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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~
四季の彩り・冬~X’mas遊戯~ 四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

リアクション

 24−5−2

「ピギャーーーーーッッッ!!!」
 ――草木も眠らない真っ昼間。お化け屋敷には常にうらめしい悪霊の声とこの世ならざる異形と胆を潰す仕掛けの気配、そして、確実なる暗闇が存在していた。
「暗いの嫌っ! 暗いの嫌っ! 暗いのイヤーーーーッッッ!!??」
 その中で、は入口から出口までを突き抜けるような悲鳴を上げてパニクっていた。理由は兎角置いておいて、彼女は完膚無きまでの立派な暗所恐怖症だ。それを治す為、ノートはアーデルハイトに協力してもらえるように根回し交渉していたのだ。
 そう、これはデートでも何でもない、きゃっきゃうふふの要素などどこにもない、強制特訓の荒療治に他ならなかった。いい加減、望の暗所恐怖症を克服させる必要がある。
 ――大ババ様が隣にいれば、多少は見栄とか意地とか出すでしょう、多分。
 ノートはそう思ったのだが、あまり効果はなかったらしい。
「こんなこともあろうかと」
 悲鳴で幽霊達の声が吹き飛んだ屋敷の中でアーデルハイトは耳栓を取り出し――きゅぽきゅぽと耳に装備した。

「く、暗いようセラお姉ちゃん……」
「大丈夫ですよマリー、みんな一緒ですから。それに、よく見るとそこまで暗くはないですよ」
 暗所が苦手なマリオンにぴたりとくっつかれ、セラは彼女をよしよしと宥める。実際、お化け屋敷は真の暗闇というわけではなく、周りのセットの淡い光や小さな非常灯で最低限の視野は確保されている。お化けの姿が見えなければ本末転倒だからだ。
 まあ、中は入り組んでいて、見えるのはせいぜい数メートル先までだったりするのだが。
「そうだよ! あ、暗いのが怖いなら明るくすれば大丈夫だよね!」
 2人の話を聞いたピノが携帯にぶら下がっていた小さな懐中電灯を使って周りを照らす。
 ……本当に、本末転倒である。
 加えて言うと、一緒に携帯に下がったピノ人形がぶらんっとして諒が色んな意味でどきっとした。だが、マリオンは光に少し安心したようだ。
「あ、これなら大丈夫かも……」
「せっかくですからお化け屋敷を楽しみましょう」
「う、うん、でも……」
『イヤーーーーーーーッ!! ギャーーーーーーッ!!』 
 前の方からは耳を劈くような悲鳴が絶え間なく聞こえてきて。よく見ると、そこら中に透け透けシースルーのリアルゴーストが漂っていて。何となく懐中電灯に迷惑そうな顔をしていて。
「や、やっぱり怖いよう……」
 マリオンはますますセラにくっついた。アクアも悲鳴の度にびくうっ、としていて、徐々にロボットのような動きになっている。
(な、なんなんですかなんでこんなのがゆうえんちでにんきなんですかなんでこんなしせつがそんざいしてるんですか!!!)
 平静を装おうと頑張ってみるがそれにも限界というものがある。本当は大騒ぎしたくて走り出したくて開放されたくて、この道はどこまで続いているのだろうと頭の中はそればかりで。
(でも、あの声は何処かで聞いた事があるような……)

「あ……あ……あ……?」
 その頃、望は暗闇に瞳孔を開きまくり長い髪を乱して小刻みに震えていた。和服である事も合わせて下から光を当てれば立派なホラーとなりそうな出で立ちだ。そこに、顎先から突然光が差し込み――
「ギャアッ!?」
「嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼っ!?」
 望とアクアは同時に悲鳴を上げて仰け反った。アクアは8割方失神した。壁を背にして崩れ落ちる。口から泡が出ている気がする。
「あ、アクアさん! だだだ、大丈夫?」
 ファーシーはアクアの傍にしゃがみ込んで自身も機晶石をばくばくさせて、目の飛び出た(ように見えた)お化けを見直す。それから、ほっ、と息を吐いた。
「なんだ、望さんじゃない」
「! あ、アクア様! ファーシー様! いい所に!! た、助けてくださいっ!」
 望はアクアとファーシーに無我夢中で抱きついた。もっとも、アクアは望を助けるどころではなかったのだが。
「ど、どうしたの? この先に出てくるお化けがスゴいの?」
「そうではなく、望は暗所恐怖症なんじゃ。ここに入ってから……いや、入る前からこんな状態じゃよ」
「お、お嬢様が……お嬢様が……」
 耳栓を外したアーデルハイトが苦笑して言い、望は恐怖で目を潤ませてうわ言のように訴える。
「? 望ちゃん、暗いのが怖いの? じゃあ、はい」
 ピノが懐中電灯の光を望の近くに持っていく。尋常ではない彼女の状態を心配したのか、光度を強めた。櫛を出して、乱れた望の髪を梳かしてみる。
「ぴ、ピノ様……! ら、ラス様、良い妹君をお持ちで……」
「い、いや、てゆーか、だな……」
 望は諸手を挙げる勢いで喜び、人心地ついて全身に張り詰めていた力を抜く。だが、ラスはお化け屋敷の雇われゴースト達に超接近されてメンチを切られて冷や汗をかきまくっていた。“兄貴ならあの娘なんとかしろや〜”とか“俺らの立場が……”とか“マナー違反ですよ〜”とか、恨めしさ満載で迫ってくる。本人を脅すことも試みたがほぼ効果が無かったらしい。
「ぴ、ピノ! その懐中電灯切れ! 早く! もう速攻で切れ!」
「えーーー? でも……」
「ら、ラス様……!? そ、それだけはやめてください……!!」
「知るか! 俺だって自分の身がかわいいんだよ!」
 ラスはゴースト達をすり抜け、ピノに近付いて携帯を取り上げてスイッチを切った。ゴースト達が満足した顔で消えていく。下手したら成仏したのではなかろうか。「あー……」とか近くでマリオンの心許ない声も聞こえたが知ったこっちゃない。
「わ、私の命綱が……!!」
「命綱もなにも、あと最低でも10周はしますから関係ないですわよ」
 悲鳴を上げる望に、ノートが容赦の無い声を浴びせる。その彼女に、望はファーシー達にがっちりと抱きついたまま涙目を向けた。
「頭の隅々まで筋肉なヴァカキリーが! 折角のクリスマス・イブだというのに! 酷いいぢめをっ!?」
「……?」
 耳元の望の叫びを聞いて、アクアが正気を取り戻した。ゆるゆると周囲を見回し、ゴースト達の姿が無いのに安心する。
(夢でも見ていたのでしょうか……)
 現況を把握しきれていないアクアの頭上では、ノートが望を見下ろしていて。
「何を言ってますの。これから先、調査とかの度に足手纏いになられても困るんですのよ」
「ヒィッ!?」
 呆れた表情のノートに再び首根っこを掴まれ、望はひきつけになったような声を出した。
「…………」
 そんな2人を無言で見詰めていたアクアは、ぼーっとしたままノートに声を掛けた。遊園地に来る前のファーシーの言葉を思い出す。
「ところで、明日ヒラニプラの工房でクリスマスパーティーがあるのですが……どうですか?」
「パーティーですか?」
 ノートは望の強制連行を中断し、長く考えることもなくアクアに言った。
「では、望と一緒に参加させていただきますわね」
 そして、そのまま暗闇の中に消えていった。そう間も無く、奥の方から望の叫びが音波となって彼女達の耳に届く。
「イーーーーーーーヤーーーーーーーッッ!?」
 ――その後、女の悲鳴が聞こえるという噂が噂を呼び、お化け屋敷はまた、新たな客を大量に集めることができたらしい。

 ――う〜ら〜め〜し〜……
「きゃあ!」
 頭に三角の布を着けて真っ白な着物を身に纏った幽霊が、不意に目の前に飛び出してくる。それと同時に、月夜刀真に抱きついた。
「……!」
 ぴったりと密着されて、刀真は男として心臓が跳ねた。幽霊には1ミリも動揺しないが。
 本気で怖がっているわけではないのか、月夜の声はどこか楽しそうだ。先程まで聞こえていた女性の悲鳴にも、『何があるんだろうね』とわくわくした様子だった。暗くてよく見えないせいか、触れている月夜の肌がやけに柔らかく感じる。男にはない、女子特有の柔らかさだ。
「…………」
 そっと、彼女を見下ろしてみる。漆黒の髪からは、何か甘い匂いがして。
 それだけで何だか平静ではいられなくなって、どきどきしながら、刀真は歩いた。
 やがて、お化け屋敷の出口が見えてくる。外に出ると昼の光が殊更に眩しく感じて、特にプレッシャーなど感じていなかった筈なのに、不思議な開放感に包まれる。と同時に、抱きついていた月夜が離れ、少し残念な気持ちもした。
「次はあれに乗ろう! 刀真」
 月夜は先に歩き出しながら、遊園地の中でも目立つ巨大なコースターを指差した。
「あっちでもいいけど」
 とうきうきした笑顔で示すアトラクションからも、黄色い悲鳴が発生しては消えていく。絶叫マシーンだ。
(月夜は絶叫系が好きだったのか……)
 初めて知る彼女の一面だった。いつも一緒にいるから、何でも知っているつもりだったけれど。
「……まだまだ知らない事があるんだな」
 小さく呟き、月夜に追いつき彼女の手を取る。
「はぐれたらいけないからな」
 驚いたような目と視線を合わせて、今度ははっきりと言う。人の多さを面倒と思うこともあるけれど、このクリスマスばかりは、混雑ぶりに感謝した。

(や、やっと出られました……)
 出口に辿り着いて外に出て、アクアは地獄からの生還を果たしたような心境で力を抜いた。お化け屋敷に居た短時間の間に、エネルギーの半分以上を消費したような気がする。皆の後に続いてその場を離れながらも、彼女は振り返って屋敷入口に並ぶ人々に目を向ける。苦手な理由が自分とは違うとはいえ、まだ何度もあの中に入らなければいけないとは流石に望に同情の念を抱いてしまう。
 そこで、セラが話し掛けてくる。
「アクアさんはお化け屋敷が苦手なんですね」
「……! ち、違います私は体の透けた者に少しばかり拒否感があるだけで、メイクをしただけのお化けなら何ともないんですよ! あちらは偶々、本物が混じっていたから……」
「でも、楽しそうでしたね」
「……え?」
 結局のところ全く否定出来ていないアクアに、セラはにこやかな笑みを向ける。
「今日はルイが居なくてテンションダウンする事なく楽しめると思いますし、実際、楽しそうに見えましたよ?」
「…………」
 その言葉に、アクアは無意識に瞬きを繰り返す。そのままの表情でセラと顔を合わせること数秒、彼女はやや視線を落として沈黙した。お化け屋敷の中では只管に必死で、途中からは自分を繕う余裕も無く恐怖を露わにしてしまっていた。全く意識していなかったけれど、アレが“楽しい”という事なのだろうか。
 誰かに素の自分を見せても良いと思える。いつの間にか素の自分を見せてしまっている。
 仮に、それが“楽しい”のだというのなら。
「……そうですね、楽しかったです」
 ぽそり、と彼女は言う。ちなみに、『ルイが居なくて〜』のくだりは思考するまでもなく受け入れていたので思考範囲外である。
「……本当に?」
 セラは心の中を見透かすような瞳で見つめてくる。一瞬怯みながらも、アクアは頷いた。その反応にセラは息を吐き、これは前途多難だと思いながらもふ、と思いついた事を訊いてみる。
「アクアさんはこれまでに、“寂しい”と思った事はありますか?」
「“寂しい”ですか? ……いえ」
 その質問には、そう時間を要することもなく答えが返ってきた。思考する必要も無いというように。その上で、1つの事実に気付いたかのように。
「ありません。私はきっと……誰が近くに居なくとも寂しいとは思いません。たとえ、この場にファーシーが居なかったとしても……同じです」
 自分は何とも思わずに、目の前に居る誰かに応じているだろう。或いは、1人で黙々と時を過ごしているだろう。確証はないが、そんな気がする。
 そう考えてしまう自分自身に、少しばかりの寂しさは感じてしまうけれど。
 恐らく、結果は変わらないだろう。誰が傍に居なくても、アクアはそれを意識すらせずに『受け入れて』しまう。それは、誰かが傍に居る時に感じる事とは、また別の話だ。
「…………」
 目を伏せて黙ってしまったアクアから、セラは暫く目を逸らさずにいた。そして、もう一度そっと息を吐く。
 ――どちらにしろ、やっぱりこれは前途多難ですね――
 心の壁が並大抵ではない。加えて、アクアがルイを見ると脱力するのは事実なようで。
「……そうそう、明日はプレゼントとかは用意するんですか? ルイも出席する訳ですが」
「……!? そ、そんなものは用意しません!」
 即座に力強い声で否定されて、セラは苦笑する。
「成程、そうですか……だそうですよ?」
 それから、実際には誰も居ない方に向かって伝えるように、付け加えた。「……? !?」と戸惑い驚くアクアの様子の意味を考えながら、皆に続く。
「ファーシーさん、次はどこへ行くんですか?」
「次? そうねー……あ、でも、その前にレンさんに連絡しなきゃ。ノアさんは見つかったのかな?」

              ◇◇◇◇◇◇

 その少し前、暗闇で望が叫び声を上げていた頃。リネン、フリューネと遊んでいたノアは、人混みの中に一際目立つ存在を見つけてぱっ、と表情を明るくした。
「あ! フリューネさん、レンさんですっ! あそこにレンさんがいますっっ!」
「? いるってどこに……え、あれなの?」
「はいっ、あれですっ!」
 ノアの視線の先では、赤ん坊を抱いた熊っぽい着ぐるみが小学生位の子供達に囲まれていた。彼等に合わせて身を屈めていた中の人が銀髪の頭を上げる。中の人は、サングラスを掛けていた。
「……ああ、あれね」
「もう見間違いようがないですっ! あれですっ!」
「ちょっと、2人とも……そろそろ名前で呼んでもいいんじゃ……」
 リネンの突っ込みが聞こえているのかいないのか、ノアとフリューネはあれ――レンに近付いていく。着ぐるみが子守をしているという光景に興味があるのか、子供達は背伸びをしてあれやこれやと話しかけている。頭を被っていた時は不評だった熊も全く警戒された様子がなく、少し困りながらも、レンもまんざらでもないようだ。
「うーん……くま公はなんかほかにもこどもがいっぱいおってうちとあそんでくれないわー」
 その状態を、バシュモは腰に両手を当ててしかめ面で見上げていた。
「みんなこどもやなー……うちをみならってもっとえんりょせんとあかんわー」
 子供達を見回して物足りなさそうに、でも胸を張ってそんな事を言って。
「……とみせかけてのひっさつ『せくちー☆だいなまいつ』!!」
 前触れなくジャンプして着ぐるみにどーんとくっついた。
「……ふぇ」
 そこで、子供達にきゃっきゃと笑顔を見せていたイディアがふとぐずり、小さく身をよじらせる。「ふぇ、ふぇ」と何かを訴えるような目をレンに向ける。着ぐるみに貼り付いたまま、バシュモは「!」と固まった。
「せくちーすぎてなきだした!? ? なんかもわっとするわー……」
「……ん、これは……例の時間だな」
「レンさんレンさんレンさんっっ! やっと会えましたーっ! ……って、あれイディアちゃんどうしたんですか?」
 ノアが駆け寄るようにやってきて、レンは彼女の後から歩いてくるフリューネとリネンにも気が付いた。フリューネに対して彼は挨拶代わりに軽く微笑む。それから、ノアに目を戻した。
「ノア、ちょっと背中の荷物から紙おむつを取ってくれ。交換してくる」
「……あ、成程……分かりました」
「後、バシュモを取ってくるとありがたいな」
 そして身軽になると、レンはおむつ片手に洗面所の方へと足を向けた。その途中で振り返り、近くのテーブルを示してノアに言う。
「ノアは、皆とそこで待っていてくれ。すぐに戻るからお茶でもしよう」
 フリューネが遊園地に来ているとは思っていなくて、せっかく逢えたのだからほんの少しの間でも話をしたい。
「あ、じゃあ私……何か飲み物、買ってくるわね」
 それを聞いて、リネンが売店へと歩き出した。
 フリューネは腕を組んで「…………」とレンの背中を見つめていたが、やがて彼の後を追っていった。そして、バシュモと2人きりになったノアはまた迷いそうな気になって――
「このテーブルで良いんですねっ!? もう、ここから絶対に動きませんからねっ!」
 デッキチェアーに座って、涙目で言った。

「そんなものを着てる割には、上手いわね」
 レンが専用の交換台で無事におむつを替えると、後ろからフリューネが声を掛けてきた。どこからツッコめばいいのか分からないのだろうか何やら複雑そうだ。
「手馴れてるというか。まさか、アンタの子供?」
「……お前以外と子供を作るわけがないだろ」
 思ったままに答えてからフリューネの方を見ると、彼女は束の間瞬きを忘れたかのようなをしてから呆れた目で息を吐いた。
「……何言ってるの」
 女子と男子のあれこれに興味を覚え始めた、マセた子供に対する教師のような表情だ。我ながら恥ずかしい台詞だとは思っていたので、レンはそれに苦笑を返す。男女平等に基づいた考え方を持っている彼は、働くだけが男の役割ではないと思っている。
「まあ、今の世の中、男も家事や育児が出来ないとな」
「それにしたって……」
 子供の扱いに長けているのは、そう考えて今日に向けて予行練習していた為であり。家事自体も、以前に手料理を振舞おうとしたぐらいなので苦手ではない。……もっとも、手料理は実現していない為、それについてフリューネは知らないのだが。
「この子は友人の子供だよ。……ああそうだフリューネ、明日、その友人がクリスマスパーティーを開くんだ。もし時間があるなら、一緒に行かないか?」
「パーティー?」
「ああ、ヒラニプラでな。どうだ?」
 明日はたくさんの人が集まるだろう。彼の友人知人を、フリューネに紹介したい。そんな思いからの誘いだった。
「そうね、これといった用は無いし、行くわ」
「……そうか、良かった。じゃあ、3人の所に戻るか」
 すっきりしたのか機嫌を直したイディアを抱きなおし、ノア達が待つテーブルへと戻った。まだ連絡がないことを考えると、ファーシーはまだお化け屋敷の中だろう。電話があるまでは、ゆっくりしていてもいいかもしれない。それにケイラも、そろそろバシュモを迎えに来るだろう。

「良かった……。バシュモ、レンさんと一緒だったんだ」
 好みそうなアトラクションを見回ってみたり、キャラクターグッズの店に行ってみたり、そうして片端から遊園地内を探していたらレンから電話があって。
『子供達に囲まれていてしばらくは動かないから、迎えに来てくれ』
 と言われてケイラは胸を撫で下ろしていた。幸い、その時の位置からそう遠くもなく、足取り軽く伝えられた場所に赴いたのだが――
「あ、いたいた」
 そこで、ケイラは傍まで行かずに立ち止まった。レンはバシュモを含めた5人でお茶を飲んでいる。レンとリネンの真ん中にフリューネがいて、隣になった彼女と、レンは穏やかな顔で話している。その表情は、サングラスを掛けていてもどことなく嬉しそうで、何だか彼が可愛く見える。
(自分が、ああいう風に人を想う事は今後あるのかな……)
 そんな事を考えながらテーブルに近付き、バシュモの名前を控えめに呼ぶ。
「おねにーちゃん!」
 ケイラに気付くと、バシュモは明るい笑顔の花を咲かせた。
「そういえばいなかったなー。どこいってたんや?」
「え? どこって……」
 本人にははぐれていた自覚は無いらしく、だからといってそれを諭す気もなかったケイラはとりあえず彼女の手を取った。今度は離れないようにしっかり握ると、レンとフリューネ、リネン、ノアに困り顔で、低姿勢ぎみに挨拶する。
「お、お騒がせしましたー」
 そうして、バシュモを連れて2人で歩き出す。レンの電話にファーシーからの着信があったのは、そのすぐ後だった。