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チョコレートの日

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チョコレートの日

リアクション

 一方、神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)は……。

「最近の男は軟弱でいかん!」
「このままでは、シャンバラの女性上位化は進む一方だ」
「女王は無論、代王も両名とも女性、ロイヤルガードも女性の方が多い」
「むしろ、契約者も女性の方が多い」
「草食系男子は増える一方。嘆かわしい事だ!」
 パートナーの尾瀬 皆無(おせ・かいむ)に付き合って訪れた狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)は優子と意気投合し、色気のない話で盛り上がっていた。
 皆無はホストとして、各テーブルに乱入している。
「2人共男勝りねぇ」
 優子同様、メンズスーツを纏ったルカルカ・ルー(るかるか・るー)がトレーを持って現れて、テーブルに注文の品を置き、そのままヘルプとして着席する。
「せっかくだから、ノンアルコールチョコビールおごるぜ!」
 乱世は上機嫌で、優子達にノンアルコールのチョコビールを注文する。
「ありがとう。ホストらしいこと、全くできなくてすまない」
「いやいや、ここは話をして楽しむ場所だろ。十分楽しませてもらってるぜ」
「そうか、それはよかった」
「ふふ……それにしても、優子さんのホスト姿、素敵ねぇ」
 ルカルカが優子を眺め、しみじみと言う。
「ゼスタに借りたものなんだが、変じゃないのなら、それはよかった。キミのホスト姿もなかなかなものだ」
「そう? こういう仕事も結構面白いなって思ってたところ。それに実は、私服はほとんどズボンだし、メンズ物も多いの」
「普段ぐらい、お洒落してるのかと思った」
「お洒落も必要に応じてるるけど、ね。ズボンよりスカートの方がなんか恥ずかしくてさ」
「まるで女の子みてぇだからな」
「そうそう、まるで女の子の……」
 そう答えかけて、ルカルカは声の方向へと顔を向ける。
「ってなんでカルキ達までいるのよ!?」
 ルカルカのパートナーのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)夏侯 淵(かこう・えん)が近くのテーブルにいた。
 もう一人、スレンダーな知的美人も一緒だった。
「そもそもちゃんとした女の子だもん!」
 同意を求めるように優子をちらりと見るルカルカ。
「女の子なのに、スカートが恥ずかしいのか」
 くすっと笑う優子。
「優子さんだって、普段スカート穿かないでしょ?」
「うん。私は女性だが『女の子』じゃない」
「ぶー……」
 ルカルカはぷっくり膨れる。
「とりあえず、客として来てくれたのなら注文お願いねっ」
 そして仕返しに高い物を頼ませてやると意気込み、パートナー達を近くに呼び、高級酒を勧めていく。
 優子がスレンダーな知的美女に目を留める。
「ところで、キミは……」
「こちらのフルーツの盛り合わせお願いします」
 美女は突然近くを歩いていた皆無を捕まえて、注文をする。優子の言葉を遮るように。
「喜んで、綺麗なお嬢さんー」
 ぱっと顔を輝かせる皆無。
 眉を寄せて険しい顔になる女性。
「ルカの代わりにダリルが女の子してくれてるのねー、ふふ♪」
「ルカ……」
 咎めるような低い声が女性から発せられた。
「この子は、ルカのパートナーのダリルンです。よろしくね」
 ルカルカがスレンダーな女性を優子に紹介する。
 彼女は……いや、彼はルカルカのパートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)なのだ。
「好き好んでこんな格好をしているんじゃない」
「わかってるわよー。カルキか淵の悪戯でしょ」
 届いたアルコールを皆に配りながらルカルカが言う。
「ルカ達が来る前に、桃幻水を飲ませてやったんだ。なかなかのモンだろ?」
 カルキノスが声を上げて笑う。
「綺麗だな。ドレスを着せてみたくなる」
「神楽崎……」
 優子の言葉に、ダリルは思わず額に手を当てる。
 そして、大きくため息をついた。
「カルキや淵は女体化してもあまり変わらないから、俺だけが実害を被るんだよな」
「ん? 待て! 今の言葉聞き捨てならぬ!」
 カルキノスと共に楽しげにダリルを見ていた淵が、突然テーブルを叩いた。
「淵は元々、まるで女の子だもんねー」
 にこっと笑ってルカルカが言うと「うーっ」と唸って、淵は静かになる。
 綺麗な顔立ちで、身長が低く長髪であることから淵は女の子に見られることがある。
 彼の場合女体化しなくても、女装で十分女の子に見えるのだ。
「おっまたせ〜」
 皆無がトレーを手に戻ってきた。
 注文したフルーツや、ルカルカがカルキノスに頼ませた高級ワインがテーブルに並べられる。
「そ、そういえば神楽崎」
 淵は話題を変えるために、優子に声をかける。
「なんだ? 更衣室ならあるけど、女性用の服はこのフロアにはないぞ」
「違う、その話はもういい」
 淵の言葉に、無言でダリルも頷いている。
「ええとな、このダリルだが」
 ダリルをぺしっと叩いて、淵は言葉を続ける。
「“覚醒光条兵器”を出せるそうだ。まだ見た事がないがな」
「意味もなく見せるものではない」
 届いたフルーツを食べながらダリルが言った。
「覚醒光条兵器か、それは凄いな。確かに無闇に見せるものではないし、使う場が少ないに越したこともないだろう」
「そうだな」
 そんな会話をしているところに。
「優子さん、はっぴーばれんたいーん」
 席を立っていたルカルカが戻ってきて、優子に袋を差し出した。
「勝ってね!」
 ルカルカは強気な笑顔でにこっと笑う。
「あ……そうか。ありがとう」
 優子は袋の中を確認して微笑んだ。
「友チョコって奴だから安心していいよ。ちゃあんと彼には手作りのをあげるつもりなんだから」
 てへへっと笑うルカルカを、優子は微笑ましげな顔で見ていた。
「あと団長にもあげるよ」
「俺達には?」
 グラスを手に淵が聞く。
「あげるあげる」
「キッチンにある大量の産業廃棄物のことではあるまいな」
「あ、あれは……」
 ダリルの言葉に、ルカルカは慌てる。
「でもあれだって、ちゃんと食べられるんだから、毒じゃないよ本当だよ」
「産業廃棄物?」
 優子の問いに、言いにくそうにルカルカは説明をする。
「彼や団長にあげるチョコケーキ……何度か失敗しちゃって。その失敗作が少しキッチンに残ってるの」
「少し? コンロもテーブルもサイドボードも埋まる量が少し?」
「ううっ……」
 ダリルの厳しいつっこみに、ルカルカは撃沈する。
「食べられるのなら消費しないとな。沢山もらえそうで、よかったな」
 笑いながら優子はダリル、カルキノス、淵に言う。
 ダリルはため息をつき、淵は苦笑。
 カルキノスは、ほろ酔いで乱世と盛り上がっており、聞いちゃいなかった。
「そうだ。ダリルが手を加えれば、見かけも味も美味しくなるよ」
「自分が貰うものを、自分で作れというのか」
「いいじゃん。今は綺麗な女の子なんだから」
 呆れ顔のダリルにルカルカがそう言うと、ダリルは自分が女体化していることを思いだし、ばつが悪そうにフルーツに手を伸ばした。
「こちらをご希望ですか、お嬢様?」
 それより早く、リンゴを摘まんだ優子がダリルの口に持っていった。
「はい、あーん。……ホストってこういうことするんだろ?」
 優子がルカルカを見ると、うんうんとルカルカはにこにこ頷いている。
「それはさすがにちょっと」
「遠慮するなんて可愛いー。君の緊張をほぐす為に、お兄さん何でもやっちゃよー?」
 皆無が立ち上がったかと思うと、室内にかかっている音楽に合わせて踊りだす。
 皆無はダリルが女体化した男だとは知らない。
「パラパラでマイアヒでウーウーウマウマなダンスも踊っちゃうよー?  お嬢さんが望むなら脱」
やめろ
 ダリルの強い声が響いた。
 他のメンバーは、囃し立てて笑い声を上げた。

 ――ホストクラブの営業が終わってから。
「場内指名……全くなかったよ。チョコレートも1個ももらえなかったよ」
 皆無は一人、片隅でしゃがんでしょんぼりしていた。
「優子お姉たまに対しては『女性として』口説きたかったんだけれどー、ランちゃん同様厳しそうな感じで隙がなくてー」
 ポン。
 いじけている彼の頭に、突然軽い衝撃があった。
「帰るぞ」
 乱世が皆無の頭を叩いたものを、彼に差し出す。
「え? うん……あれ? これ、もしかしてチョコレート!?」
「そうだな。中を確認してみろ」
「うん!」
 わくわく皆無は箱を開けて、中を確認する。
 中には、手の平サイズのチョコレートが入っていた!
「うわ……あ」
 ……但し、大きく『義理』の文字が入っている。
「はははは。勘違いするなよ? お前はあたいの舎弟だ。下僕だ。
 それでなくても甘い恋愛よりは、この世にはびこる悪党どもをぶちのめすのに快感覚えるようなあたいだ」
 ぐわしっと、乱世は皆無の襟首をつかむ。
「明日から早速悪人退治に行くぞ! キリキリ働け!!」
……やっぱりこういうオチなのねええええぇぇぇぇぇぇ
 義理!チョコを抱えた皆無は、乱世に引き摺られていった。