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リアクション
24−3
ステージの中央では、童話の中のお姫様をイメージした衣装を身に着けた『【M】シリウス』ミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)が踊っていた。バックでは、同じ童話の登場人物やデスティニーランドのキャラクター達がクリスマスソングに合わせ、ミルザムの踊りを盛り上げている。ステージ前にはカップルや友人同士から家族連れまで、沢山の人が集まっていた。
今回のステージは彼女のクリスマスの視察に合わせ、プロデューサーであるシルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)が企画して期間に余裕を持って準備し、実現したものだった。
人々や子供達に夢や希望を与えるステージならミルザムも喜ぶだろうし、都知事であり名うての踊り子でもある彼女が参加すれば話題性も大きい。
何より――舞台で踊っている時間が、ミルザムにとって一番のびのび出来る時間だろうから。
シルヴィオは、ミルザムに好きな踊りで羽を伸ばしてもらいたかった。
(良かった……ミルザム様、本当に楽しそうです)
キャラクターやダンサー達と生命力に溢れた踊りを披露する彼女を、シルヴィオはステージ下の端の方で温かく見守った。
「本当に素晴らしいステージでした」
舞台を終えて控え室に戻ってきたミルザムを称え、シルヴィオはタオルとスポーツドリンクを渡す。それを受け取ると、彼女は微笑んだ。
「ありがとうございます。シルヴィオさんも今日まで細かな手配や準備をしていただいて、とても感謝しています。おかげさまで、思い切り踊ることが出来ました」
「楽しんでいただけたなら、俺も嬉しいです。今日は所用で来られなかったのですが、アイシスが差し入れを作ってくれました。一緒にどうですか?」
「そうですね、いただきます」
控え室のテーブルについて、ランチボックスを広げる。
「あちらは開拓も進み、パラミタや地球から来た人々で賑わっていますよ」
昼食を摂りながら、シルヴィオはニルヴァーナの情勢についてミルザムに話した。政治家としての彼女は、地球とパラミタ、ニルヴァーナの状況に興味を持っている。活動中の地球はもとよりパラミタには今日こうして訪れているが、ニルヴァーナに行く機会はまだ多いとは言えない。
「……そうですか。それは喜ばしいことですね」
「……そして、年が明けてそう経たずに、ひとつの決着を見る事になるでしょう。……ですが、それは新たな始まりでもあります。取り組むべき事も、より増える筈です」
そうなれば、自分も出来る限りの事をしていく所存ですとシルヴィオは言う。
「ひとつの決着と新たな始まり……。東京から支援できることはそう多くないと思いますが、何かあれば言ってくださいね」
「ミルザム様」
話すミルザムは、既に踊り子ではなく知事の顔になっていた。どこまでも真摯な彼女を、シルヴィオは食事の手を止めて正面から見つめる。
「まだ先の話ですが……ミルザム様は都知事の任期を終えた後、どうされるかお考えになった事はありますか?」
「…………」
質問を受け、ミルザムは少しの間、何かを探すように思考する。それから、静かに首を振った。
「いえ。今は日々の仕事に取り組むのに夢中で、任期後のことまでは……」
「……今と変わらず世情をお考えなら、地球やニルヴァーナの各地を踊りながら巡るというのは如何でしょう? 貴女の踊りは、人々に生きる力と希望を与える事が出来ますから」
それは、シルヴィオの夢でもあった。彼女が自由に、何物にも捉われずに誰かの為に好きな踊りが出来るように。
「……踊り子として世界を回る……。それも、楽しそうですね」
女王候補となる前のことを思い出したのか、ミルザムはどこか懐かしげな目をして笑った。
「ええ。それが実現出来る未来にしたいものです」
言いながら、シルヴィオは立ち上がって衣装のままのミルザムの肩に真っ白いショールをふわりと掛けた。
「クリスマスプレゼントです」
驚いた顔で振り返る彼女に、微笑みかける。
「貴女には白が似合う。……そして、新雪の如き道程を」
何色にもなれる色であるこの“白”を、ミルザム自身の色で染め上げていけるようにとの願いも込めて彼は言った。
「……ありがとうございます」
その思いが伝わったのかは分からない。だが、ショールの先をそっと摘んで軽く目を閉じたミルザムからは、公人ではない本来の彼女の顔が、垣間見えた気がした。
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