、そしと思い切って切り出した。
「まぁ、ななな。俺たち、知り合ってもうすぐ1年だな」
「もうそんなになるのかな、早いね」
「ああ。俺はその間に、なななの色んな部分を見てきた。頑張って宇宙の平和を守ろうとしてる所とか、素直な所とか、可愛いアホ毛とかな。で……一緒にいるうちに、俺の中でなななの存在がどんどん大きくなったんだ。もっとなななを知りたくなって、気付いたらなななを好きになってた」
「へー、そうだったん……って、今サラッと何て言ったのっ?」
相づちをうちかけて、なななは仰天している。
「正直、俺には少し女ズキな所があるから、最初はそれかなって思いこもうとしてたんだけど、なななは特別だった」
驚いて、まだきょとんとしているなななに、シャウラは告げた。
「俺とつきあってほしいんだ! あ、念のために言うけど、売店に付き合ってくれとか、そういうんじゃないからな。なななにははっきり言った方が良いと思うから……俺と恋人になってほしい。そしてこれからも、一緒に平和を守らせてほしい」
これなら伝わるだろう、とシャウラはなななの反応をじっと待った。
しばらくの間、あわあわしていたなななだが、ようやくシャウラに告白されたことを呑み込んでくれたようだ。
「まさかそんなことをゼーさんが言い出すとは思ってなかった、けど……うーん……」
なななは唸った後、答える。
「気持ちは嬉しいんだけど、なななはなななだけを見てくれる人を彼氏にしたいな! だからごめんねっ!」
朗らかに断られてシャウラは慌てる。
「いや、確かに俺はこういう奴だからさ……他の女の人に多分一寸は、おっ、て思うとは思うけど、だけど特別に好きなのはなななだけだから。それは絶対だから。だから……どうか俺と付き合って下さい!」
「そう言われても……ゼーさんって、腕はたつけど女癖悪いんだよね」
なななはしばらく迷った後、じゃあ、と提案した。
「ななな、これまでゼーさんのこと、そういう目で見たことなかったから。お互いのことをもっとよく知るためにも友達から始めようよ!」
それ以上の返事は出来ないというなななに、シャウラも仕方がないと諦める。
「なら友達として、月うさぎの餅、食わないか? 沢山もらっといたんだぜ」
「うんいいよ、半分こにするんだよね? ――いっただきまーす!」
なななはぱくっと餅を食べる。
まあ、こういうのがななならしいのかと、シャウラも半分にした片方の餅にかぶりついたのだった。