|
|
リアクション
■ ぬくもりと想いを確かめて ■
「お月見に来て貰って、ほんとに良かったのかなぁ……」
ニルヴァーナの月冴祭会場に入る前に、桐生 円(きりゅう・まどか)はパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)の顔を見上げた。
一緒にお月見したいと思って誘ったのだが、パッフェルには月見の習慣が無いという。一緒に来て貰って良かったのかどうか、と心配になったのだ。
「……構わな……い。月を見……る楽しみ方、は分からない……けど、円とな……ら見た、い……」
「ほんと? それならいいけど、もしちょっとでも嫌だったら言ってね」
「……大丈夫。円と一緒……だから」
そう言って貰えることが嬉しくて、円はパッフェルと腕を組んだ。
「ボクもパッフェルと一緒ならどこでも楽しいよー」
もしかしたら他の人の目には、円がパッフェルにぶら下がっているように見えるかも知れないけれど、そんなことは気にしない。
仲良く腕を組んで、円はパッフェルと一緒に月冴祭を見て回った。
月を見上げたり、たいむちゃんからお餅をもらったり。
基本的に、円が行きたいところに行き、パッフェルがそれについてくる形だ。
さて次はどこに行こうかと円が考えていると。
「もしお邪魔じゃなかったら、“愛してる”ってどんな意味なのか、教えてもらえませんかぁ?」
ふわふわした髪の子供が尋ねてきた。
くるくるとよく動く大きな瞳には、真摯な光がある。
「愛してる、かー」
円はちょっと考えたが、一言で説明するのは難しい。
「ぱっと答えられるものじゃないから、よかったらどっか座れるところ探して、ゆっくりお話しようよ」
そう誘ってみると子供は、お願いしますと頭を下げた。
東屋の1つに腰を落ち着けると、円は改めて愛のとらえ方について考えた。
「愛ってなんだろうねー。言葉にしようとすると難しいなぁ。好きと愛はどう違うんだろー」
うまく言葉にすることは出来ないけれど、自分がパッフェルに愛されているのはよく分かる。
「どうしてよく分かるんですかぁ?」
聞き返したニル子に、円はパッフェルの腕に頭を寄せて答える。
「パッフェルはね、ボクそのままを受け入れてくれるんだー。今のボクそのままでいい、ありのままの円と何時も言ってくれる。それがとても幸せなんだー。パッフェル、いつもありがとう」
「……ううん、わたし……の方こそ、いつもありが……とう」
嬉しそうに答えてくれたパッフェルに、円はキスをした。
「でも結局、ボクって自分に自信が無くて。もっとパッフェルに好かれたいって、変な努力しちゃう。そこは空回りしちゃってるかも」
こんなにパッフェルが自分を好きでいてくれるのに、と円は反省する。
「ボクの愛って何なんだろう。パッフェルに幸せになって欲しい、幸せにしたい。そんな気持ちや行動なのかな? それに、パッフェルのことをボク自身より大切だと想ってる。それは恋人として当たり前のことだろうし……うむむ、難しい」
自分の心のことさえ、よく分からない。
愛してるという気持ちはあるのに、それがどんなものなのかさえ、はっきりと捉えられずに円は唸る。
「でも、ボクもパッフェルの全部が好きかも。あ……ただ、眼帯、魔眼の件は急かしちゃってることになってないか、ちょっと心配なんだけど」
「……ううん、円が心配……してくれてること、わたし……よく分かって、る……」
パッフェルの返事に円は良かったぁ、と安心し、そして聞いてみたくなった。
「ね、ね、パッフェルは愛についてどう思ってるー?」
パッフェルは少しだけ考えると、一層円と寄り添う。
「……それは……円と、こうやって……くっついて、お互いのぬくもり……を、想いを確かめ合……うことだと、思う……」
最後に、
「たぶん、正解なんて無いと思うし、焦らず、考えればいいと思うよ」
とニル子に去り際に言うと、円はパッフェルの腕に掴まりながら竹林を歩いた。
こうしているだけで幸せを感じる。そういう愛を、いつかニル子も見付ける日が来るのだろうか。
「そういえばさ、どんなサバゲーショップをパッフェル作りたい? ボクも経理の勉強とかしたほうがいいのかなぁ?」
それは質問であり、また、パッフェルの夢を解ったよというメッセージでもある。
「……銃の種類、弾やホルスター……といったオプション、どれもラインナップ……が充実していて、射撃訓練場……やサバゲーをする、裏山……も欲しい。うん……円は……経理をやって欲しい、かな……」
夢を語るパッフェルの中に、しっかりと円の場所がある。
「だね。ボク、頑張るよー」
夢を叶えようとする間も、叶った後も、ずっと2人寄り添うように努力していこう。
それもきっと、円とパッフェルの愛の表し方の1つなのだろうから――。