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【裂空の弾丸】Dawn of Departure

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【裂空の弾丸】Dawn of Departure

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第一章 機晶石 2

「……はあぁ……」
「ど、どうしたんですか……? 武尊さん。そ……そんなに辛気臭そうな顔して」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)がため息をつくと、レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)が心配そうな顔をした。
 二人がいるのは、飛空艇内の通路だった。艦橋部から乗組員室や機関室など、いろいろな部屋を調べて回っているところだ。
 ただし、武尊にとっては不本意ではあったが。
(ったく、これじゃあお宝探しなんて出来やしないじゃねえか)
 もともとは、一人で艦内調査に出る予定だった。だけどそれは建前で、本音は飛空艇に隠されているかもしれない何らかのお宝や財宝を探そうと思ってのこと。後で色々と難癖つけられて面倒なことになってはかなわないため、事前にベルネッサに調査のことは伝えておいたのだが。
 その結果、レジーヌまでお供についてくることになった。
「あ、あの、武尊さん。頑張りましょうね。きっと、この船を動かす方法がどこかにあるはずです」
 こちらはと言えば、調査に気合いが入っている。
 男性が苦手だというのに、よく頑張るものだ。武尊はひそかに感心しながらも、出来ればそのまま俺のもとから逃げていってほしいと思った。もちろん、いまさら無理なのはわかっているが。
「あれ?」
 そのとき、レジーヌがなにか発見したようだった。
「……た、たた、武尊さん。ちょ、ちょっとあそこ、見てみてください」
「ん?」
 飛空艇後部の格納庫。そこからほど近い倉庫の入り口に、なにやらごそごそと動く影があった。
「な、なんでしょうか?」
「さあな。さすがにこんな空飛ぶ船の上じゃあ、動物が紛れ込んだってのも考えられなさそうだ。ってことは、俺たちと別行動で艦内調査してる連中か、もしくは――悪党、とかか?」
 武尊は言いながら、腰のバットに手を伸ばした。
 世界樹で作りあげた高品質のバット。これでぶん殴れば、ひとたまりもないだろう。
 レジーヌも同じように、装備していた槍を握りしめる。
 二人はゆっくりと、怪しげな影へと近づいていった。

 ベルネッサたちは、動力炉のある部屋へとやってきた。
 そこはベルネッサが機晶石をはめ込んだ機械のある部屋だった。
 ふぉん、ふぉん――と、風の鳴るような音を発しながら、機晶石が蒼く輝いていた。
「これが、ベルネッサの機晶石か。またずいぶんと派手になったんだな」
 アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)が輝く機晶石を見ながら言った。
 すると、ベルネッサがむくれたように言い返した。
「しょうがないでしょ。あたしだって好きでこんなふうにしたんじゃないもん」
 そこに割って入ったのは完全魔動人形 ペトラ(ぱーふぇくとえれめんとらべじゃー・ぺとら)だ。
「まあまあ、マスターもベルさんも、いまはそんなことどうだっていいじゃない、お二人さん。それよりもまず、この船を動かす方法、でしょ?」
 幼い機晶姫のペトラに言われて、アルクラントもベルネッサも、確かに彼女の言う通りと頭を切り替えた。
「それにしても不思議だよねー、この機晶石。もしかして、中に人でも入ってるのかな?」
「まさか」
 ペトラの言うことに、桐生 円(きりゅう・まどか)が肩をすくめた。
「機晶石に人が入ってるなんて話、聞いたことないよ。第一、それなら機晶姫はどうするのさ。機晶姫の意思は機晶石に宿ってるとでもいうわけ? それとも、機晶姫に二人の意思があるとでも?」
「うにゅ……ぼ、僕……ただ、そうだったら素敵かなって思っただけで……」
 一気にまくしたてられて、ペトラは口をつぐむ。
「いや……」
 考えこんでいたアルクラントが、桐生たちに向けて顔をあげた。
「考えられない話でもないぞ」
 怪訝そうな顔をする桐生たちに、アルクラントが言った。
「ペトラはフードを取ると自我を失って暴走するんだ。目の前の敵を倒すためだけに、戦闘機のようになる。もしそれが、ペトラの中にある機晶石の過去の記憶だとして、フードを取ることがきっかけで表面化してるんだとしたら……おかしくはないかもしれん」
「ねえ、ちょっと待ってよ!」
 円が困ったように声を荒げた。
「ボクたちはそんなオカルトな話をしにきたわけじゃないでしょ! 仮に機晶石に人が入ってるとしたら、それはきっとこの船のホログラムを呼び出すためのプログラムが……」
『呼びましたか?』
「うわあぁぁっ!」
 突然、機晶石から現れたのは、例のホログラムだった。
 透き通った身体の冷然とした女性像は、驚いて逃げ出し、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)の背中に隠れた円を見ても、まばたき一つしなかった。
「あなた……」
 ベルネッサが、再び現れたホログラムに驚く。ホログラムは淡々と言った。
『お呼びのようでしたので。しかし、そう長くは持ちません。用件は手短にお願い致します』
「じゃ、じゃあ、ボクから質問!」
 円はホログラムの前に進み出た。
「その、たしか浮遊島を本部って言ってたよね。それってどういうことかな?」
『エラー……回答拒否』
「じゃ、じゃあ、えっとあなたの正式名称とか、所属とか、情報を教えて」
『エラー……回答拒否』
「じゃあ、無転砲の止め方!」
『回答拒否』
「機晶石のこと! それに船の機能のことも!」
『回答拒否』
「むきいいいぃぃぃ!」
 いくら質問しても答えは出ない。円は腹立たしくなって地団駄を踏んだ。
『ご用件は?』
「じゃ、じゃあせめて、これぐらいは教えてくれない? どうやったら、この船のコントロールを切り替えられるの?」
 ベルネッサがたずねる。ホログラムはしばらく黙ったあと、穏やかな声で告げた。
『……選ばれし者であれば』
「選ばれし者?」
『選ばれし者が触れれば……機晶石は呼び声に応えるでしょう』
 それだけを告げて、ホログラムは静かに消えてしまった。
「選ばれし者って……?」
 ペトラがたずねる。機嫌を取りもどした円が答えた。
「たぶん、ベルのことだと思うよ。この機晶石はベルのものなんだし。もしかしたら、触れてみたらなにか分かるかもしれない」
 みんなに見つめられながら、ベルネッサはゆっくりと機晶石に近づいていった。
 あたしが、選ばれし者? まさか……。そうは思いながらも、機晶石に手を伸ばすと、なんだか怖かった。もしかしたら電流でも流れてくるかもしれない。そんな馬鹿げたことまで考える。が、ついに機晶石に触れたとき――ベルはそれが余計な不安だったと知った。
(なに、これ……)
 暖かいものがどんどん身体の中に流れ込んできた。
 色んな景色が、色んな情報が、すべて頭の中に入ってくる。
 ベルは無意識のうちに、自分でも驚くべきことを口走っていた。
「ベルネッサ・ローザフレックが命ずる。飛空艇よ、時は来た。そのコントロールを我が手に委ねたまえ」
 すると、次の瞬間に、飛空艇の各エネルギー回路がいっせいに音を立てた。
 なにかが変わった。なにかが動き出した。それだけは、残された者たちにもハッキリとわかった。
 もう、機晶石は穏やかに光り輝くだけになった。ベルネッサは機晶石から手を離した。
 そのとき、円の銃型HCを見ていたオリヴィアが言った。
「ブリッジから通信があったわ。どうやら、船のコントロールが自動操縦からマニュアルに切り替わったみたい。成功よ」
「良かったぁ……! ねえ、ベルさん! ……ベルさん?」
 ペトラが喜んでベルに話しかけたが、ベルはじっと機晶石を見続けていた。
 ベルの心の中に、不思議な記憶が目覚めていた。あたしは、これを確かに知ってる……。でも、どうしてだろう。初めて見たはずなのに。初めて、パラミタにやってきたはずなのに。どうして……。
 ガタンッと飛空艇が揺れたのはその時だった。なにかがぶつかったような衝撃だ。しかも、それは一つではなく、何度も衝撃が飛空艇を揺さぶった。真っ赤なランプが艦内を照らし、緊急警報が鳴り響いた。
「いったいなにが……っ!」
 ベルが慌てて言ったそのとき、ブリッジの本名 渉(ほんな・わたる)から通信が届いた。
「こちらブリッジの本名渉。飛行生物です! 謎の飛行生物が多数、飛空艇を襲撃しています!」
 窓の外を見ると、鳥や小さなドラゴンのような謎の生物たちが、飛空艇の周りを飛び交っていた。